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小説(魔法少女リリカルなのは:二次小説)
Memory31 『戦う理由(わけ) 後編』

日曜日の午後――ヴィヴィオは自分の欠点を克服するため、日々鍛錬。でも煮詰まってきました。

ここは基本に立ち返ってみようと、いろいろお世話してくれているノーヴェ先生に相談。トレーニング中に聞いたところ。


「……もっと早く相談しろよ。大会まで日がないんだぞ」


家近くの公園でこんな事を言われてしまいました。だよねー、でも呆れないでほしいなー。


「いやー、いろいろ試してたら楽しくなっちゃって。……とりあえずアバンストラッシュはマスターしたよ! ランサーフォームで!」

「お前はなにしてんだ! ……そういやフォームは」

「えっと、ブレードフォームとナックルフォームはロールアウトしたよー」

「そりゃなによりだ。じゃあそこのテストはまた後日として……ヴィヴィオ、お前の弱点はなんだ」

「防御が脆くて、攻撃も出力が今ひとつ。全体的にパワー不足」


それがヴィヴィオの弱点……残念ながらなのはママやフェイトママ達とは違う。

聖王の盾も消えている以上、スペックを真正面からぶつけ合う事はできない。

魔力量はともかく、それを攻防に生かせない。だからクリスも基本は防護服型なんだよ。


「じゃあ美点は」

「んと……愛らしさと将来バスト百センチオーバーなところを除くと」

「……選択肢へ入れる前に省けよ。あのなぁ……お前の美点は目の速さだ」

「目?」

「アインハルトとの試合でもそうだったが、お前は視野が広くて距離感も上手く掴める。
その目を生かせる反応速度、更に前へ踏み込む度胸がある。それを最大限に生かせるスタイルは一つだ」

「反応速度、前へ……あ! カウンター!」

「正解だ。お前はタイプ的に言えば恭文寄りなんだよ」


そこでドキっとするのは、ヴィヴィオが恭文を大好きだから。同時に目標の一つだから、あの小さくて強い背中をすぐに思い出す。

女の子としても、魔導師としても、追いかけたい背中の一つ。こうなれたらっていう、大事な夢の一つ。


「瞬間詠唱・処理能力やそれに基づく特殊魔法、近接技能に注目しがちだが、純粋出力で言えばなのはさん達どころかお前より下だ。
ぶっちゃけアタシも敵だった時は、こんな奴には変な魔法を使われても負けるわけないって思ってた」

「あはは、言うねー。今はどう?」

「ぶん殴りたい勘違いだな。……恭文は運の悪さから鍛えられた超直感、そして高い発想力が武器だ。
その下地があるからこそブレイクハウトや瞬間転送、鉄輝一閃と言った魔法達が生まれたし生きてくる。
なのでヴィヴィオ、お前もその基本スタイルは崩さない。同時にお前だからこそ使える独自魔法を生み出すんだ」

「独自魔法」

「スロット数の問題は出てくるが、IMCSは単なる格闘大会じゃない、それも含めた魔導師の技能を試す場でもある」


ヴィヴィオの発想力で……ヴィヴィオの持っている力を最大限生かす。ヴィヴィオの、ヴィヴィオを強くするための魔法。

今はまだどんな形か分からない、できるのかという不安もある。でも両手をじっと見つめてみる。

そうしたらなんでだろう、その中にたくさんの可能性が詰まっているように思えた。


「やる……絶対やる!」

「よし、よく言ったな。そうそう、カウンターの利点を教えておくぞ。お前には耳タコかもだが、それなら再確認だ」

「えっと……まずカウンターは相手が攻撃した時、それが当たる前か回避しつつ攻撃を当てる手法だよね。
ボクシングで言うと腕を交差させて当てるのがクロス・カウンター」

「正解。じゃあ利点はなんだ」

「相手の攻撃と、突撃の勢いがこちらに上乗せ。だから威力が倍加される」

「まぁ半分正解ってところだな。その認識はちょっとだけ違う。……いいか、人は殴られる時、反射行動を取る」


ノーヴェは右へ振り向いて、両拳を高く構え……右ハイキック。それは鋭く飛び、ヴィヴィオでも出だしを見切るのがやっとだった。


「もちろん蹴られた時もな。例えば身を引いたり、目をつぶる。顎や首の筋肉を緊張させるなどして、防御行動を取るんだ。
防御に回っていれば自然な事だが、攻め手側だと防御反応は鈍くなってしまう。意識のスイッチができないというか」

「あ、だからヴィヴィオの言ってる事はちょっと違うんだね。そういう隙を突くから、ダメージが大きくなる。じゃあ衝突速度とかは」

「多少関係あるが、反応の有無が一番大きいそうだ。もちろんこれは魔導師戦闘にも適応される。
デバイスのオートバリアである程度は抑制できるが、それを操るのも人間。
反応の差は対戦中にも応用できる知識だし、しっかり覚えておけ」

「はーい」

「とにかくカウンターは反応の隙を突く、見えず予測できない攻撃に繋がりやすい。それが利点だ。
欠点は相手の攻撃が捌き切れないものだと、仕掛ける前に大ダメージが予測される事。
更にカウンター狙い一直線だと、対応されやすいところだ。相手の攻撃を待つ試合展開になるからな」


普通の格闘技ならまだなんとかなるけど、魔法戦も絡むと危険……か。でも大丈夫、答えなら既にノーヴェからもらっている。

だってノーヴェ、さっきこう言ってたでしょ? ヴィヴィオは目がよくて、前に踏み込めるって。


「だからヴィヴィオはどんどん踏み込むんだね。待ちではなく、攻める中でのカウンターヒッター」

「正解だ。ただもう一度言うが、お前はなのはさんやフェイトお嬢様みたいにはできない。
当然大技の打ち合いなんてもってのほかだ。……そういうのは戦術と目の良さでかわし、一撃をたたき込め。いいな」

「分かった」

「それじゃあ前置きは済ませたので、予選会までこれをつけてろ」


ノーヴェが渡してくれたのは、白黒ツートンカラーのリストバンドだった。えっと、生地はスポーツ用品としてはよくあるタイプ?


「両腕のどっちでも好きにしていいぞ」


なら右腕に装着っと・ゴム的に伸びるので、普通のリストバンドみたいに付けられた。でも変化は特になし。

……と思っていたら装着箇所を中心に、突然重量が生まれてくる。それも一キロやニキロじゃない。

腕が上がらなくなる重さで、しかも魔力もなんか……身体の中でゾワゾワしてくる。


「の、呪ったなぁ……!」

「まぁ間違いじゃあない。ソイツは魔力そのものに負荷をかけるアイテムだ。サリエルさん達が開発したものでな、分けてもらった」

「サリエルさん達が?」

「正確にはマリーさんが発案し、サリエルさん達が面白がって手伝ったもんだ。
……ハードな筋力トレーニングは身体への負荷が半端ない、お前達くらいの年頃にはやらせられない。
やったらほれ、恭文みたいになりかねないからな。あれも実戦で死にかけながら鍛えたようなもんだ」

「じゃあ、魔力負荷っていうのは」

「そこを防ぐため……魔力負荷ならまた話は変わってくる。肉体は大事に育てなきゃいけない時期だが、魔力の成長率が高いのもお前くらいの年。
これはな、そういう若年者向けに開発したものなんだよ。一つは負荷状態の魔法運用訓練で、より効率的な魔力運用を身につけるため。
もう一つは負荷と開放を繰り返す事で、魔力成長促進。もちろんリンカーコアや身体にガタがこない程度のものだ」

「にしては、きついなぁ」


倒れ込みそうになりながら、力を……魔力から踏ん張り、しっかり深呼吸。よし、とりあえず倒れる事はないぞー。


「格闘・魔法訓練とは別の基礎固め、寝る時とお風呂の時以外はつけておけ」

「分かった……頑張る! あ、でもこれって」

「安心しろ。リオにはウェンディが、コロナにはオットーがついて説明している頃だ。あむにはなのはさんだな」

「りょうかーい」


IMCSは延期になってるけど、時間は限られている。あと五か月……じゃなかった、四か月。

その間に格闘士としても、魔導師としてももっと強くなる。それで必ず見つけるよ、ヴィヴィオだけの新魔法。

出力勝負じゃない、ヴィヴィオのやりたい事を叶えられる魔法。よし、やるぞー!


