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啓の愛読書
昼からずっと、よーくんの家で四人でだらだらしている。真夏日の今日はあまり外出したくない。


「あ、りょーが寝てる」


いつの間にかソファーの下で丸まっていた。さっきまではると喋ってたはずなのに。


「気持ち悪いな、でかい奴が丸まってんの」


そう言って、よーくんがゲシゲシとりょーの背中を蹴っている。


「可哀想じゃんかー、お疲れなんだよりょーは」


暇なオレやよーくんとは違って、多忙なお人なんだからさー。


「森田って寝てると別人みたいな顔だね」


はるが楽しそうにりょーの前にしゃがみ込んで、寝顔を観察している。そしてりょーの髪をツンと軽く引っ張った。
すると、りょーは呻きながら手を伸ばしてはるの頬をそっと撫でた。それはもう優しく、目を閉じたまま撫でている。


驚いたはるが「え?何、森田?」と慌てている。
りょーは目を瞑ったままはるの腕を引っ張って抱き締めようとした。
したけれど、なにかが予想外だったらしく抱き締める直前で動きが止まった。


「森田、ははっ、オレだって、たなっちと間違えてるでしょ」


はるが笑いながら手を退けると、りょーはようやく薄く目を開いた。


「何、はる、あ?」


こんな短時間しか寝てないのに、もう寝ぼけてるし!訳が分からないという顔で、ぼうっとはるを見上げている。


「おい!てめーはるがたなっちだったら何するつもりだったんだよ!人様の家でホモの痴情を晒すな!」


りょーの目の前にすっと立つと、よーくんがりょーの頭をベシベシと叩いた。ホモの痴情。確かにそうです、ホモですね。しかし痴情ってなに、そんな際どいことしねーよ。多分。


「痛っ、て」


りょーは顔をしかめながらもまだ力が入らないみたいで、弱々しく頭を擦って呻いている。


「大丈夫?いくらりょーでも寝起きは軟弱なんだから可哀想だって」


「ひ弱なモリーなんて何の役にも立たねーな!」


「軟弱?ひ弱?」


りょーはゆっくりと起き上がると、顔をしかめながら髪をわしわしかき混ぜている。眠そうだなー。
あーあ、よーくんのせいで起こしちゃったよ。ん?元はといえばはるのせい?


「ごめん森田、寝顔が何か幼いから、イタズラしたくなっちゃってさ」


はるが珍しくニッと笑いながらりょーに謝っている。りょーははるには怒らず、よーくんだけを睨みながら「何なんだよお前は」と文句を言い、不機嫌そうな顔でタバコを吸い始めた。


「せっかく寝てたのにスマンね、起こしちゃって」


隣に腰掛けて頭を撫でてみると、りょーはでかいアクビをしながら首を横に振り笑った。


「いつ寝たか覚えてねえんだけど、かなり寝てた?」

んー、かわいい。目がまだぽけーっとしている。
にやけながら観察していると、りょーの身体が近付いてきた。なに?


「だから止めろっつってんだよ変態が!ヤるなら直ちに帰れ!」


よーくんがまた喚きながらりょーに絡んできたので、とばっちりの被害者になりたくないオレとはるは、りょーを置いてその場から離れる。ごめんよ見捨てて。



いつも通りわやわやと口ゲンカしている二人を尻目に、はると二人のんびり待機する。テーブルの脇に置かれた雑誌をパラパラめくってみると、けーくんセレクトらしい、なんだかやらしい話題が満載のアダルト特集が載っていた。


「あらまー、けーくんてアブノーマル」


オーソドックスなえっちすらしたことがないオレにはいささかハードルが高い。ねえ、なんでこんなことしたいの?


