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独創的な推理
二人で映画を借りに出掛け、だらだら店内を探していると、発見!


「りょー、これこれ!」


横であらすじを見たりょーがぶはっと吹き出す。


「何だよこれ。誰も借りてねえのに納得。さすがあつお」


なぜよ?楽しそうじゃん、ゾンビ系ホラーなのにまったく訳のわからんストーリー!素晴らしい!
このあり得ない設定がミソなんですよ!


「りょーもなんか選んでよー!サスペンス系?法廷物がいいんでしょ」


「あつおにも理解出来る法廷物……ねえよそんなの」

失敬な!ふふん、とまるでよーくんみたいに笑うりょーに抗議する。
映画くらい理解出来るってー!サスペンスでもヒューマンドラマでもばっちりですよ。おそらく。


「あ、これ前観た続編じゃねえの。あつおが犯人をいつも通り外したやつ」


最近よーくんに似てきたんじゃねーの?その意地悪なお顔といい、辛口批評といい。いいのかね森田くん、今のは宣戦布告とみなしますよ。


「続編なら犯人ばっちり当ててみせるしー」


「あーそう、さすが」


ひでー!なにその適当な返事は!ちくしょ、まじで頑張る。


「帰りラーメン食ってこうよー。ゴチるよ!」


夜食にラーメン、最高だ。りょーもバイト帰りだし、腹減ってませんか?


「賛成」


即答したりょーが急に急ぎ始める。かわいーなー、腹減ってたなら言えばいいのに。




「お前すげえ前屈み」


りょーが笑いながら背中を軽く叩いてくる。ちょっと待って、まじストップ!


「ラーメンが出てくるからお止めなさい!」


ああ食いすぎた。前屈みになりながら、出っ張った腹をさする。


二人でひたすら無言でラーメンを食した。会話はほぼなく、目も合わせず食べていた気がする。
所要時間はすごく短かったはずだ、なにしろ二人ともがっついてたし。


「夜食のラーメンに、りょーとゾンビ映画!こりゃもう言うことなしに最高だねー」


「お前飯食った後によくそれ観ようと思えるな」


そう?オレ、流血場面を観ながら肉食えます。
りょーは意外と繊細?自分が暴れてケガさせてるような地雷くんなのに?


夜道をゆっくり歩きながら隣を歩くりょーを見る。
りょーと出会ってから、今年で二回目の夏休みだ。


「ねえ、今度花火したい」

ジュワワッて激しい花火、やりたいなー。で、皆で騒ぎたいよ。
花火なんて、もう何年もしていない。中学時代は部活漬けだったし、辞めてからはあまり地元で出歩いたりしなかったから。


「花火とか、かなり昔しかした事ねえわ」


夜空を見上げながら、りょーはどこに売ってんの?と不思議そうだ。
よし!今度皆でしよう!きっと、すげー楽しいよ。


帰り道をのんびり二人で歩いていると、前から近付いてきた数人がピタリと立ち止まった。
一番前を歩いていた奴が、りょーを見た瞬間、慌てて頭を下げてくる。


「ッス」


後ろの数人もそれぞれ頭を下げて無言で道をあける。地元の後輩くん達なのか。りょーはしばらく相手を見つめていたが、そのまま無視して歩きだす。おーい、せっかく挨拶してくれてんのに!


「りょー、後輩?」


オレの問いに首を傾げ肩をすくめる。もしかしてだれか分かってねーの?
りょーは興味なさげに生返事する。


「さあ」


まあ、後輩なんて全員覚えてはいないよね。けどさ、向こうは確実にビビってたよ?きみはホントどんな中学生だったのだ。


「相当好き放題してたんだねー」


「ちょっとだけ」


いやいや、あの様子は、ちょっとだけやんちゃだったとかじゃないね。めちゃくちゃビビってたよ。


「知らない後輩ばっかだったの?」


「あんまり行ってないから知り合いは居ねえよ」


りょーはなんでもなさそうにしれっと言う。
なんか納得。りょーって朝起きるの苦手だし、面倒だから行かないとかだったんだろうなー。




それから真っ直ぐりょーの部屋に戻って、早速DVDをセットする。りょーの借りてきた方を先に観よう。眠くなってから観たら犯人推理出来ねーし!


買ったばかりの枕にもたれながら画面を見つめる。んー、ふかふか!
りょーはコンタクトを外しているので、いつもの黒縁眼鏡くんになっている。
まじでずりーよなー。オレがそんな眼鏡かけたらまじでやばいよ。オシャレとは人を選ぶんですねー。


素晴らしい横顔を、いつの間にやら凝視していた自分を戒める。
今は映画を見なさいオレ!ちゃんと犯人を当てなければ!


「りょー、あの人だれ」


「服からして明らかに軍人じゃねえの。今出てきたとこだろうが」


あ、そう。それは失礼。
真剣に観はじめるとなんとなく話の展開が読めてきたような。オレ冴えてる!
犯人の目星がつけば余裕なので、のんびり構える。さてそろそろ言っちゃいますよー。


「犯人分かったよ」


りょーがピッと一時停止ボタンを押しゆるい笑顔でオレを見てくる。あ、信用してねーなー。


「オレも」


りょーも自信があるみたいで、ニヤリと余裕な表情。これは先に言った者勝ちだよね。


「犯人はあの牛の飼い主だよ」


間違いねーよ。ほら、りょーだって驚いてるし!ああ気分いいなー!


「牛の、飼い主?」


そう、牛の飼い主。りょーはなぜリピートアフターミーなんでしょうか。
なにか難しい本でも読んでいるような難解な顔でオレを見ている。
あ、りょーはもしや自分の推理が外れていることに気付いた?オレの推理力に嫉妬とか?


「まず、これはハイテク犯罪の話だ。次に牛は出てきてねえと思う。よってその牛、の飼い主とやらも、ぶっ、は」


ベッドにもたれて座っていたりょーが肩を震わせながらベッドに顔を埋める。


「牛!牛って何だよ!」


バンバンとベッドを叩きながら爆笑するりょー。
オレは完璧なはずの推理に自信がなくなってくる。


オレ、ミスった?あれ牛じゃなかったの?なんとなくこのりょーの爆笑から、見当違いな推理だったような気がしていたたまれなくなってきた。とりあえずりょーに話を預けよう。


「じゃありょーの推理はだれが犯人なわけー」


振り向いたりょーは涙目になっていて、眼鏡を外して涙を拭いながらまた笑う。

「牛!牛!」


楽しそうに牛、牛と連呼するりょーはまじで子供だ。かわい過ぎてにやけるが、なんだよー、もういいじゃんかー。バカにしすぎじゃねえのー?
でも、すげーかわいい。かわいいっつーか、なんだろー、涙目とか初めて見た気がする。ああー!


はい。犯人なんてどーでもよいです。オレが外れでもなんでもいいです。
りょーに横からがしっとくっついてみる。間近で見るりょーは顔をくしゃくしゃにして笑っていて、見上げるオレを見て目を細めた。

「牛について説明して」


今は無理。ちゅーしてからちゃんと解説しますから。

「目を閉じなさい、森田くん」


「何してくれるんですか」

素直に目を閉じたりょーが嬉しそうにそう言った。
答えるのがもどかしくて、唇を寄せながら短く返事をする。


「接吻だ」


「は?ふる」


笑うりょーの言葉を途中で遮って唇に触れる。表現が古いのは、なんか恥ずかしかったからですよ。

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あきゅろす。
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