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


準決勝――荒れ果てた荒野、乱立する岩山達を見て思い出す。そう言えばレイジと一緒にバトルした時もこんな場所だった。

そんな空を飛ぶビルドストライク……立ちふさがるのはどういうわけか盾二つを構えたギャン。

金ブラウンでカラーリングされたそれは、見て分かるほどの情熱が込められていた。そう、サザキは強い。


確かにクセはあるし、戦い方も乱暴。でもギャンが好きで、強くしたいという気持ちは嘘じゃない。

そこだけは認めているし、パートナーを断り続けていたのも僕のエゴだと……今更ながら突きつけられた。


『前回の不戦勝で、圧倒的なまでに僕に運が向いてきた!』


ギャンは岩山頂上を駆け上り、そのまま飛び降りながら僕達の前方百五十メートルほどに着地。


『ははははははは……! 更なる武装強化を施した、このギャンギャギャンで! 世界大会への切符を手に入れさせてもらう!』


盾を構え、こちらの突撃をけん制。そして二つの盾から弾けるようにミサイルが連続射出。

火力はパワーってやつですかー!? レイジはビルドストライクを左に飛ばし、強化型ビームライフルでけん制射撃。

でも足りない……強化型ビームライフルは連射力も若干落ちてるから、数に来られるとちょっと弱い。


「レイジ、イーゲルシュテルン!」


そこでイーゲルシュテルンもまき散らされ、なんとか前方の安全は確保。でも以前として鳴りやまぬ砲声。

決して消えない軌道上のミサイル雲に、背後やそれまでいた場所で次々と着弾するミサイル達。

レイジは焦った表情で上昇し、追撃するミサイルを引き付けながらもすり抜ける。でも、おかしい。


イーゲルシュテルンなんて、いつもなら普通に撃っていたはず。それにビルドストライクの動きもやや鈍いような。

嫌な予感が走り続けていると、前方からも新しいミサイル達が襲ってきた。


「前!」


数発はスラロームで回避するものの、一発が直撃コース。チョバムシールドで防御するも、それだけじゃ留まらない。

追撃のミサイル達が殺到し、ビルドストライクが爆炎に包まれた。結果左腕が派手に吹き飛び、ビルドストライクは落下。

機動制御も失い、衝撃でビームライフルも落とし、ただ重力に身を任せるのみ……カメラ端にギャンギャギャンの姿を捉える。


盾を捨て去り、仕留められると言わんばかりにビームサーベルを抜刀。背部ロケットユニットは火を上げ、力を溜めるようにしゃがんでいく。


「レイジ!」

「よくもぉ!」


墜落直前で体勢を立て直したビルドストライクは、反転しながら地面すれすれに飛行。更に右手でビームサーベルを抜刀。

それ目掛けてギャンギャギャンも射出される。そう、あれは射出だ。それほどに鋭いロケットスタートで、二機の距離は一気に近くなる。


『もらったぁぁ!』

「お前ごときぃ!」


そして二機は右肩から衝突する。そう、衝突だ。間合いを見誤った……サザキが? それともレイジが?

そこから復帰したギャンギャギャンが刺突。でもビルドストライクは一気にしゃがみ込み。


「このオレの!」


ギャンギャギャンが反応する前に、カウンターで右切上の斬撃。右脇腹から左肩までを両断し、一瞬で斬り捨てた。


「敵じゃねぇ!」

『ギャンギャギャァァァァァァァァァァン!』


どんな断末魔だろう。ビルドストライクは爆散するギャンギャギャンから退避し。


≪BATTLE END≫


バトルは終了――涙目なサザキは気にせず、ビルドストライクを回収する。よかった、シールドはアレだけど、左腕は健在。

衝撃に耐え切れず外れただけだ。まぁ傷だらけだけど、これくらいなら補修も楽かな。

ただ問題は……目の前で苦笑いしつつ、頭をかくレイジだった。


「セイ、悪い……相手が相手だから、楽勝だと思ってよ。ちょっと油断しちまった」

「レイジ、さっきの戦い」

「あーあー、なんか腹減っちまったな。悪い、先に帰らせてもらうわ」

「あ、レイジ!」


そのまま笑って立ち去るレイジ……それに対し、僕はなにも声をかけられなかった。

分かっているんだ、レイジはただ油断したんじゃない。やる気をなくしている……戦う理由を、なくしたんだ。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


イオリくん達、なんとか勝った。やっぱり準決勝だし、相手が強いんだよね。だからほっとしていると。


「……いかんな」

「え?」


ラルさんが二人を、去っていくレイジくんを厳しい表情で見ていた。怒っているような、叱りつけているような……そんな厳しさが感じられた。


「決勝に駒を進めることができた、それはよしとして……レイジ君のマニューバに精細さが欠けている。こんな状態では次の決勝、危ういな」

「どういう、事ですか。だってイオリくん達、勝ったのに。ガンプラがちょっと壊れたのも、相手が強かったせいじゃ」

「ところが、そうでもないのよねぇ」


そこで左側からやってきたのは険しい表情の、紫髪ロングなお姉さん……あれ、この人って!


「あなた……え、どうしてここに!」

「おぉ♪ キララちゃ……ミホシくん、どうしたのかね」


取り直した!? 今すっごく表情緩んでたのに! プライベートだからかな! プライベートだからなのかな!


「なによ、仕事絡みなんだから見に来ても問題ないでしょ?」

「だって、あなたはイオリくんにあんな酷い事を」

「それなら本人にもちゃんと謝った。アンタだって見てたじゃないの」


なにを今更という言い草に、ちょっとカチンとくる。わたし、この人は好きになれそうもないかも。

確かにイオリくんは許してるけど、反省しているように見えないもの。正直近づかないでほしいっていうのが……本音。


「とにかく……戦ったから分かるわ、レイジとあのサザキって子じゃ、間違いなくレイジが格上よ。
本来ならあんな苦戦はしないし、あのマニューバだって前回や私の時に比べたら天と地……ほどの差がある。ねぇ大尉」


え、大尉ってなにかな。軍人さんの役職だよね、でもこの人はそういう風に見えないし……えっと、聞く空気じゃないよね、うん。


「なにがあったのよ、一体。せっかく紅の彗星が辞退して、勝ちの目が大きくなったってのに」

「それが原因だ。彼らと紅の彗星――ユウキ・タツヤは一度戦い、そしてセイくん達が負けた。
しかしビルドストライクもブースターやライフル完成前。そこで選手権で、完璧な状態で再戦しようと約束していてな」

「あらら……そりゃまた。でもそれをいちいち気にして戦えないなんて、馬鹿らしいわ。すっ飛ばすしかないじゃない」

「あの、そんな簡単に言わないでください! イオリくん達が先輩の事を気にしているなら、それは」

「いいや、ミホシくんの言う通りだ」


そんな……ラルさんの言葉に納得はできない。だって、普通の辞退じゃない。学校まで辞めて、行方も分からなくて。

でもラルさんはわたしの肩を叩いて、駄目だと首を振る。そうしてミホシさんの言う事が正しいと……認めてしまう。


「彼らにも分かっているはずだ。――戦う理由のない者に、勝利は訪れんという事を」

「戦う、理由」


ガンプラの事がまだよく分からないからだろうか。二人が求めている事、それは余りに厳しく感じた。

どうすればいいの。ただガンプラが好きで、バトルが好きだけじゃ……駄目なのかな。私じゃ先輩の居場所なんて、探せないし。

あの輝きが曇っている。そのまま永遠に失われてしまいそうで、たまらなく怖くなってしまった。




魔法少女リリカルなのはVivid・Remix

とある魔導師と彼女の鮮烈な日常

Memory31 『戦う理由(わけ) 後編』




◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


準決勝は終了した。でもこれ、集中しないと絶対間に合わないなー。あははは、どうしてこうなったのか。

苦笑しながらも会場を出て、定期的になっている電話タイム。会場隅でしばし待っていると……ようやく繋がった。


「もしもし、アラン?」

『あぁ。すまないね、こちらも忙しかったものだから……そうそう、第二ブロック決勝進出おめでとう。相変わらず無茶苦茶な男だ』

「ありがと」

『塾内トーナメント時の精彩はようやく戻ってきた感じかな。……子育てのせいか、君のファイター能力もややさび付いている。
このままでは我がPPSE社ワークスチーム、及びボクのガンプラには勝てないよ?』

「いきなりだねぇ。でも相変わらずそうで安心したよ」

『それはなによりだ。……君が聞きたい事も理解している。しかし社内機密というものがあってね、ボクも話せないんだよ』


ですよねー。まぁそこは分かっているので、直接教えろとは言わない。

アランもそのつもりだから前置きしてくれたんでしょ。なのでここからはへ理屈タイム。


「じゃあしょうがないね。でもタツヤが心配だなぁ、学校にも行かずふらふらしてるんだもの」

『大丈夫だ、タツヤなら衣食住もしっかりしている。今頃は筋トレに励んている……まぁボクの勝手な想像だが』


そう言いながらちゃんと教えてくれるアランには強く感謝。……間違いない、タツヤはPPSE社にいる。

二代目メイジンが倒れているのなら、襲名準備も必要だしね。それで詰めなきゃいけなくて……ってところかな。

なおアランがここまで教えてくれる理由は、僕がメイジン候補について知っているからだよ。


そうじゃなかったら多分電話は切られていた。それに感謝しつつ、勘違いを訂正しておこう。


「OK、じゃあこの話はもう終わろう。……あと子育てもあったし、さび付いていると言われたら否定はしないよ。
でもだからこそ得たものだってある。だから宣戦布告だ、アラン・アダムス。それも大事に持った上で――お前達に勝つ」

