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ELSEWHERE
消失間近
なぜオレを置いてきぼりにする、マイファミリーよ。
週末の連休。おとんおかんは、旅行に出掛けた。オレに一緒に行くかと、誘いもせずに。ああなんて薄情。

「ちくしょーさみしー」

寝巻きを脱ぎちらかし、上半身裸のまま家の中をうろつく。おかんが居ないからこそ出来る自由な振る舞いだわー。いやしかし、なんなの、一人息子も連れてけっつーのよー

グビグビと麦茶を飲みながら、これからまる二日間、なにすっかなーと思案。

よーくんははると映画観に行くらしー。オレは映画館より家でまったりDVD派だなー。
んー、暇だわ。夜からは二人が家に泊まりに来る。もっちろんりょーも。
はやく夜になんねーかな、はやくはやく。部屋でゴロゴロしているとりょーから電話が。

「わっと!りょーナイスタイミングとはこのことだね!オレ暇すぎて枯れてきてたってー」

りょーは笑いながら、じゃあ今から行くわ、と言い電話を切った。イエース

りょー、はやくー。いやそれにしても今日は天気いーねー、りょーが来るまで下行くかー。あそこ気持ちーんだよ。ああねみーなー

しばらく寝転んで微睡んでいると、ドアを開ける音がした

「おい、何してんだよ」

りょーかね?いらっしゃーい。ああまだ眠いわー。
ふあっとアクビをして伸びをする。入ってーと言うとりょーは、まさかという感じでオレに聞く

「あつお。お前もしかしてずっと玄関で裸で寝てたわけ」

「日当たり良好なんだよ。そして下は履いてるしー」
オレが部屋のドアを開けながら言うとため息が聞こえる。そんなことより!


「りょーなにその眼鏡!」

そう。りょーは今日は黒縁オサレ眼鏡をかけている。なに、なんでそんなかっけーの?髪もざっくり横に流してさーなに、モデルでもなんの?ちくしょ、オレには無理だぜそんなのは


「あー、コンタクト調子わりいから」


そう言ってどかっと座る。

「りょー眼鏡もお似合い」

そう言って横に座ってりょーを見る。ほんと絶妙な顔してんなー、オレ的に。


「アホ。早く服着ろ」


オレの鼻をつまんで言うりょーはふいっと横を向いてタバコに火をつける。ほめたから?あらあらシャイボーイ?

「お前ちゃんと飯食ってんの」


携帯を見ながらりょーが聞く。あーオレちょいもやしだもんなー。筋肉も落ちたしさ、自慢出来る体ではねーな。でも、食ってるよかなり。成長期がまだ冬眠中なのよ

「あ、ねえりょー、眉毛やってー」


そう。りょーは器用で、一度眉を左右対称にしてっつったら、キレーにしてくれた。よーくんはめんどいと言ってあんましてくれない。自分ですると微妙に納得がいかねーんだよなー
りょーに向き直りお手入れハサミを渡して待つ。よーくんからの頂き物なんだよねー。

りょーはそっとオレの顔を支えて、前髪をあげる。


「よりによって今言うか」

思いたったが吉日ですよ。オレは目を閉じて待つ

りょーはオレの眉をそっとなぞる。チョキッと音がする。別に眉毛濃くないけどさ、お手入れはマメにしないとねー。りょーはオレの頬に落ちた毛を払ってるみたいで、そっとやさしく触れてくる。

なんだこれは。苦しい。最近この苦しさと仲良く出来つつあった、とゆーかりょーイコールたまに苦しいみたいなさ。
けど、今日のりょーは眼鏡が新鮮で、髪型もイケてて。なんだか苦しさがいつもよりひどい。痛いなー、痛いなーと思いながら目を閉じてると

りょーの指が唇に触れた。ああ、痛い痛い、苦しい。
そっとなぞる様に触れるりょーに、いよいよ心臓が危なくなってきた。なんかやばい、早く離れねーと
終わった?と聞こうとして、少しだけ目を開けると

りょーは、オレの唇を見つめながら、目を細めて微笑んでいた。そして小さく呟いた。


「唇、かさついてる」

ぐわん、と頭が鳴る。全身がひゅーっと縮まるみたいな、痺れるみたいな感覚。もう心臓は痛いなんてものではない。いつの間にまた目を閉じたのかも、もうなにも分からない。りょーがまた唇をなぞる。感覚がおかしくなってるって。鳥肌がたった。唇が、震える。もう、無理

「りょー、こそばゆいわ」

そう言って目を開けると、りょーはいつも通りで


「お前顔も、ちっせーな」

とニヤニヤ。顔、も?ひでーよ。知ってっから少しばかり背が低いのは。

いつもの笑顔にほっとしながらも体は正直で、もう一度あの微笑みが見たいとキシキシと音をたてて訴えている。なんなんだよオレは

「りょー、オレっていつかホントに溶けてなくなるかもよー」

ぽつりと呟けば、りょーはは?と呆れている。でもねりょー、オレが溶けてく原因は、りょーだから


「手え握って」


欲求のままりょーに告げた。なぜかは分からない。ただりょーに手を握って、訳分かんなくなったオレを繋ぎ止めて欲しかった。
けれど、りょーは表情のない顔で手を見つめ、そっと手をほどく


「後で」


それだけ言うと、バイトのシフト確認するわと言って電話をかけ始めた。


今までりょーになにかを頼んで、拒否されたことなかったんだなー。あまり頼み事もしねーけど、りょーってやさしすぎだわ。
りょーにやんわり断られて今はじめて気付いた。


それだけで、りょーの小さな拒絶だけで、オレのちっぽけな世界は回転を止める

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あきゅろす。
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