「縛ったら痛いじゃん。つか、アナルってケツの事だよね?え、なんで?なぜにわざわざケツ?」


本気で理解不能だ、女の子はこんなことされて大丈夫なの?なんで許すの?拒否らねーの?
つか、なにがノーマルでなにがアブノーマルなのかがいまいち分からん。
呆然と雑誌を見つめていると、後ろの三人がなぜか固まったままオレを見つめてくる。だれも喋らない。


「よーくん、なんでケツ?こんなこと女の子にしたらやばくね?アナルセックスってノーマルなプレイなの?」


よーくんは黙ったままオレを凝視している。はるもりょーも、タバコを吸いながらこちらを見てくれない。シンと静まり返ったリビングに響いたオレの疑問に、よーくんどころか、だれも答える気はないらしい。


あ、皆さんこんな下品なトークは苦手でした?よーくんは大丈夫なはずだけど、まあ確かにまだお昼、こんな下ネタを話す時間帯ではないわな。ごめんなさいねホント。


「えっと、今のは失言なのでスルーしてー」


「言われなくてもスルーしてんだろうが!いきなり何なんだよ!純愛なら口を慎め!」


「いきなり何言っちゃってんの!たなっちマジで脳ミソ総入れ替えしなさい!このメンツで一番気まずい会話だろうが!」


相変わらずりょーとよーくんってツッコミが冴えてますね、オレそんな上手くツッコミ入れられねーわ。


「君ら二人でコンビ組めば?」


「モリー、こいつ庭に放り出して」


よーくんが舌打ちしながらオレを指差して言う。
なんでいきなり怒ってんの?どしたよ?オレの下品な発言に怒ったの?


「はる、よーくんは情緒不安定なのかね?」


「たなっち、あのさ、下ネタは下ネタでもさ、何て言うか、あ、森田は下ネタが嫌いだから!」


はるが慌ててそう言うと、だからね?と肩を叩いてくる。え、まじ?りょーってそうなの?


「りょー、ごめんよ、オレは下品な男だ。以後気をつけるよ」


確かにそういう際どいエロ話みたいなのって、りょーはしたことないかも。無神経だったよ。こんなオレでは嫌われてしまいそうだ。

「はる、もっとマトモな嘘をつきなさい!このド変態が下ネタ嫌いって、あり得ねーから!こいつの頭ん中ほぼ全部エロで占められてんのに」


「んな事ねえよ、それはお前だろ!あつお、それについてはまた、二人ん時にじっくりと語り合えばいいんじゃね」


りょーはきっと気を遣ってくれている。無理させてるよね、オレって。
そうだよ、そうだ。りょーはオレにやらしいこととかあんまりしてこない。
オレは全身くまなく触っていただいても構わないし、もちろんりょーの全身触ってみたいのに、そんな雰囲気には決してならない。


「今日から心を改めるよ」

こんなにやらしいことばかり考えていたら、いつかりょーに軽蔑されそうだ。よし、煩悩を捨て去る訓練をしよう。


「たなっち、貧弱な性知識をこれで補強しな」


よーくんがにんまりしながら雑誌を渡してくる。今までなら要りませんと返却していたけど、今のオレは煩悩の塊なので一応いただきます。


「オレりょーにロウソク垂らしたりしたくねーよ。なにこれ、怖いってー!」


アチチ!と痛がるりょーを見て興奮なんて出来ない。無理無理、オレには理解出来ない世界だ。
つか、ちょっと想像しちゃったよ、なんか笑える。明らかにギャグだ。
どうせするなら、オレがされたいかも。


「何でたなっちがやる側なんだよ!想像したらかなりウケる!モリーがMとか、マジ吐きそう!」


目に涙を浮かべながら爆笑するよーくんが「地獄絵図!」とりょーを指差している。
うん。オレもちょっと想像して笑ってしまいました。

「お前な、何でいつもいつもオレがそういう役回りになってんだよ!オレはS寄りだっつってんだろ!」


床に寝転んでいるりょーが不機嫌そうに喚いている。そうだ、Sとか言ってたよねそういえば。

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あきゅろす。
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