challenge
カイコウ
「どうしたんだい?」
柔らかな声に振り向けば、そこには幸村精市が立っていた。
ああ、そういえば…幸村はコートにいなかったなあ、と考える。
普段の私だったら、幸村に話しかけられた事にもっと大きな反応を見せただろう。
でもこの時、私は普通ではなかった。
何故か目の前に立っている幸村に対して、緊張も、動揺も感じなかった。
「…幸村君は…、練習しないの?」
「少し、用があってね」
「こんな所に?」
社会科準備室は、全くと言って良いほど使われることのない教室。
そんな場所に、部活中である彼が何の用事があるというのか。
私は純粋な疑問から、首を傾げて幸村を見つめた。
幸村は少女めいた顔を優しく綻ばせて、私に近づいてくる。
あ、ここ。外から見えちゃうかも。
幸村と一緒に居るところは、あまり人に見られたくないな…。
そう思いながらも、動くことなく近づく幸村を見つめていると、幸村は素早く私の後ろのカーテンを引いた。
その行動に驚く私に優しく微笑む幸村の顔は、近い。
彼の形の良い唇が、ゆっくりと開いた。
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