『全力できたまえ。ボクも、そして彼もそんな君と戦う事を望んでいる。では、世界大会で』

「世界大会で」

『あ、そうそう……確かアイリ達は一歳の誕生日を迎えていたね。遅れてすまないが、誕生日祝いを送っている。受け取ってくれ』

「ほんとに!? ありがとー! 必ずお礼はするから!」

『なら、そこも世界大会でかな』


ほとんど答えを言っている事に苦笑しながら、僕達は電話を終える。そんな僕の前にシオン達がさっと現れた。


「ユウキさんはPPSE社で間違いありませんか」

「うん。アランも忙しいって言ってたの、襲名準備じゃないかな」

「パーティーとかはあるのか……もぐ」

「オレ達は招待されねぇだろ。どっちかって言えば嫌われもんだしよ。……おい、それやばくねぇか!?」

「だよねー。だからダーグの話も、最初は出るつもりなかったし」


うん、単純に子育てしてたってだけじゃないのよ。ほら、僕達ってPPSE社に喧嘩を売ってるようなものだし。

個人でやるならともかく、そういう目的なら目立ちすぎるかなーって思ってて……でもメイジン候補の話も絡むから、あんまり話せなくてさぁ。

まぁなんとかしますか。そのために意を決して、第一種忍者資格もゲットしたわけで……フェイトには泣かれたけど。


いや、怪我とかが、ちょっとね。そんな泣くほどじゃないと思うんだけど……なぁ。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


ジャブローを駆け抜ける赤いザク……シャアザクではなく、ザクアメイジングだが。崖を駆け下りつつ、ハンドガンで左右へ連射。

放たれる弾丸で次々とジム……型の的を打ち抜き、あっという間にトライアル終了。

ラボに置かれていた数十メートル規模のユニットベース、そこから粒子が消える中、タツヤはやりきったという顔で髪を下ろす。


「タイムは三十秒、命中率九十八パーセント……鍛えてるね、タツヤ」


トライアルの結果には僕も満足。いつもの笑みを浮かべたタツヤとザクアメイジングには、もう感服するしかない。


「ザクアメイジングもワークスモデル顔負けだ。でも迷いはないかい、予定とは大幅に変わっているが」

「ないよ。二代目には挨拶……っと、まだ面会謝絶だったね」

「意識も戻っていない状態だ。どうやら随分前から無理をしていたらしい」

「長くは、待てないぞ……か」


タツヤが急に訳知り顔でつぶやいた。なんだろうと思っていたが、すぐに二代目メイジンからどこかで言われた言葉だと悟る。


「二代目メイジンから、かい」

「あぁ」

「それとタツヤ、おっかさんから電話がかかったんだが」


……説明が必要か。おっかさんというのはクラモチ・ヤナ女史だ。ガンプラ塾が健在の頃、彼女はタツヤを追いかけカフェテリア店員をしていた。

働きぶりと彼女の作るご飯はなかなかで、いつの間にか塾生全員のおっかさんになっていたという……恐ろしい人だ。

もうガンプラ塾はないというのに、その呼び方だけは変わら……やめよう。おっかさんのご飯が食べたくなる。


「ヤナから? あー、トライアル中で携帯の電源を切ってたから」

「それだ。質問だが、コウサカ・チナという名前に聞き覚えは」

「ある。イオリ・セイ君の同級生で、僕の後輩だ」

「彼女、どうも聖鳳学園で君の行方を聞き回っているらしい。先生方の一人が君の実家に連絡してね」

「……そうか」


タツヤはザクアメイジングをケースに仕舞い、ボクの脇を抜けラボ入り口へ歩いていく。


「どこへ行くんだ」

「明日の襲名披露までには戻る」

「そういう事じゃない。このボクを置いて、どこへ行くんだと聞いている」


振り返り、タツヤに笑いながら親指で自分を指差す。あの時もこういう事があったなと、つい笑ってしまった。


「トーナメント開始時、ボクの言った事を覚えているかい?」

「……そのガンプラを見れば分かる、ボクの出番はない」

「そう。そしてこう続けたね、ボクはただ……ボクの見込んだファイターがどこまで行けるか見てみたいんだと。だから見せてくれ、今の君を」

「アラン」


タツヤは言っても無駄と思ったのか、足を止めてくれた。……まぁ、社員としては問題だよね。

タツヤがこれからやろうとしている事は、二代目メイジンが倒れた事と同じレベルでトップシークレット。

それで外部の人間に会おうと言うのだから……だがボクも男であり、ガンプラビルダーだ。


そして男としての責任がある。タツヤを自分の夢へ巻き込み、嘘つきにしてしまった責任がだ。

それを謝る事すら今はできない。だからこそ付き合おう、だからこそ見届けよう。

これはタツヤが真の三代目になるなら、絶対に必要な事。今進む道は、ボク達二人の夢を叶える道だ。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


もし……準決勝でユウキ先輩のザクと戦っていたら、多分負けていた。口ではああ言っていても、レイジだって同じ気持ちだ。

そこでマオ君と会う前、レイジに話した様々な要因が絡む。今はそこにガンプラ塾出身ってのがつくけど。

でも、それでも僕達は逃げる事なんて考えていなかった。ほんと、どうしてなんだろう。恭文さんにも事情があるって聞いた。


それは僕達が触れられないほど深くて。なのに、なぜが消えない……どうしてが消えない。

こっそり準備していたあるものを組み上げながら、どうしようもない気持ちで苛まれる。


「セイー、コウサカさんがいらしたわよー」

「……はーい」


組み上げは完了したので、そのまま部屋を出る。店へ向かうと、委員長がガンプラを持って立っていた。

なお母さんは僕達の間に立って、なぜか何度も頷きながら僕と委員長を見比べる。……なんか、存在が邪魔。


「いきなりお電話して、ごめんね」

「ううん。コンプレッサーを使いたいんだよね、使い方は」

「分かる。美術部員だから」

「美術部、エアブラシも使ってるの!?」

「実は」


そう言えばエアブラシアートとかってあったなぁ。ネイルアートもエアブラシを使うんだっけ?

不思議な広がりを感じながら、今度は作業・塗装ブースへ。エアブラシというのもまた奥が深い。

筆塗りや缶スプレーとはまた違って……初期投資もあるけど、そこはあれだ。貯金しようか。


とにかく完成していたAGE-1を一旦バラし、割り箸に突き刺す。あとは発泡スチロールに突き刺し、色ごとにブラシをかけていく。

噴き出し始めと終わりはかけず、薄く何層にも分けてかけていくイメージ。そしてやる事がなんにもない。

あの、アレなんだよ。塗料の濃度とかは教えたんだけど、あとは経験からささーっとできちゃって。


「うん、上手だよ。とても丁寧だ」

「そ、そうかな。……今日はレイジくん」

「きてない……先週の準決勝から会ってなくて」

「もう、金曜日なのに」

「レイジはなんにも言わないけど、裏表のない奴だからね。すぐ分かるよ」


心配そうな委員長には、大丈夫と苦笑。それからブース脇に置いていた、修理直後なビルドストライクを見た。


「レイジはさ、僕がガンプラバトルをしようって誘ったんだ。興味なさそうだったけどね。
でも……どうしてもアイツに、僕のビルドストライクを操縦してほしいと思って」

「……どうして」


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


自然とそう聞いていた。また困らせるだけかもしれないのに……そうだ、わたしはみんなを困らせた。

力になろうとしても空回りするばっかり。そうして掴んだ答えは、『なんにもできない』だった。

わたしは、無力だ。それが悔しくて、エアブラシを持つ手が軽く震える。


「僕、操縦ができないんだ。信じられないでしょ? 父さんなんてバリバリファイターなのに。
父さんみたいに、父さんみたいにって考えてるせいなのかな。それで勝てないのが悔しくて……そんな時レイジに会ったんだ。
レイジは僕の理想を体現してくれた。それが押し付けでエゴだって分かっていても……一度ね」

