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小男の待ち伏せ
あれから朝まで皆でひたすら騒いだ。昼過ぎまでよーくん家で爆睡して、さっき家に帰ってきた。りょーはバイトだからと、一足先に帰って行った。


よーくん家からぶらぶらとマイホームへと歩く。
ああ、失敗したなー。次りょーにいつ会えるのか聞くの忘れた。バイトのシフトは知っているけれど、それ以外の予定は知らないし次の約束もない。


家に戻りシャワーを浴びながらどうしたものかと考える。どうせすぐ四人で集まるんだろうけど、早く会いたいんだよー。
出来ることなら今日、りょーのバイトが終わってから会いたい。さっきまで一緒に居たのにやべーなー。


部屋に戻り髪を拭く。そういえば、りょーに髪の毛乾かしてもらった。わざとがしがし乾かして、オレの頭が揺れるのを見て笑うんだよ。オレが文句言うともっと乱暴にして、その後すげー楽しそうに笑って、謝りながらそっと頭を撫でてくるんだ。


思い出しただけで苦しくなる。あの時のりょーの声とか手の感触とか、今でも覚えてる。りょーに関する記憶は完璧だ。
ベッドに寝転びテレビを見るが、頭はりょーのことが浮かんでは消え、なんか落ち着かない。


「会いに行こうかなー」


バイトが終わる頃、連絡してみようかな。いや、ダメだ、それだときっとりょーに来てもらうことになりそうだ。
りょーは優しいから、絶対自分が行くってわざわざ来てくれるんだよ。だからオレが行かないと。
でもなー、疲れてるかもしれないのに、アポなしでいきなり押し掛けるのは如何なものか。しかも、さっきまで一緒に居たし。今日くらいゆっくり一人で寝たいかもしれない。


りょーになにかをしてもらったり、したいって要求するのが苦手だ。そういうのって、ただのワガママなんじゃないかと思うし、一歩間違えると相手の負担になりそうだ。


「毎日会いたい」


「私のために時間作って」

元カノさん逹の言葉だ。言われた時は正直うんざりした。オレがおなじように思えなかったからかもしれないけど、付き合うってなんて制約が多くて面倒なんだろう、そう思ってこっそりため息をついていた。
ダメな彼氏でしたよね、ごめんなさい。


最近、あの人逹の気持ちが分かるようになった。オレは今、りょーに会いたい。出来ることならたくさん会いたい。
毎日とか贅沢は言わないけど、りょーが暇な時で、なおかつオレに会ってもいいと思える時は、出来る限り一緒に居たい。
あー、オレってなんだか森田依存症が酷くなってきている。どんだけ一緒に居たいのだ。


何時間もうだうだ考えたのに、出た答えは自己中なものだった。
家を出て森田家を目指す。夜道はまだ暑くて、吐き出す息よりも吸い込む息の方が確実に熱い気がする。
今から行けば、バイト帰りのりょーとおなじくらいに到着するはずだ。




あらら。予定よりもかなり早く着いてしまったよ。早く会いたいからか、早足になってたからねー。
相変わらず人気のない森田家を見上げてみる。藤沢家よりは普通だけどさ、田辺家より一回りはでかいぜ。ご両親二人とも働いていると、こんなにいつも家に居ないのか。万年ぐうたらな田辺母とは全然違うよ。


「なんか、緊張してきた」

不審者にならないよう、なるべく目立たない場所にしゃがみ込む。


タバコ吸いたいなー。でもこんな夜道で吸ってたら森田家に迷惑かかりそうだ。自分を戒め、持ち歩いている携帯灰皿を再びポケットにしまう。ある日突然、セレブ気取りなよーくんがくれた物だ。


「マナーを守り、周りを教育するのが有名人の義務だからね」


だれが有名人?とは聞かなかった。心がけ自体は素晴らしいと思ったから。
ただ一つ、未成年の喫煙自体に問題があると思うのですが、それはどうなんですか藤沢さん。


よーくんを思い出して一人笑っていると、携帯が震える。見てみるとりょーからだった。


「もしー、森田くん?グッドタイミングだよ!折り入ってお話があります。話っつーか相談?こちらからかけ直しましょーか?いやそれよりもまずお疲れ様だよねごめん」


「また何か始まってんのかよ」


電話越しのりょーの笑い声はいつもと同じ。優しい。

「ああごめん、大丈夫。お気になさらず。りょー、お疲れ様。疲れてる?」


「全然平気。昼間かなり寝たし」


歩いているみたいで外のガヤガヤした音と、微かな息を吐く音。声は元気だ。
よかった、疲れてないみたいだよ。


「で?」


りょーはまた笑いながら何があったの、と優しく先を促す。電話越しでも伝わってくる穏やかな空気。


ああ、すげー会いたい。そう思ったらもう勝手に話していた。考えていたまわりくどい言葉なんて一瞬で頭から消え去った。


「会いたいから、来てしまったよ」


夜道なのでなるべく小さな声で囁く。さっき思わずでかい声出しちゃったからなー。


「来たって何、お前どこに居んの」


驚いてる!でも、嬉しい期待を含んだような声だ。よかった、嫌がられてはいないみたいだ。


「ヒントはね、ワタクシ森田くんのストーカーです」

笑いながら告げると、りょーは黙ったままなにも言わない。あれ、もしや、オレの気持ち悪い行動に引いてしまった?


「あのさ、家の前に何かアホっぽい小男が居るんだけど」


しばらく無言だったりょーが、息を切らしながら言った。なんか、笑ってる。
小男ってひどくね?つか、見えてるってことはもう近く?


「ストーカー発見」


足音がした方を見ると、暗闇の中、りょーが笑いながら立っていた。
顔を見ただけで分かった。喜んでくれてる。あー、よかった。


「アポなしで来てごめん」

とりあえず謝ると、りょーは微笑んだまま入れよ、と鍵を開け家の中に促す。
はい、お邪魔いたします。

部屋に入るとりょーはオレを見て笑う。すごく嬉しそうで、見てるこっちまでつられて笑ってしまう。


「オレもさ、バイト行く前に、帰りに行ってもいいか聞こうか迷ってたんだよ。言わなくて良かったわ」


ニッと笑うと、りょーは座りながらオレの腕を引いて横に座らせる。そしてそのまま、抱き締めてきた。


「疲れてるだろうし、迷惑かと思っったんだけど、でも我慢出来なくてさ。森田依存症もここまでくると困りものだね」


りょーは少し驚いた顔をしてから柔らかく微笑んだ。心臓を掴まれたような感覚に納得する。切ないってきっとこういう気持ちだ。


そっと抱き締められ、その優しい腕に苦しくなる。
背中に腕をまわし腕に力を込めてみると、りょーもきつく抱き締めてくる。それが嬉しくてりょーの肩に顔をくっつけて一人盛大ににやける。はあ、極楽。


顔を上げてみると、目が合った。りょーは少し微笑んでから、目を伏せて近付いてきた。


そっと触れた唇の感触に心臓がちぎれそうになる。会いにきてよかった。
まわした腕をゆっくりとりょーの頭まで動かして、髪に触れてみると、くすぐったそうに笑っている。


何度も軽くちゅーされ、唇の形を確かめるみたいにそっと触れてくるりょーになんだかたまらなくなって目を開けると、微笑むりょーと目が合った。ねえ、もっとして。

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