ELSEWHERE
目指すはまだ先
目を覚ますとすっかり夕方で、冷房が効いた涼しい室内とは逆に外はまだまだ炎天下。暑そうだなー。タバコを吸いながら、横で寝ているりょーを見る。
朝までDVDを観た。オレの選んだゾンビ映画が、意外とお気に召したりょーと熱く感想を語り合い、そのままどちらからともなく寝たはず。
なのに、起きたらちゃんとタオルケットが掛けられていて、りょーの優しさにまた苦しくなる。
もっともっとオレも頑張らねーとなー。オレだってりょーが言ってたみたいに、オレを好きになってよかったって思ってほしいし。
りょーの髪を触りながらなんとなく色々考えてみる。付き合うっつっても、どっちも男だからそんなおおっぴらに出来ることでもないし、今の感じがいい。
大事な友達だし、一緒に居たらホントに楽しい。その上恋愛としても好き。
そんな、色んな関係が合わさった感じ。
一緒に騒ぐのも、ちゅーしたりハグしたりするのも、全部ひっくるめてりょーと付き合うってことかなー。
そんなとりとめのないことを考えながら眺めていると、りょーが呻きながら動いた拍子に、足がテーブルの角に当たった。
「い、てー」
弱々しい声につい笑ってしまう。そんな所で寝るからじゃん。ベッド空いてるのに、でかいのにそんな狭い所で寝るから。
オレの真横で寝ていたりょーはきっと狭かったはず。
「足、ぶつけた」
半目でうわ言のように呟くりょーは足の脛をさすっている。しゃがれた声は一段と低くて不機嫌そう。
「おはようー。風呂入らねーとバイトだよー」
髪に触れながら言うと、りょーは眩しそうに目をしかめながら唸る。
「うん、そう」
寝起きは片言になるりょーがおかしくて頭をわしわしと撫でまわす。
くすぐったそうに少し微笑みながらアクビをするりょーは、呻きながらのびをしてゆっくりと起き上がる。目をこする姿は眠そうで、バイトがないオレは少し申し訳なくなってくる。
「良い」
そう呟いてオレを見て眠そうに笑う。
いいってなに?意味を知りたくて顔を覗き込むと、りょーはタバコの箱をくしゃりと潰して不満そうに唸っている。あ、なくなった?
「オレの吸いなよ」
「ありがと」
まだ声は掠れていて、タバコを取り出す手もどこか危なっかしい。
「つけてあげましょう」
近付いてライターの火を向けると、タバコをくわえたりょーがぼうっとしたまま顔を近付けてくる。
深く煙を吸い込んだりょーが、ゆっくりと煙を吐き出しながら呟いた。
「目覚めが良い。あつおが居る」
なんだかまだ片言っぽいけど、オレが居ると目覚めがいいってことですか?
「まじに?寝起きにこんな顔見たらうざくね?」
自分で言うのもあれなんですが、決して爽やかではないし、寝起きの汚ならしい姿ですよ?
りょーはゆるく首を振りながら否定する。寝起きだからか、ふにゃりとした柔らかい笑顔に、今日一回目の心臓の危機だ。
動物が昼寝してる時みたいな無防備で穏やかな姿に、思わずにやけてしまう。ああー、非常に、
「愛らしい!」
「何の話?」
まだ頭が働いていないらしく、ぼうっとしたまま首を傾げている。
君のことですよ。オヤジみたいなしかめっ面で、タバコをくわえたまま目を瞑っている姿に笑ってしまう。愛らしいって表現が正しいか微妙になってきたけど、オレにはかわいく見えるんだよ。
「あつお」
なに?にやけたまま顔を向けると、りょーは何もないと言ってまた笑う。
最高ですその笑顔!今日のよき日に感謝!
よっしゃ、バイトで忙しいりょーの為に、コンビニへタバコを買いに行こう。これくらいは役に立たせて。
「りょー、タバコもうないんでしょ。オレちょっとコンビニ行ってくるから、その間に風呂入っときなよ」
立ち上がりながらりょーを見ると、首を振りながらいい、と遠慮される。
「いーから。バイトまで時間ねーよ?タバコ買う時間ないじゃん。はい、森田くん急ぎなさい」
「優しい」
柔らかく笑うりょーになんかもう言葉が出ない。
優しいのはりょーだから。オレはりょーみたいにさりげなく出来ないから、こーやって恩着せがましくなっちゃうんだよね。
玄関を出てコンビニへ向かう。まだ強い日差しに心が浮き立つ。始まったばかりの夏休み。こんなたくさんりょーと一緒に居られるんだもんなー。楽しいなー。
近くのコンビニに入り、りょーがすきな飲み物も買っておく。ジジ様なりょーはお茶だよね。
ぷらぷら歩いて森田家に戻る。まだかなり暑い。りょーはバイト行くの面倒じゃねーのかなー。
森田家に到着し部屋に入ると、ちょうどりょーも風呂上がりの模様で、タオルで頭を拭いていた。いつ見ても非常にイイ身体です。
「はい、これ飲みなよ」
手渡した袋から新しく出た烏龍茶を取り出して嬉しそうにオレを見るりょー。
「ありがと」
いえいえ、どーいたしましてー!
りょーは早速タバコを開けて吸いだすと、新しく出たやつ?と物珍しそうにペットボトルを眺めている。
「ジジ様だからお茶すきなんでしょ?」
「お前には言われたくねえよ」
デコをぺちぺちと叩いてくるりょーが、笑いながらペットボトルの蓋を開け、ぐびぐびと烏龍茶を飲む。
「あー、行きたくねえ」
呻くように言うと、ベッドにもたれタバコを吸いながら、眉を寄せている。
そりゃバイトなんてだるいよねー。
ふと思いついて、ベッドに座り濡れたままのりょーの髪をタオルでバサバサと乾かしてみる。
んー、大変だよホント。いつもだらだらしてるのが申し訳ない。
「いつもご苦労様だよー。あんま無理しないようにねー」
「やっぱ良い。あつおが居るの」
タオルの隙間から見上げるりょーが笑顔で少し安心する。されるがままなりょーが目を閉じるので、出来るだけそっと拭いてみる。
なんかオレばっか頼ってんのってだっせーよ。
だからちょっとでもりょーに頼って欲しいっつーか、甘えて欲しい。だから、こーやって些細なことでも、されるがままなりょーを見ると嬉しくなる。
「至れり尽くせり」
静かに呟いて目を閉じたまま笑うりょーはオレと同い年って感じでなんか安心する。いつもは大人だからなー。
「バイト、だるいとかうぜーとかもっと言いなよ。愚痴ぐらい聞くし」
そう言うと、りょーは苦笑いして首を振る。そして優しく微笑む。
「大丈夫」
そう言って笑う姿はもういつものりょーで、それ以上聞かせてくれない。薄い壁を作って、オレの詮索をシャットアウトする。
なんとなく寂しい。そんなくらい、いつでも聞くのになー。
でもまあ確かに、こんなオレじゃまだまだダメだ。
りょーにもっと頼ってもらえるような男になりたい。もっと、もっとりょーに近付ける男にならないと。
笑顔でりょーと別れ、夕方の帰り道をゆっくり歩く。ギブアンドテイクって難しい。今のままじゃ、オレばっかり乗っかってしまっている。
ダメ男卒業の道のりは、思った以上に険しいよ。
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