「うん」

「選手権に遅れてきた事があったんだ。その時はガンプラが好きじゃないんだから、来なくてもしょうがないと思った。……ムカついたけどね」


きっと一回戦の話だ。でもその時……そっか、その時は声をかけたりしなかったから。

知っているのはユウキ先輩だけ、なのかな。声をかけていれば、イオリくんの思い出に入れたのかなと、少し寂しかった。


「でもやって来た。あとからラルさんやレイジ本人に聞いたら、知り合いの人と特訓をしてたんだって」

「そう、なんだ」

「そうまでして戦いたかったユウキ先輩がいなくなったことで、レイジがやる気なくしてるのも仕方ないよ」

「ガンプラバトル、やめちゃうのかな」

「それはないよ」


イオリくんはわたしの気持ちを知ってか知らずか、背中をぽんと叩いてくれた。そうして大丈夫と、星の瞳で笑ってくれる。


「勝手な思い込みかもしれないけど……レイジにとってガンプラは、多分」


……その言葉がなんだか、いいなぁと思った。エゴで押し付けから始まったかもしれない。

でもレイジくんもイオリくんを信じて、イオリくんもレイジくんを信じてる。だから迷いなく、くるって言えた。

信じてるから、自分にできる事で強くなろうとする。信じているから、くる事を疑わず待っている。


もしかしたらわたしがなにかする必要なんて、なかったのかも。単なる一人相撲……だったのかな。


「ところでぇ……!」


そこでイオリくんがいきなり怒った声を出しながら、ブースの入り口に振り返る。

わたし、なにかしたのかな。不安になりながら振り返り、つい身を引いた。だって……玄関からお母さんが覗いてるの。


「なに見てるのさ、母さん!」

「私の事は気にしないでください!」

「気になって仕方ないよ!」


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


金曜日――放課後だけど予定外の事で忙しくなるのは、やっぱりデフォだった。どうしよう、泣きたい。

ダイジェストだけどどういう事が起こったか、説明していこう。まず日曜日の夜、ここは普通だった。

問題は月曜日から……六割まで進んでいた改修作業。それを邪魔したのはやっぱり。


「ヤスフミ、あの……私もやっぱり手伝うよ」

「フェイト、フェイトは応援してくれるだけでいいの。それが救いなの」

「だからひどいよー! わ、私だって奥さんなんだから! 頑張れるんだから!」


フェイトだった。なだめようとしても、フェイトはさっとクロスボーンをキャッチ。ちょ、動き速いし!


「えっと、これの色を塗ればいいんだよね。うん、任せて」

「駄目だって! まだ作業中だから!」


とりあえず止めなくてはと手を伸ばしかけたところで、バキっという音が響く。

……恐る恐るクロスボーンを見ると、フェイトが強く握ったせいだろうか。左肘関節がへし折れていた。


「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

「え……ど、どうして! ヤスフミ、これ壊れてるよ!」

「壊したんでしょうが! この馬鹿ぁ!」


とりあえずフェイトはしばき、クロスボーンは回収。その後たっぷりお仕置きして……その日は腕の修理だけに時間を取られた。

火曜日――学校から帰って、すぐ作業を始めよう。さぁさぁ頑張ろうと思っていたところ。


『ムリ……ムーリー!』

「……やるぞー! 変身!」

「ヤスフミ、お前もうやけくそじゃね?」

「ちくしょー!」


×たまと遭遇……しかもコイツがまた腹立つくらい強くて、海里達と夜になるまで追い回していた。

それが終わりなんとか家へ帰ってきたら、フェイトが涙目でガッツポーズしてくる。


「ヤスフミ、昨日はごめん……あの、今度はお話もちゃんと聞くから手伝わせてほしいんだ。奥さんとしてピンチは見過ごせないし」

「ピンチにしているのはフェイトだからね!? あとガッツポーズはやめて! おのれがそれやると失敗フラグでしょうが!」

「そ、そんな事ないよ。うん、大丈夫。ちゃんとアドバンスド・ヘイズルも作れたし」

「……パーツを何個壊したっけ、その合間に。あのね、もう時間がないの。そんな事している余裕は一切ないの。
フェイトのレクチャーしながら作業を進めるなんて無理なの。お願いだから、温かく圏外から見守っていて」

「だ、だから大丈夫だよ! アドバンスド・ヘイズルで覚えたし!」

「それで肘関節を壊したのは誰だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ! それで昨日は作業が進んでないんですけど!?」


そんな問答をしている間に子育ての時間……親としての責務は放棄しちゃいけません。

アイリ達には焦りはすっ飛ばし、目いっぱいの愛情を注ぎました。そう、アイリ達はやっぱり大事です。

なおその後にフェイトの熱意を買って、作業させたところ……せっかくのオリジナル武装を三回連続で破壊してくれた。


結果フェイトは作業室出入り禁止が言い渡された……僕ではなく。


「ああもう! へいとは邪魔ー! もう出入り禁止だから!」

「そんなー! だ、大丈夫……うん、次は」

「大丈夫じゃないわよ! そう言って三回目よ、三回目! 旦那様の足を引っ張りたいわけですか!
とにかく出入り禁止! 旦那様はついつい温かく受け入れちゃうけど、今は時間がないの! 手伝わなくていいから!」

「うぅ、ヤスフミー!」

「フェイト、お願い……温かく見守って。じゃないと本気で負ける」

「ふぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」


そう、レヴィとキリエに。二人の作業すら邪魔してたからね、昨日は。僕もカバーできないって。

ていうか壊れていたのを修理した、その直後にまた壊してくれるし……これじゃあ完全に作り直しだよ!

せっかくの新武装なのに、ロールアウトできないよ! このせいで完成度が八割になるし!


水曜日……もう学校休んで作業したいなぁ。そんな事を考えるほどに追い込まれていた。

しょうがないので模型部の一角を借り、集中して作業。これなら大分進むなと、作業を初めて一時間後。


「どうもー。聖夜中・新聞部でーす。蒼凪くん、早速だけどインタビューをお願いします!」

「……は?」

「ほらほら、ガンプラバトル選手権、決勝まで進んだでしょ!? しかも君は元ガーディアンで、中等部生徒会にも貢献度が高い!
新聞部としては放置できないんだよねー! ささ、ガンプラ作りは一旦置いて、先輩とお話しようー! えっと、まずは」

「置いとけるかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


なので早々に学校から退散……学校ですら安息の地がないってどういう事! 嘆きながらも家へ帰り着いた。

でも休む暇なんてなかった。リカルドとの交渉も橋渡しし、やっぱり出てきた×たまに対処。

木曜日――フェイトが出入り禁止を解除してもらおうと、僕にジト目攻撃。意味がないからやめてほしい。


涙目で、しかも小動物みたいにしても全く意味がない。それでもこの日は一応、順当に進んだ。

そして今日……すぐに帰って、みんなと一緒にガンプラ作りだーと思っていたら。


「……そうか。彼はPPSE社――ガンプラ塾近辺にいるのだな」


大尉に呼び出され、セイの家近辺まで出向いた。甘味屋で大尉は栗あんみつのかき氷を食べ、僕はぜんざいをすする。

もうお代わり三杯目だけど許してほしい。食べなきゃやってられない。甘いものがなかったら、笑顔を取り繕えない……!


「予測の段階になりますけどね。でも大尉」

「分かっている。ただその話、三回戦終了後から耳には入っていた。……伝わるものだよ、巨星が落ちる時は」

「それでレイジ、状態は」

「よろしくない。作品知識も深くないレイジ君にとって、バトルするモチベーションというのは対戦相手に依存しているからな。
まぁレイジ君に限らず、ファイター専任でガンプラやガンダムに愛着がないタイプにはよくあるスランプだが」

「まさに今、試されているわけか」


大尉と一緒にぜんざいとかき氷を食べきり、甘味屋から出た。するとなんという偶然だろう。

レイジがつまらなそうな顔で、僕達の前を通り過ぎた。


「レイジ君、バトル相手を探しにきたのかな」


レイジは足を止め振り返り、向かい側にあるホビーショップを見る。バトルルームとかかれた看板があり、その下には大きな窓ガラス。

そこで小さな子達が動くガンプラを、楽しげにプレイしている同じくらいの子達を見て笑っていた。

目をキラキラさせながら、楽しそうに笑ってるの。ああいうのを見ると胸がほっこりするんだけど。


「いい感じだなぁ。みんな、キラキラしてやがる」

「えぇ。ガンプラバトルは楽しいですから」

「……は、やるわけないだろ? あーんな弱っちいのと」

「……おい恭文、レイジが空気を読まないぞ」


こりゃ相当やる気なくしてるな。きっと比べてるんでしょ、ユウキ・タツヤと。

熱血的指導も考えたけど、子ども達の邪魔をしてもアレだ。……いなくなったところでボコろう。


「確かにな。ガンプラバトルを始めて二か月で、予選大会のファイナリストに名を連ねた君だ。
その実力はもはや世界レベルと言っても過言ではない」

「そりゃどうも。改めて見るとよぉ、何だか滑稽だな」

「なにがかね」

「たかがおもちゃの遊びに本気になってよ……どいつもこいつも」

「お気に召さないかね」

「気がしれねぇな」


よーし、後で徹底的にボコろう。あの輝きに背を向け、歩き出したレイジに。


「別に、やめても構わんのだよ」


大尉は事もなげに、本当にあっさりと言い切った。そこでレイジの足が止まったのは、やっぱり貫録の違いだろう。


「ガンプラ作りも、ガンプラバトルも趣味の領域。機動戦士ガンダム作中のように戦争状態でもなければ、命の駆け引きをする必要もない。
しょせんは遊び――その通りだ。しかし、いやだからこそ人はバトルにも、ガンプラにも夢中になれる。好きだからこそ本気になれるのだ」

