ELSEWHERE
その男に騙されるな
「はるくんいくつ?たなっちと同い年?大人っぽいねー!」
ユージさん、なにが言いたいの。確かにはるは大人っぽい。だがしかし、オレだって今日はかなりアダルト意識なんですけどね。オレについてはノーコメントですか。
「たなっちー、連絡してって言ったのに酷いね」
ユージさんがちょっと拗ねたように言う。
連絡?ああ、そういえば紙渡されたな。あれどこやったっけ、あの日は色々大変だったから、それどころじゃなかったんだよ。
「ごめんなさい、すっかり忘れてました」
正直に白状すると、ユージさんはじっとこちらを見つめている。なんですか。
「相変わらず律儀だね、可愛い」
ニコリと微笑むユージさんにはるが驚いている。そうそう、ユージさんは軽ノリ対応しなきゃいけないんだった。
ユージさんは相変わらずチャラい笑みを浮かべたまま酒を作ってらっしゃる。
「高二か、若いね!たなっちがせめてハタチ越えてたらなー」
「越えてたら何」
聞き慣れた声がしたので振り返ると、ゆるく微笑むりょーが居た。隣にはよーくんが、これまたニヤニヤしながら立っている。
「あ、モリーでしょ?男前だね、評判通り」
ユージさんはりょーを見ながら肩を竦めて笑う。愛想のいい笑顔だけど、前とおなじで本心がなかなか見えてこない。
りょーはゆるく微笑んだままなにも言わない。初対面の相手に微笑むの珍しい。でも冷たい笑顔で怖い。
「啓からたなっちはダメだって言われてると思うんだけど?」
よーくんが身を乗り出してユージさんに笑いかける。初対面なはずなのに、なんとも偉そうだ。しかもそれってなんの話?
「あ、マネージャーの弟だよね。似てる!何か飲みます?」
「何でもいい、話逸らすなよ」
偉そうに返事をするよーくんに、ユージさんは相変わらず真意の読めない笑みを張り付けたまま、愛想よく対応している。
「本当に似てるね、その性格」
酒を作りながらユージさんがよーくんを見下ろした。初めて見るすごく冷たい瞳だった。
ユージさんはすぐ笑顔を浮かべ、てきぱきと酒を作り続けている。
なに今の。似てるって、藤沢兄弟は性格が真逆だよ?けーくんはあんな偉そうにしないよ?繊細な所は確かに似てるけど、今の態度なんて、似てるとは思えないんだけど。
「あんたゲイなの?職場で男ナンパしていいの?しかも未成年を」
ユージさんの冷ややかな視線なんて、よーくんには通用しない。そんな相手にはますます偉そうになるのがよーくんの常だ。
ふふんと笑いながら、よーくんは挑むようにユージさんを見つめる。
「マネージャーにも同じ事言われて怒られた。あ、ちなみにゲイかどうかは個人情報だから秘密」
ユージさんは余裕の笑みを浮かべたままのんびりと返事をすると、オレ達が頼んだ酒をカウンター越しに手渡してくる。
「もしそうなら、たなっちは困る?」
はい?なにがですか。突然話を振られても、ついていけない。困るってことは、まじにナンパですか?
「別に困りはしませんが、確実に断ります」
りょーが居るからとか以前に、オレはこういうタイプの人と上手く関われない。それにホモになったと自認しているけど、それは森田くん限定の話であって、他の男に興味はない。
「意外とはっきり言うんだー!そんな所も良いね。まあ、オレもどっちでもいいんだけど」
なにを言ってもユージさんは適当というか、さらっと受け流す。大人っちゃ大人な対応、軽ノリといえばそれまで。なにが冗談でなにが本音か分からんよ。
「どっちでもいいらしいけど、一応言っておく」
黙っていたりょーが、これまた本心が見えない曖昧な笑みのままユージさんを見据えて言う。声は落ち着いていて余裕がある感じ。けれどやっぱり冷たい。
「お前、こいつの見た目に騙されてる。チャラけた軽い奴だと思ってるんだろうけど、違うから。そんなノリじゃオトせねえよ」
それだけ言うとちらりとオレを見て笑い、出された酒を飲みながらフロアーに歩いて行った。音楽を聴きながらゆったりと歩くりょーを、女の人達がじっと見つめている。
「何あれ。モリー頭おかしくなった?」
よーくんが唖然としたまましばし固まると、慌ててりょーについて行った。隣を見ると、はるは特に驚いた様子もなく笑顔でユージさんに頭を下げた。
「じゃあ戻ります。よーくんが失礼な態度取ってごめんなさい」
「いやいや、オレも大人げなく感じ悪い事言っちゃったし。謝っといてね……あれはただの八つ当たりだから」
ユージさんははるにすっと頭を下げると、申し訳なさそうに苦笑いした。
あ、これは本心からの謝罪だ。はるは首を振りながら微笑むと、よーくんの後を追って行った。なになに、オレは置いてきぼりですか?
「たなっち放置されてるー!」
楽しそうに笑うユージさんは、さっきの面影もなく明るい。ですよね、皆オレの存在忘れてるよね?悲しい。
「今日はかなり多忙なんだよね。玲央名の日は、客入りが半端ないわー」
てきぱきと酒を作りながらユージさんが笑っていると、噂を聞きつけたかのようにどこからともなくレオナくんが現れた。
「はっはー、オレもちょっとは出世したでしょ?」
無邪気に笑うレオナくんは、ユージさんを見てニッと目を細める。
「お前ブースに居とけよ」
ユージさんはレオナくんを見てもにこりともせずに、ひたすらグラスを拭いている。あら、なんか無愛想。
「ユージ、レッドアイのビール抜きで。昔はオレまわす日ガラガラだったのにね。ユージも若かったしさ」
レオナくんは気にした様子もなくのんびりとユージさんにオーダーする。
ユージさんの反応が微妙だけど、きっと二人は仲が良いんだ。だって、レオナくんのフランクな喋り方は気を許してるって感じだ。
「お前それ、ただのトマトジュースだから。まわりくどいんだよ。しかも何、そのオレが老けたみたいな言い草は!やってらんねー」
ユージさんは不満そうに文句を言いながら、乱暴にトマトジュースを手渡した。
「ユージ、オレの可愛いたなっちナンパしたらしいね?啓から聞いたよ?ダメだよたなっちは。モリーの一人息子だから」
レオナくんはにこにこしながらカウンター越しにユージさんの頭を軽く叩いた。珍しいな、レオナくんがこんなことするの。
つか、一人息子ってなに?りょーはオレの父親的ポジションなの?
「玲央名、お前オレの部屋にあるCD全部捨ててもいいわけ?」
「え、ダメ。ユージ、今日ラストまで?帰りにカレー食べに行こうよ」
トマトジュースをぐびぐび飲みながらレオナくんが無邪気に笑った。ユージさんは他の客のオーダーを笑顔で聞きながら酒を作っている。あれ、スルーですか。
「あそこ朝帰りのホスト多いからうぜえよ。帰って自分で作る。来る?」
顔を上げたユージさんはレオナくんを見て返事を待っている。どっちでもいいよ、みたいな感じ。
「行こうかな。あ、でも啓と昼から約束あるんだよ」
「なら直でマネージャーん家に行けば」
再び俯いて酒を作り始めたユージさんの顔は見えなかったけれど、相変わらず無愛想な物言いに、すごく違和感を覚える。
ユージさんはこれが素?笑顔もあまり見せない、ちょっとワガママそうなオニーサン?
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