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入手不可能
朝教室に入り、そのまま席についた。あれから眠れるはずもなく、茫然としているうちにあっという間に朝になった。

何度も携帯を開いてりょーに連絡しようとした。けれど指が動かなくて、なにを言えばいいのかも分からないまま電話をする勇気がないオレは、そのまま画面に映るりょーの番号をずっと見つめていた。


こんなに授業を真面目に受けたの久しぶりだなー。
朝からずっと教室に居る。休み時間、よーくんからベスポジへのお誘いがあったが断った。一人で居たかった。

授業なんてどうでもいいけれど、ここに居ればりょーには会わない。
会いたくないわけがない。ずっと、会いたくて仕方ない。顔を見たい。遠くからでもいいから、見たい。


でも今はダメだ。りょーとなにかすれ違っているままじゃ、またオレは見当違いなことを言ってりょーを困らせる。

りょーが昨日なにを考えていたのか知りたい。会って直接訊ねればいいだけの話だが、今はただ怖い。


オレがちゅーをしたり、りょーを好きだと感じたりすると、いつもなにかおかしな具合になる。そりゃそうだ、よくよく考えれば、男友達からいきなりちゅーされたらおかしくもなる。あの時嫌われてもおかしくなかったくらいだ。


りょーが変になるのはいつもオレの言動が原因。そのオレの言動の根っこにあるものは、オレがりょーを好きだという気持ちだ。
それがりょーとの関係をおかしくさせているのは間違いない。だから、近付けない。近付くのが怖い。


会ったら絶対好きだと感じて、オレはそれを上手く隠せないから、きっとまたおかしなことになる。


好きだという気持ちは、もう折り畳んでしまい込めるような小さなものではないから。
今は一時停止、と都合良く切り替えられれば、りょーの前でだけ隅っこに追いやれるようなポータブル可能な気持ちだったなら、こんなことにはならなかったのかな。

いつの間にか休み時間になっていたらしく、ガヤガヤとうるさい周りの様子に顔を上げる。
ちょっとタバコ吸いたい。ベスポジに行くのは気が進まないので、とりあえず自販機に向かう。




あー、やめとけば良かったよ。ここ、もとはといえばりょーが連れて来てくれた場所なんだった。


なんでこんな時はタイミングがばっちり合うの。
ベンチに寝転びながらタバコを吸う姿に足が止まる。

仰向けに寝転ぶその横顔はいつもとおなじで不機嫌そうに見える。煙を深く吸い込みながら目を細める癖もいつもと一緒。


「りょー」


りょーに関してはいつも自分で自分を操縦出来ない。気付いたら声を掛けている自分にため息が出る。
さっきまであれだけ避けてたのに、いざ会ったら近付きたくてしょーがない。
やっぱりオレは気持ちを一時停止出来ない。


動きを止めたりょーが寝転んだままゆっくりとこちらに顔を向けた。


目が合った瞬間、一年前のりょーを思い出す。
こんな顔をしていた。なにを考えてるか分からない、むしろ感情がないのではというような顔。


りょーは少しだけオレを見つめて、すぐに目を逸らした。何事もなかったかのようにまたタバコを吸う。
いつもなら笑ってくれる。いつもなら手招きして、横に座ったオレに微笑んでくれる。


りょーは突っ立ったままのオレを見ようともしない。心臓が掃除機で無理矢理吸い取られるような感覚になる。ちぎれそうな程痛い。

「りょー、昨日はごめん」

あれだけ考えて悩んで、理由が分からないのに謝るのは逆に失礼だと思っていたのに。だから会わないようにしていたのになんだよこれは。


りょーが背を向けるとオレはいつも最高に情けない奴になる。なにがごめんだよ謝りゃどうにかなると思う自分に腹が立つ。


タバコを消して起き上がったりょーは、真っ直ぐにオレを見て言った。


「何が。オレの気持ちに応えられねえ事?それとも」

ゆっくりと歩いて近付いてくるりょーはずっと無表情で、初めて見た時驚いたのを思い出す。
怖いような、キレーなような。こちらを見つめてくる目は静かで深い深い黒。


「期待する様な事してごめんとか?」


掠れた声で笑いながら言うりょーはオレを見下ろして口を歪める。


いつものりょーの声は色鮮やかだ。皆と話していてもりょーの声だけ色がついてるみたいな、聞いているだけで気持ちがアガる声。
なのに今日は白黒だ。平坦で味気ない。昔とおんなじだ。


「どんだけ惨めにさせりゃ気が済むんだよ」


自販機を背に立つオレのすぐ前で呟いたりょーは、背後にある自販機を殴った。ガンッと鈍い音が鳴り思わず体が強張る。


「今お前と居るのはキツいんだよ。分かって」


チカチカと点滅する自販機が目に入る。今にも消えてしまいそうだ。


オレと一緒に居るの、辛いの?オレを嫌いになったってこと?
分かってって、そんなの分かりたくねーよ。


なにも言えないオレにりょーはため息をついて、ゆっくりとこちらを見てくる。顔には相変わらず表情がない。


「無理だって分かってんのに、それでも欲しい場合はどうすりゃいいわけ。お前にしたらいい迷惑だよな」

そう言ったりょーはもうオレに背を向けていて、昨日に引き続いてまたもやオレは失敗したことを悟る。


りょーに近付こうとすればする程、オレがりょーを困らせて苦しめている。
オレが意味も分からないのに、ただ仲直りしたいがために謝ったせいでりょーは惨めだと言った。


「無理ってなんのことだよー、迷惑かけてんのはオレの方だよ。オレと居るのきついって、もう嫌いってこと?」


好きな人とこんがらがってすれ違ってしまっただけで立っていることすら出来なくなるオレなんて、今すぐ消え去ればいい。しゃがみ込んで顔にかかる髪をはらう。気を抜いたら溢れそうになる涙を必死で堪える。

今のオレには泣く資格はない。オレの足りない頭のせいでこうなったんだから。あれだけ優しかったりょーがこんな風になるのはよっぽどのことだ。


考えても理由が分からないということは、オレは無意識にりょーに嫌な思いをさせていたということ。


これほどまで自分が嫌だと思ったことはない。
一番大切な人を、オレはなぜ何回も傷付けてしまう?こんなにりょーが好きなのに。こんなことになっても好きで堪らないオレはどうすりゃいいの。

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あきゅろす。
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