「好き……だからこそ」

「レイジ」


呼びかけ、振り返ったレイジに軽くデコピン。するとレイジは額を押さえながら、呻いて僕を見る。

最初は不満な瞳だったけど、でもすぐに冷静さを取り戻した。……僕がお冠なのを理解してくれたらしい。


「さっき、あの子達を侮辱したお仕置きだ」

「やる気をなくしたからと言って、楽しんでいる者達にあの言い草はどうなんだ。王子としての名が泣くぞ……もぐ」

「すま、ねぇ。でも……けどよ!」

「大丈夫だ。オレ達はお前の中に、ちゃんと本気を見てた」


シオン達がレイジの前へ向かい、心配する必要はないと笑ってやる。それでレイジが面くらい、なぜか僕を見た。

……本気がないわけ、ないでしょ。レイジはリカルドや千早、僕との特訓で相当頑張っていたんだよ?

ガンプラバトルだけじゃない、ストライク以外のガンダム機体についてもアニメを交えながら勉強した。


まぁザク系統はアレだし、まだまだ入門編を脱してはいないけどさ。それにタツヤどうこうじゃなく、セイのためにも強くなろうとした。

もうレイジがバトルする理由は、タツヤだけじゃないんだよ。大きな目標ではあったけど、別のものもある。


「それはアイツだけに向けられたもんじゃねぇ。ただお前が気づいていないだけだよ、それ以外の理由を」

「もちろん」


感じ取った気配――それはレイジが見ている先にある。その数は二つで、よく見知った姿だ。

俯いていたレイジには見えなかっただろう。でも噂をすれば影、確かにやってきたその二人を、シオンは指差す。


「あの二人も同じでしょう」

「あ……!」


やっぱりきたか。そうだよね、これも大事な約束だ。ヤナさんもチナって子絡みで心配してたし。

でももう一人ってのは意外だった。まぁいいや……僕も、セイとの約束を果たす時だ。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


母さんは邪魔なので、作業ブースの鍵をロックした。本当になんていうか、邪魔だ。存在が邪魔だ。

親にひどい言い草とは言わないでほしい。感情を処理できん人類はゴミだと、ザビーネさんから教わっていたはずなのに。

とにかく作業はほぼ終わり、AGE-1も奇麗に組み上がった……というところで、どんどんとノック。


また母さんかなと思ったら、ロックを解除して飛び込んできたのは……レイジだった。


「レイジ!?」

「セイ、お前のガンプラを貸してくれ!」

「レイジくん……どうか、したの?」

「決勝の前なのに、傷つけるかもしれねぇ!」


いやいや、傷つけるってなにを……そこまで考え、全てを察する。やる気をなくしていたレイジ、それが求めるものなんて一つしかない。

しかもレイジは思いっきり頭まで下げた。それほど必死に、ガンプラを――僕のガンプラを、バトルを求めてくれていた。


「壊しちまうかもしれねぇ……でも貸してくれ! 頼む!」

「……言ったはずだろ?」


やや呆れながらもビルドストライクを持ち、携帯ケースに入れる。しっかりファスナーを閉じてから、レイジに差し出した。


「このガンプラは、ビルドストライクは、レイジ専用機だって」

「セイ――!」

「ただし僕もいく。待ってるんだろ、あの人が……!」


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


レイジの案内でやってきたのは、聖鳳学園――そのまま中へ入り、講堂へと足を進める。

そこにはあの時と同じようにユニットベースが置かれ、粒子の輝きを放っていた。


「レイジくん、学校になにを……あ!」

「待たせたな」


委員長も気づいたみたい。ベースの向こうにあの人が――ユウキ先輩がいる事を。そしてザクアメイジングは既にセットされていた。

それだけでいい、欲していたものは全部ここにある。聞きたかった事とか、疑問とか、全てが吹き飛んでいた。

身体の奥から沸き上がる、今まで感じた事がない感覚。戦いたい、ただ戦いたいと叫んでいた。


だから、もう一人……ベース近くにいる恭文さんにも感謝のお辞儀。本当に約束を守ってくれたんだ。

大会後じゃないと難しかっただろうに。これはもう、なんとかしてお礼を送らないと。


「ユウキ会長……どうして! それに、AGE-1の人も! 教えてください、どうして地区予選は辞退されたんですか! なぜ学校を」


委員長がちょっと邪魔なので、左手で制する。それで委員長が言葉を止めてくれた。


「理由なんかいいだろ」

「よ、よくないよ! だってレイジくん、そのせいで……イオリくんも! 二人ともそれが知りたかったんじゃ!」

「どうでもいいな。今野郎がここにいて、ガンプラを持ってきている――それだけで十分だ!」

「あぁ……理由は戦えば分かる!」


それでも『まずはお話を』と止めてくる委員長は振り払い、ベース前に立つ。


≪――Plaese set your GP-Base≫


ベースから音声が流れたので、手前のスロットにGPベースを設置。

ベースにPPSEのロゴが入り、更にパイロットネームと機体名が表示される。


≪Beginning【Plavesky particle】dispersal. Field――Space≫


ベースと僕達の足元から粒子が立ち上り、フィールドとコクピットを形成。今回は宇宙空間……基本的に障害物はなし。

デブリや破壊されたジオン公国軍の戦艦【ムサイ】が浮かぶ程度。真正面からのタイマン……上等だ。


≪Please set your GUNPLA≫


指示通りガンプラを置くと、プラフスキー粒子がガンプラに浸透――スキャンされているが如く、下から上へと光が走る。

カメラアイが光り、首が僅かに上がった。粒子が僕達の前に収束。メインコンソールと操縦用のスフィアとなる。

モニターやコンソール、計器類は淡く青色に輝き、アームレイカー型操縦スフィアは月のような黄色。


コンソールにはガンプラ内部の粒子量も逐一表示され、両側に配置された円系ゲージが忙しなく動く。

レイジが両手でスフィアを掴むと、ベース周囲で粒子が物質化。機械的なカタパルトへと変化。

同時に前・左右のメインモニターにカタパルト内の様子が映し出される。


≪BATTLE START≫

「ビルドストライクガンダム!」

「行くぜぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」


カタパルトを滑り、火花という残滓を後にビルドストライクが飛び出す。……望んでいた形ではない。

でもここに、僕達との約束を果たすためにきてくれた。それで十分……そうだ、本当にそれだけでいいんだ。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「ザクアメイジング――ユウキ・タツヤ、出る!」


