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ハイホー
ずっと四人で騒いでいたらますます酔っ払いになってきた。楽しくて楽しくてもうなにがなんだか!気がついたらもう帰り道だった。

「たなっち今日はマジ酔いじゃね?」


よーくん、そうなのです。オレ、今日なんかすげー酒まわってる。
若干ふらふらしているオレは、少し離れた先を歩くはる達の後をついて行く。隣には、たまに脇道に迷い込むオレを軌道修正してくれるりょーが歩いていて、こちらを見て優しく笑っている。


「もうね、楽しくてなんだか大変だよ。ねえ、ちょっとこっち来て」


「は、何」


驚くりょーを強引に引き寄せて肩を組みながら歩く。かなり屈んでいるりょーが歩きにくそうにしているけど、今はくっついていたいから離しませんよー!
すぐ横にある顔は驚きのあまり目が丸くなっている。

「楽しいねー!ね、一秒だけくちづけを」


「くちづけって、待て、ここ外だか」


はい却下。そんな拒否は聞きません。返事を遮り無理矢理顔を寄せる。一瞬だけちゅーしてからそっと唇を離す。いつしてもやっぱり最高だ。


「嫌だった?」


組んでいた肩を離して見上げると、なんだか困った顔で笑うりょーが居た。


「嫌なわけないけど、明日後悔しても知らねえぞ」


優しく頭を撫でてくるりょーにもっとべったりくっつきたくなる。後悔なんてしないよ。


「悪い、こいつ持って帰るから」


先を歩くよーくん達にそう言うと、りょーは方向を変えて森田家の方に向かう。なになに、りょーの家行くの?イエス!べったり出来る!


「お前泥酔キス魔の誘惑に勝てんの?」


楽しそうな声で返事をするよーくんに、りょーが顔をしかめている。
泥酔キス魔?はいはい、オレのことですね、でもキス魔ってほどしてないよ。


「死ぬ気で耐える」


ぼそりと呟いたりょーが、笑いながらオレの頭をわしわしする。なにー!


「我慢してでも二人になりたいんだよ」


はるが手を振ってまたね、と笑っている。はい、さようなら小西さん!
二人と別れてりょーと夜道を歩く。こんな時間にさすがに人影はなく、静かな住宅街を並んで歩いているとなんだか寂しくなってくる。


「ね、おんぶして!交代でオレもしてあげるから!」

腕を引っ張ってお願いしてみると、バカにしたように笑われる。


「お前がオレを背負うのは無理だろ、体格的に」


りょーは立ち止まると、屈んで背中を向けて待っていてくれる。いいの?


「まっじ最高!」


広い背中に飛び乗ると「痛えよアホ」とりょーに怒られた。ごめんなさいね、でも今は許して!
おんぶされた途端、視界が高くなる。りょーっていつもこんな高い所から世界を見ているのか。


「ハイホー!」


「アホ、ここは山じゃねえよ街中で夜中だ!奇声を発するな!」


はいはいごめんなさい。
腕を前にまわして首筋に顔を埋める。ああーりょーの匂いだ。


「首にちゅーしてみてもいい?」


「もうしてるだろ」


うん、してる。ははー!


「今日はセミが鳴いてないね」


「今は深夜」


うん、睡眠中だね。
口数が少ないりょーはオレを背負ったままゆっくりと歩く。あれ、機嫌悪い?


「重いよね?降りるよ」


「重くない」


それだけ言うと、またゆっくりと歩きだす。相変わらず前を向いたままで、あまりこちらを見ない。


「ごめんよー、こんなガキみたいな頼み事して」


なんだか悲しくなってきたよ。りょーは恥ずかしいよね、道端でこんなことさせられちゃってさ。申し訳ない。


「いつもこうならいいのにな」


りょーはそう呟くと、ちょっと立ち止まってオレを見た。大人びた顔には穏やかな笑みが浮かんでいて、見ていると、悲しみなんて一瞬で吹き飛んでいく。


「遠慮しないで、こうやって何でも言えばいいのに」

静かに笑うりょーに頷く。いつも言ってるよ?遠慮してるつもりないんだけど。

りょーは歩くのが早いからあっという間に着いてしまった。もう少しこうして居たかったのにな、残念。
ため息をつきながら降りようとすると、いいからと止められる。


「あつお、鍵取って」


ん?ケツポケット?了解しました。キーケースを取り出して渡すと、りょーはオレを背負ったまま鍵を開ける。


「靴脱いで」


なに、このまま部屋まで行ってくれるの?


「まじで?なんか楽しいんだけど!」


堪らなくて頬にキスしてみると、りょーに「早く脱げよ」と笑われる。
脱ぎ捨てた靴をポトッと落とすと、りょーも靴を脱いで階段をあがる。
ただおんぶされてるだけなのに、りょーとだとすごく面白い。


「ドア開けて」


「はいはーい」


「電気は右」


「んー、はい点いた!」


明るくなった室内は相変わらず片付いていてとても居心地がいい。
りょーはオレをおんぶしたまま部屋に入ると、ベッドに座ってオレを降ろした。

「ありがとう。楽しかったー!」


りょーの顔を引き寄せて唇に触れると、目が合った。だれがなんと言おうと、こんなに優しい人は他に居ない。


「くっだらねえ事なのに、何でお前とだとこんな楽しいんだろうな」


りょーは子供みたいな顔をして笑うと、ぼふっと隣に寝転んだ。


「水飲む?」


声が優しくて、見上げてくる目は温かくて穏やかだ。要らないと返事をして隣に寝転ぶ。
りょーは短い言葉に優しさを詰め込むのが上手だ。
すごく柔らかく聞こえる。

「明日覚えてんの?」


そう言って顔を覗き込んでくると、小さな声で「忘れてそう」と静かに笑った。

「一割くらいは覚えてるみたいだよ」


よーくんいわく昔はほとんど忘れていたらしい。なんだか記憶も曖昧になってきたから、保証は出来ませんがね!


「ほとんど忘れんのかよ」

一年前、りょーの笑顔は種類が少なかった。種類以前に笑うこと自体が珍しかった。なのに、今は色んな笑い方をする。
りょーが笑うと周りの人達がよくはっと息を詰めるのを感じる。気持ちはよくわかる。オレなんていまだに心拍が不規則になってしまうからね。
綺麗な笑顔だなと感心しながらにやけていると、りょーは段々困ったような顔になる。あんら?


「あつお、好きって、何なんだろうな」


困惑したような声でりょーは言うけど、オレにはさっぱり理解出来ない。いつも以上に支離滅裂な気がするのは何故だ。


「好きだって思う時、それが大きい程苦しくなるんだって最近知った」


りょーは突然静かな声で話しだすと、そっと指で唇をなぞってきた。触れてくる指が熱い。


「本当、苦しい」


ぽつりと呟くと、唇に優しくキスしてくる。
言われてる言葉を理解したいのに、意味がよく解らない。


「今でもこんな気持ちなのに、お前に触ったらオレどうなるんだらうな」


まるで独り言のようにぽつぽつと話すりょーは、オレがへらりと笑ったまま聞いているのを見て、デコに唇をつけてくる。


「名前呼んでみて」


「もりたりょーすけ」


言われた通り呼んでみる。

「何でフルネームだよ」


さっきからりょーが困り顔になったり笑ったり、表情がころころ変わってすごくかわいい。

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あきゅろす。
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