アームレイカーを押し込み、愛機とカタパルトから出撃。……それから一秒も経たず、赤い粒子砲撃が飛ぶ。

右へのローリングで回避すると、即座に二射目。各部計器類をチェックしつつ回避……キロ単位の距離。

カメラでもズームでなければ視認は不可能。しかし今までのビームライフルと違う、高出力砲撃で容赦なくこちらを狙う。


しかしチャージにはいささか時間がかかるようだ。その間に距離を詰めつつ、こちらも三射目を上昇して回避しつつ、ロングライフルで狙撃。

まずは的確に二射……一撃目を回避させ、ニ撃目でその先を潰す。レイジ君はファイターとして相当な技量だ。

だがその実猪突猛進(ちょとつもうしん)で、動きは読みやすい方。直撃する未来が見えたところで、背部ミサイルポッドから次々とミサイル発射。


プラモの戦車砲を流用した実弾ライフルは、宇宙空間で唸りを上げるように直進。数百メートルを鋭く突き抜け、一撃目は予想通り回避。

ニ撃目は右へ避けたビルドストライクに直撃……いや、あのチョバムシールドで防御されたか。

爆炎こそ上がるものの、そこから変わりないビルドストライクが登場する。だがそこで雨あられのミサイル達。


それで注意を引きつけつつ、こちらも最大火力で突き進む。ビルドストライクは後退しつつ、赤い粒子ビームを連射。

同時にギロチンバーストで広範囲をなぎ払い、幾つもの爆炎を生み出し、それで帯を作り出した。

宇宙を染め上げる美しい色、その中を突き抜け、戦車砲はリアスカートへ設置。更にヒートナタを両手で抜き放ち追撃のミサイル。


イーゲルシュテルンによって十数発のミサイルは撃墜されるが、その間にビルドストライクの懐へ入る。

右のナタで唐竹の斬撃……チョバムシールドで受け止められるも、ナタの熱と質量によって積層プラ板を溶かしながら斬り裂いていく。

だが中程まで斬ったところでビルドストライクがヘッドバッド。衝撃でビルドストライクとの距離は僅かに離れる。


すかさず左のナタを手放したところで、強化型ビームライフルが頭部に突きつけられた。

頭部を、胴体部を撃ち抜かれるであろう刹那の瞬間、その射線上から左へ退避し、空いた左手で銃身にアイアンクロー。

胴体部――右脇腹をすれすれに掠める赤いせん光。それには構わず銃身を握りつぶし、ビームライフルは使用不可能とする。


更に掴んだ銃身を引き寄せ、右のナタでもう一度唐竹一閃。赤い熱閃により、強固なチョバムシールドは溶断される。

だが直前でビルドストライクはシールドをパージ。距離を僅かに取り、シールドを直付していた左腕はガードする。

追撃……だがそこで左回し蹴り。左肩アーマーで受けて損傷は軽微だが、その間にビルドストライクは右サイドアーマーからビームサーベル抜刀。


すぐ踏み込むのは危険と判断し、左へ大回りしつつ放り投げたナタを回収。

ビルドストライクと至近距離でにらみ合いながら……ブースターを最大出力で加速。

爆発するライフル、それに煽られ消えていくシールド、そんなものには目もくれず、彼とのドッグファイトに興じる。

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

絶え間ない加減速が二人の間でいくども繰り返され、そうした結果生まれる衝突の刹那、その瞬間にこそ望んでいたものがある。

サーベルやナタ、ザクアメイジングのハンドガンにイーゲルシュテルンが唸りを上げ、お互いの機体を捉えようと放たれ続ける。

彗星(すいせい)のような赤に食らいついていくビルドストライク、そしてレイジ。フィールドアウトすれすれまで上昇してから大回りで下降。


そして浮遊していたムサイの残骸付近で、袈裟のつばぜり合い。もうあの時のように押し切られる事はない。

伝わる……伝わってくる、二人の気持ちが。こんなバトルは初めてで、生唾を飲み込む。


「逃げたかと思ったぜ!」


双方刃を引き、ほぼ零距離でにらみ合いながら左へ回る。まるでこの時間を惜しむような、それまでのぶつかり合いを無視した優しい動き。

でも緊迫感は半端ない。手の汗が、額の汗が、なにより胸の鼓動が止まらない。限界を超えて高まり続けている。


『すまない、他言無用の理由があった』


そしてまた刃をぶつける。その言葉が嘘でないと確かめるように……いや、確かめている。

レイジはもう、準決勝までのレイジじゃない。完全に戦う理由を、やる気を取り戻している――!


「どうでもいいさ、アンタと競り合えるなら――それで!」

『……私もだ!』


至近距離でのミサイル乱射。その全てをイーゲルシュテルンで的確に打ち抜き、ムサイを巻き込み崩壊させるような爆発発生。

衝撃でビルドストライクも煽られ、ザクアメイジングを見失いつつ吹き飛ばされる。

でもレイジは落下コースを辿りながらも、決して見逃さなかった。……自分達と同じように落ちていく、ひときわ大きな爆煙を。


それは彗星のようにも見えて……だからビルドストライクは左ローリングから体勢を立て直し、逆立ち状態で背部ビームキャノンを展開・発射。


「ラルのおっさんが言ってた!」


ブースターに直付なビームキャノンはせん光の進行方向を捉えるけど、それは急停止。

その反動で煙が晴れ、ザクアメイジングの変わらない姿が現れる。そしてこちらのs粒子砲撃は、ザクアメイジングの足元を突き抜け消えていった。


「ガンプラはしょせん、遊びだそうだ!」


そのままザクアメイジングも反転し、また落下コースを辿る。そんなザクアメイジングへ方向転換すると。


「だからこそ本気になれるってよ!」


ビームキャノン四連射。右へ大回りしながらザクアメイジングはその全てを……いや、三発だけ避けた。

一発は直撃コースで、ザクアメイジングは左肩アーマーを突き出し防御……そこから爆発が起こる。

これで一撃と思っていると、発生した爆煙から弾丸が飛び出る。さっきのロングライフルだと気づいた瞬間、それは顔面に直撃。


『私がそうだ!』


鈍い爆音とダメージ表示が巻き起こる中、二発目が同箇所に……く、攻撃された直後に狙撃!? 半端なさすぎる!


『そして、今の君も!』


慌てて両の指でコンソールを叩き、ダメージ確認……よし、損傷軽微! さすがは僕のビルドストライクだ!


「ち……!」

「レイジ!」


射撃戦でも圧倒……それに気押されたレイジを一喝し。


「壊れたら何度だって直す! 前に出るんだ!」


あの時――サザキとのバトルで、レイジが言ってくれた事をお返しで叩きつける。

レイジは驚きながらもまた楽しげに笑って……そうだ、レイジはずっと笑ってた。

僕も笑って、ユウキ先輩も笑っている。だって楽しいんだ、ただバトルできているだけじゃない。


こんな強い人と本気で戦えて、僕のガンプラが競り合えている。それが嬉しい、その全てが感動と言っていい。

レイジやユウキ先輩とはまた違うけど、僕も本気をぶつけている。ビルドストライクという本気を……だから。


「オレの本気を」


レイジはそれに応え、ビルドストライクのスロットルを完全解放。二刀を両手に持ち、ザクアメイジングへと突貫する。


「見せてやる!」

『その本気、私の本気で応えよう!』


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


”……四年前のイギリスを思い出しますね”

”うん”


ぶつかり合う意地……お互いの本気が詰まりに詰まったガンプラは、作られた世界で本物の戦いを見せる。

目的なんて大した事じゃない、ただお互いの意地と本気、どちらが強いか決めるだけ。

実のところ場なんて大した問題じゃなかった。突き詰めればただ、そこを決めたかっただけなんだよ。


バトルが始まる直前に入ってきたラルさんと、涙目で困惑気味な眼鏡少女共々、その戦いを見守っていた。

タツヤ、楽しいでしょ。なんたっておのれが尊敬する……てーか僕も尊敬しているけど、タケシさんの息子とバトルしてるんだから。

僕も加わりたいくらいだよ。まぁさすがに空気は読んでるけどさ、てーか僕の本気もまだ完成していないし。


そうだ、これがあるからガンプラバトルはやめられない。ガンプラバトルをやる理由も、本当に大した事じゃないんだよ。

楽しいから、好きだから――その根っこはきっとみんな同じ。もちろん強さの証明だってそうだ。


「たまりませんね、ラルさん」


そんな僕達の後ろで、腕組みしながら突如リカルド登場。楽しげに笑って、その視線を集中させている。

あおと一緒にバトルを――傷つきながらも戦う、ビルドストライクとザクアメイジングを見守っていた。


「フェリーニ、あお君」

「あんなの見せられたら、体が疼いてしょうがない」

「……ふ」

「あおー♪」

「どうして」


眼鏡少女は首を振り、わけが分からないという顔で三人を見ていた。理由も聞かず、いきなり戦うだけ。

その意味が分からず首を振り、でもなにもできずに足を震わせていた。


「それはアイツらが男だからさ、セニョリータ」

「あおあおー!」

「え……!」

「あの馬鹿どもの約束ってのは、ただ戦うってだけじゃないのよ。四の五の抜かさず、決着をつけるって意味だ」

「そう、だからこそ彼らはこの場に集まった。どちらが強いか、ただそれのみをはっきりさせるために――!」


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


ボクもセコンドへ……とも考えたが、PPSE社の関係者だと知られると少々マズい。

なのでヤスフミと大尉の言う通り、ここの二階部分から試合を見ていた。一応、彼には謝ろうとした。

先約優先ではあるが、タツヤを嘘つきにしてしまったしね。だが彼はなにも聞かず、一目散に走り出した。


ボクなんて最初からお呼びじゃなかった……まぁそういう話だ。しかしいいバトルだ、ガンプラ塾を思い出す。

それもみんなとバトルを通し、本気で繋がろうとしたタツヤのバトルだ。そうだ、これだよタツヤ。

ボクが巻き込みたいと思えるほど鮮烈で、輝いているバトル。二代目メイジンのような修羅道とは違う、他者と繋がる君の鍵だ。


でも理解できた事はそれだけじゃない。あの二人を、そして作られたガンプラを見て、予想は確信に変わる。

……ビルドストライクの左上腕にナタの一撃が入る。だが両断する前にザクアメイジングは退避。

すかさず逆手持ちに変えた右サーベルが眼前を通り過ぎ、胸アーマーを僅かにかすめた。


あれはガンダムAGEのオブライト斬りか。彼はガンダムに聡くないそうだが……なるほど、だからこそのニュータイプか。

すかさず追撃が入るが、それを右ミドルキックでキャンセル。ビルドストライクは宇宙区間を吹き飛びながら方向転換。

距離を取り直しつつ、迫ってくるザクアメイジングにイーゲルシュテルン掃射・けん制する。


「なるほどね……タツヤ、君がそうまでする理由がよく分かったよ」


三人ともそろそろ限界だ。唸りを上げて次々と表示される、機体ダメージの警告ウィンドウ。

傷つき続ける機体は、その込められた意思で暴走に等しい性能を発揮している。

だが止まらない……あの男達は、あの馬鹿どもは決して止まらない。なぜかって?


「君やヤスフミと同等の技量を持つ少年、レイジ。そしてあのイオリ・タケシの息子――天才ビルダーイオリ・セイ。戦いたいに決まっている」


そんなのは決まっている。ボクもそうだから、血がたぎっているんだ。笑ってしまうんだ。

羨ましい、さっきとは違う意味であの場に行きたい。なぜなら……なぜならボクも。


「男なら――ファイターなら!」


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


機体各部は限界寸前……レイジの操縦に、ビルドストライクがついてこられない? いや、違う。

ザクアメイジングだ……ザクアメイジングの性能はやっぱり鬼神そのもの。僕はビルダーとしても先輩に負けている。

レイジは、ビルドストライクはそれについてこようとして、だから無理が生じているんだ。


一つ結論を突きつけられたところで、ザクアメイジングが左フック。原始的な一撃で顔面を殴り飛ばし、こちらをスタン。

すかさず右のナタが唐竹に……でもレイジは下腕へ左のサーベルを突き刺し、その一撃を食い止める。

ビーム刃の粒子越しにせめぎ合い、切り裂こうと力が篭もる。……だから先ほど斬りつけられた左上腕は分解。


内部のフレームも砕け、こちらは腕をなくしてしまう。その隙を逃さず、ザクアメイジングは左手でハンドガンを取り出し零距離連射。

リボルバー型の銃口から飛び出す弾丸は、メインカメラ――頭部を叩き燃え上がる。そのダメージにより一瞬モニターがカット。

すぐ復旧するも映像は明らかに乱れ、レイジも苦しげに呻く。僕も怖い……僕も苦しい。


でもここで前に出られなかったら、ここで引いてしまったら、もっと苦しくなる。そんなのは嫌だ。

だから前へ……前へ。何度も念じながら耐えていると、レイジは右のサーベルを振り落とした。

逆手に持ったサーベルは、その切っ先でザクアメイジングの肩付け根を捉え貫く。


モノアイが瞬き、まるで刺された事を驚くかのようにひくついた。これで……と思っていると、カメラの奥でザクアメイジングの右腕が動く。

下腕は貫いたのに……いや、下腕だからこそだ。腕そのものを断ち切ってはいない。だから左わき腹から胴体にかけての一閃。

深々と、えぐるような一撃にまたダメージウィンドウが展開。両断は……されなかった。


刃は胸元のインテークを斬り裂いたところで停止。まだやられていない……まだだと、イーゲルシュテルンを乱射。

ザクアメイジングもハンドガン連射するも弾は撃ち切り、こちらもさほど経たずに弾切れ。

ザクアメイジングの頭部が、こちらの胴体部が同時に破壊され、幾つもの爆炎が生まれる。


レイジは左ビームキャノンを至近距離で発射……でもそれは虚空を貫くだけで、爆発はより続く。

二機は意志を伝えるマシーンではなくなり、力なくうな垂れ……炎となって消えていく。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


イオリくんの、ユウキ会長のガンプラが……壊れる様が余りに悲しくて、可哀想で、目を背けてしまう。

これで相打ち……でも、よかった。勝負が終わったなら、ちゃんとお話を。


『『まだだ!』』


その声に慌てて、もう一度フィールドを見る。そうしたら爆発の中から、あの青い飛行機が飛び出していた。

あ、そっか。あれでやられないようにするって、ラルさんが教えてくれた。だったらこの勝負は。


『あぁ……まだだ!』


でも爆発の中から赤いブロックみたいなパーツが幾つも飛び出す。ザクアメイジングの両肩や足のパーツ、それに長い大砲とミサイル達だった。

それらは中心となる大きなブロックへ集まり、次々と合体。


『フレーム、各部パーツコンタクト! AB(アメイジング・ブースター)システム』


嘘……ユウキ会長のガンプラ、壊れたはずなのに、合体して飛行機になった。カブトムシみたいで、身体の下に大砲をつけてる。

背中に背負っていたブースターっていうの、かな。それも背負って、ミサイルを撃つのまでくっついてる。


『フルドライブ――イグニッション!』


二つの飛行機は宇宙空間をぐるりと回って、ビームや大砲を乱射。真正面から、逃げたりせずぶつかっていく。


『『これが……僕(オレ)達の!』』


せん光が、砲弾が機体を掠め傷ついても、決して引かない。……男の人は馬鹿だ。こんな事、する必要ない。

お話しする事はたくさんあるはずなのに。でも、どうしてだろう。馬鹿かもしれないけど、それが駄目なんて思えない。

だってみんな楽しそうなの。ユウキ会長も、イオリくん達も、見ているラルさん達も。


わたしには分からないだけで、あの中でみんなは会話しているのかもしれない。言葉ではなく戦う事で。

それが分からないのはちょっと悔しくて、応援したくて……でも一歩踏み出す勇気がやっぱりなくて。


『これが私の!』


その間に二つの飛行機は零距離まで接近。そうして。


『『『ガンプラだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!』』』


最後の一撃が放たれ、フィールドが強い光に満たされた。その眩さで、悔しいけどまた目を閉じてしまった。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


勝負は終わった。その後はザクアメイジングを回収し、最寄り駅まで移動。結局イオリ君達はなにも聞かず、僕を見送った。

それはコウサカ君も同じだというからまぁ、驚きではあって。そして駅のホーム、つい脱力して座り込んでしまった。

帰りのリニアがくるまでの間、ホームから見える星空を見上げボーっとしていると。


「ナイスファイト」


アランがスポーツドリンクを持って、見送りにきてくれた恭文さんと一緒に戻ってくる。

それを受け取ると、今度は恭文さんがかつサンド弁当を手渡してきた。


「ありがとう。恭文さんも……すみません」

「別に僕はいいよ。どうせ約束は守られるんでしょ? お互い負けなければ」

「えぇ、それは必ず」

「でもあれだ、セイとレイジには事情を話せるようになったら……改めて謝りなよ。二人とも大変だったんだし」

「はい。あ、もちろんコウサカ君にも。彼女、学校で僕の行方を聞き回っていたそうで」

「恋する乙女は強いという事かね」


恭文さんも見抜いていたか。まぁ……彼女は分かりやすいしね。ついアランと苦笑してしまう。

そう、アランも見抜いている。彼も彼でなかなか隅に置けない人物だから。


「タツヤ、本当の意味で確信したよ。そして安心もした。君はボクが見込んだ通り……いや、それ以上の男だった」

「まだまださ。僕達が目指す頂は、守るべき約束はまだ先にある。……恭文さん」


ザクアメイジングの入ったケースを、そのまま恭文さんに手渡す。シオン達も驚く中、恭文さんは静かにそれを受け取ってくれた。


「好きに使ってください。……あ、でも捨てたりするのはなしで」

「それは分かってるけど、いいの?」

「そうだぞ。お前、これは大事な機体じゃ」

「恭文さんだから預けられるんです。僕は一度、ユウキ・タツヤからキャラチェンジするので」

「そうして、新しい『なりたい自分』になるのですね、あなたは」

「あぁ。捨てるわけじゃない、ただ挑戦するだけだ」


なので修理する余裕、ないだろうしなぁ。預けるのはそれで心が引きずられそうだから……という意味もある。

まだまだ僕は半端者らしい。苦笑するシオン達に笑うと、ショウタロスは呆れた様子で帽子をかぶり直した。


「分かった。ならこれは修理して、紅の彗星対策に研究させてもらうから。いや……将来の三代目、かな」

「ははは、ほんと抜け目ない人だなぁ」

「全くだ。……決勝戦、頑張ってくれよ。ボクも君とバトルするのを楽しみにしているんだ」

「もちろん。僕と当たるまで負けないでよ?」


そして三人手を重ね、強く握り合う。これもまた、守るべき約束――戦う理由だ。イオリ君、レイジ君、また会おう。

君達との約束も本当の意味で守らせてもらう。近いうち、世界大会で必ず会える。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


勝負は終わった。その中で感じ取ったのは先輩の本気――出場辞退にも、約束を破ってくれた事にも本気の理由があった。

嘘なんて一かけらもなかった。それに安心して帰路へつき……行きとは違い外は真っ暗。

キラキラとした星々を見上げながら、レイジと二人街路樹が続く歩道をゆっくり歩く。


登下校時にも使う道だし、マオ君と会った後にも歩いた道。今はその道に刻まれた、新しい思い出を感じながら歩いていた。


「あー、負けた負けたー。完膚なきまでってのは、こういう事を言うんだな」

「そうだね。やっぱ凄いなぁ、ユウキ先輩は。そして恭文さんは怖かった」

「……あの野郎にとってはマジ恐怖だろうよ。終わったら引きずられていったじゃないか」

「十年来の友達だって言ってたし、それでいきなり行方不明になったら……ねぇ」


事情は察してたみたいだけど、万が一って事もあるからなぁ。それなりに心配はしてたみたい。

僕達もなにも言えず……委員長に至っては、『鬼がいた』と去った後に呟くほどだった。


「でも、この次は勝つよ」

「おうよ。……それでセイ、ビルドストライクは」

「ブースターも含めて、決勝戦までの修復は無理だよ。作り直しってレベルかな」

「予備パーツは」

「準々決勝前の改修、それに準決勝の補修で使い切ってたから」


壊れたブースターと本体、それを入れているケースに目を向けた。レイジが申し訳なさそうにするので。


「でもこういう状況、僕が考えていなかったとでも思ってるの?」


レイジにドヤ顔を向け、安心しろと胸を張る。ぎょっとするレイジは僕へ向き直り、珍しくオロオロ……それが面白くて笑っちゃう。


「え……どういう事だよ、セイ!」

「ミホシさんの件で、予備機は必要だって感じてさ。元々考えていたプランを準備してたんだ。ちょっときてよ」


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


そのまま家へ戻り、組み上がったばっかりの最新機体を見せつける。テーブル上に置かれたそれは、ガンダムMk-IIが基本。

ただしガンダムチックな頭部アンテナはレッドウォーリアなどに近い形状へ変更し、胸部中心部も貼り出す形へ変更。

最大の特徴は紺色の追加バックパック【ビルドブースターMk-II】。ギャプランのシールドバインダーにも連なる、設置型のライフル装備。


それは下腕外側に装備されていて、グレーのカラーリングと相まって独特な空気を出している。

ビルドストライクとはまた違う、質実剛健を形にしたような機体。前のめりになり、レイジが夢中になって見ていた。


「これは……! 確か、ガンダムMk-IIってやつだよな! だが形がちょっと違うぞ!」

「よく知ってるねー。……そう、これはビルドガンダムMk-II! RGガンダムMk-IIをベースとした、僕だけのオリジナル機体その二!
機体番号RX-178B! ジオンの残党狩りを目的に設立された、地球連邦軍の精鋭特殊部隊ティターンズが開発した機体だよ!
アニメ設定だと旧来の規格品が使われていたけど、僕のは違う! ここ! ここ見て! 最新の素材を使ってるんだ!」

「お……おう」


あれ、レイジが引き気味? どうしてだろう、ガンダムMk-IIについて知っているなら。


「まぁ、あれだ。そうだよな」


ちょ、なんか顔背けられたんだけど! やめてよ! 僕が痛い子みたいじゃないか! あと適当な相づちも駄目ー!


「なぁセイ……予備パーツがないのって、まさか」

「実はこれを作ってたせいもあるんだー」

「これがあれば、戦えるんだな。お前のガンプラがあれば――!」

「もちろん! ……ただビルドストライクとは操作感も大分違うから、ぶっつけ本番は駄目だよ?」

「分かった、任せろ!」


レイジと腕相撲するみたいに、右手を重ねしっかり握手。もう迷いもない、見失ったものも取り戻した。だから。


「早速特訓しようぜ!」

「うん!」


あとは勝つだけ――! 僕達はバトルが、ガンプラが好きだ。本気になれるそれらが大好きだ。

相手が誰かも大事だけど、まずそこからだった。もう大丈夫……絶対に忘れないよ、好きだと言える事の大切さを。


(Memory32へ続く)





あとがき


恭文「というわけで同人版とまと幕間第二十八巻、販売開始です。みなさん、何とぞよろしくお願いします。
……でも機動六課の日常じゃなくなってるし、タイトル考えなおさないとなー。というかリスタート?」

春香「今更ですか! と、とにかくお相手は天海春香と」

恭文「蒼凪恭文でお送りします。……今回は最終回とも呼び声高い第六話。
ここからセイがレイジ共々脳筋になっていったのも記憶に新しいですが」

春香「脳筋ですか? そんなキャラじゃ」

恭文「(うったわれるーものー♪)連発」

春香「そこかー!」


(連発は賛否両論読んでいたっぽいので、そこについても補足をいろいろ考えていたりします。
なお作者は連発、楽しかったです。スクライドを思い出させて。むしろスクライドの再来だと)


恭文「むしろ掲示板とか見て、連発が飽きるだとかワンパだとか言われてる事に驚いた。
だって戦いの基本は格闘でしょ? 武器や装備に頼っちゃいけないよ。できれば花たる関節技もしてほしかった」

春香「……ビルドストライク、格闘専用機体じゃないですよね」

恭文「でも最新フォーマットだからグリグリ動いて格闘向きだよ?」

春香「それ言われると……美希もめちゃくちゃ動かしてましたし」


(『格闘向きかどうかって、設定じゃなくて素直に動くかどうかだと思うの。だからほら、ビルドバーニングとかも凄いし』)


春香「とにかく今回のバトルはアレですね! アニメもそうだし、ビルドファイターズAの設定やキャラの話も盛り込んで!」

恭文「そうそう。アランのキャラや台詞が若干違ってるのも、アニメ序盤より後半、又は漫画に寄せてるせいだったりします。
そしてビルドガンダムMk-IIも登場。こっちもできるだけ活躍させたいんだよなぁ、テレビだとやっぱり予備機体らしい扱いだったけど」


(ここも悩んでいる最中だったりします)


恭文「そしてそんな第六話については、もう言う事がほとんどなくて……その前にビルドファイターズトライだよ! レッドウォーリアだよ!」

春香「降臨、でしたね。でもプロデューサーさん、社長や黒井社長がボロボロ泣いてたんですけど」

恭文「そりゃそうだよ。レッドウォーリアがアニメで、あんな良作画で登場。しかも来週には戦闘するんだよ?
世代からしたら感涙ものでしょ。その上プラモも……まぁ改造状態だけど出るし。
もしかしたらHGCEストライクやHGUCクロスボーンみたいに、オリジナルレッドウォーリアとして出る可能性も」

春香「あ、そっか。実際最近発売されたRジャジャ、ランナーでRギャギャ部分もあったらしいですし」


(ビルドファイターズ効果、素晴らしいです。というか信じられるでしょうか……レッドウォーリア、来月発売だよ! もう予約したよ!)


恭文「……ビルドファイターズ時代は僕もレッドウォーリアを青く塗って、ガイコツマークを付けて」

春香「さらっと乗っかろうとしてる!? あれですか、クロスボーンガンダム焔竜みたいな感じですか!」

恭文「それそれ。まぁそんな改造を考えるくらい、レッドウォーリア登場&発売は楽しいし嬉しいって事だね。
一応武者ガンダムとかのモチーフでも使われていて、それのプラモでは軽装形態とかで再現できてたけど」

春香「こういう、素の状態でプラモというのは初めてですか」

恭文「ガレキの改造キットとかは出てたけど、僕の知る限りは初めてなはず。それが最新技術で作られているんだもの、感動するしかないって」


(というわけで、レッドウォーリアの素晴らしさについて語ってしまいました。第六話、神回なのに。
本日のED:ガンダムビルドファイターズBGM『GUNDAM BUILD FIGHTERS』)


春香「……そう言えばレッドウォーリアってそもそもは」

恭文「プラモ狂四郎という漫画作品に登場した……ようはあれだよ、ビルドファイターズのご先祖様だよ。
ただプラモ狂四郎はガンプラオンリーじゃなくて、戦車や戦闘機などのスケールモデル、別作品のプラモなども登場してたけど。
みなさまご存じの大人気作品『サンダーバード』のジェットモグラとか」

古鉄≪前作最終回で出てきたパーフェクトガンダムも、プラモ狂四郎が出展です。
当時販売されたばかりのガンプラブームと相まって、超絶的な人気だったんですよ。
……そしてレッドウォーリアはパーフェクトガンダムV。パーフェクトガンダムの発展機体です≫

春香「アレ!? で、でも発展って言うにはいろいろ薄いような」

恭文「元々パーフェクトガンダムはガンダムに重装甲・重武装を施したフルアーマー機体。
それとは真逆に軽装・高機動化を狙った機体なんだよ。発展機体っていうか、MSの原点回帰だね。
……そしてその波は、Vivid編のガンプラバトルでも起こりつつある。今後はその話を中心に」

春香「まずは決勝戦ですけどね、決勝戦!」(ガッツポーズ)


(おしまい)







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あきゅろす。
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