ELSEWHERE
つられて前進
よーくんの家に戻り、テレビを見ながらまったりトーキン。デリバリーで頼んだ飯を食いながらくだらない話で盛り上がり、なんとなく飲み会にシフトする。
いい感じに酒が入ってきてそれぞれが好き勝手に話している。楽しーなー。
「皆バレンタインとかでチョコ貰った事ある?よーくんとか凄そうだよね」
はるが笑いながらよーくんに話を振る。あー、よーくんは確かに凄かった。
「中一の時さ、三年と付き合ってたのよ。そしたらその先輩が牽制しまくってオレに近付く女全員ボコってたわー。それでも密かに渡してくる子も居たけど、その子逹も何故かバレてボコられてた!」
「それ怖い!女の子ってたまに鬼になるよね」
はるが顔をひきつらせながらビールを飲む。
あの先輩はまじで鬼だったなー。見た目は可愛い人だったのに。
「二、三年はそれに懲りてバレンタイン前後は女と付き合わなかった。そしたら毎日告られまくったわ!はっはー!」
よーくんバレンタイン前後は毎日だれかから告白されてたよね。
「凄いねー!オレなんて一年がピークだったな。先生との事があってから、女子から話し掛けられる事すら無くなったし!」
あっけらかんと言うはるによーくんは笑顔だし、りょーも静かに笑っている。
「でも、一年の時はモテたんだろ?そりゃモテるよな、オレのはるだし!」
よーくんが興味津々って感じで質問する。
「よーくんほどではないけど、何人かからは貰ったなあ。懐かしい」
はるはホントに吹っ切れてるよなー。陰のない笑顔は楽しそうだし、単純に懐かしいって顔だ。なんか、先越されてるなー。
はるはどんどん過去を振り落としていってる。オレも見習わないと。よし、ちょっと話に加わりますか!
「オレも三年の時は終わってたよー。あの噂とか、先輩にボコられたのもあって男女問わずシカトか関わらずって状態だったからね。一年の時は彼女に部室に閉じ込められたし、バレンタインってなんか散々な思い出しかねーなー」
皆がちょっと驚いた顔でオレを見ている。うん、そーだよね。オレ自分から昔の話なんてあんまりしないもんね。でも、話したくなったんだよ。この前皆にバスケの話を聞いてもらったりしてから、なんか少し楽になった。
こんな話くらいなら、平気で話せるようになってきたんだよ。
皆のおかげだ。たとえ酒の力を借りてても、ちょっとは前進だよね?
「懐かしい!たなっちの元カノ履歴は変人履歴だし!最新の変人は、超がつく変人かつド変態だけど!」
よーくんが笑いながらりょーを指差す。りょーは変人でも変態でもないだろー。よーくんがなんかすごく嬉しそうにオレを見るから、なんにも言わないよ。
「何それ」
りょーが苦々しい顔で聞いてくる。なんでこーゆー話になると機嫌悪くなんのかね?まあなんにしろ、あれはまじでひいた。
「告られて少しの間付き合ってたんだよ。で、バレンタイン当日、部活終わって部室で着替えてたらさ」
そう、いきなり他の皆がそそくさと帰り出して、代わりに顔を覗かせた元カノ。
「元カノがいきなり外から鍵かけてしばらくここに居ろ!って閉じ込めたんだよ、オレのことを」
「え?何で?」
不思議そうにはるがそれでどうなったの?と聞いてくる。
「んー、野球部のバット振り回して、オレにチョコ渡そうとしてた子逹を撃退してたらしい」
「うわー何それ。よーくんにしてもたなっちにしても、原中の女子って何でそんな血の気多いの?大変だったね」
はるもドン引きでオレを慰めてくれる。そーだよね?おかしいよね?なぜそんなバットを振り回す必要があったんだ?理解出来ない。かなり強烈な人だった。
「何、お前年上好きなの」
はい?なぜかりょーがかなり不機嫌だ。なに、昔の話じゃん。
「なぜに?」
「お前に乗っかってきた女も年上だったんだろ」
不貞腐れているりょーに近付くが、ふいっと顔をそらされる。なに?
「相変わらずだなお前は!何もかもにジェラシー感じてんじゃねーよこの初心者が!嫉妬深い男は嫌われんぞ?」
よーくんがケタケタと笑っているが、嫉妬?りょーが?あり得ねーんだけど。
「過去の話じゃんか。りょーとジェラシーなんて結び付かねーよ!」
相変わらず横を向いたままのりょーはなんかいつもと違う。そわそわしてるし、なんか落ち着いてる普段とは違う。
「もういいし」
なに?なんか拗ねてる?ねえ、拗ねてらっしゃいますか?
「なにー!ちょーかわいーって!不貞腐れた顔も堪らんねー」
後ろからりょーの背中に乗っかると、顔だけ振り向いてオレを睨む。全然こわくねーから!
「ねえ、りょーは?りょーとかかなりモテたんじゃねーの?」
りょーは前にまわしたオレの手をわしわし握りながらあー、と呻く。
「アンケート渡された」
なに、アンケート?
「欲しい物を書いて下さいって紙。書いて机に置いといたら、その後靴箱とかロッカーに色々入ってた」
「何それ!森田に直接聞けばいいのにね。しかもチョコじゃないって凄い」
はるの驚きに乗っかりオレも大きく頷く。
「つか、告白はされなかったの?」
プレゼントだけとはどういう心理だ?
「誰とも話さなかったからじゃねえの。頷くぐらいしか関わった事なかったし」
なんじゃそら。りょーの中学時代は一体どんな感じだったわけ?
りょーはオレの腕をにぎにぎして、懐かしそうに微笑みながら見てくる。
「今のオレからは想像できねえ?」
全然!初対面の時ですら、無口だったけど会話してたし。頷くとりょーはまた笑う。
「だよな。オレも思い出しただけで笑える」
そう呟いて笑うりょーはちょっとだけ寂しそうで、りょーもきっと色々思うことがあるんだろう。
中学の卒アルのりょーを思い出す。
無表情で、上から見下ろすような視線。クラス写真には写っていなかったし、色んな行事の写真にも、りょーは写っていなかった。
「森田もお疲れ」
はるが何故かするめをそっとりょーに手渡して微笑んでいる。優しさ溢れるはるはいつものことだが、なぜするめ?
「酔ってんのかよ」
そう言って可笑しそうにはるを見て笑っている。
こんなかわいい顔で笑うりょーを知らないであろう、中学時代の皆さん。もったいないなー。
「りょーって一年の時とか先輩から絡まれたりしなかったの?」
あの卒アルみたいな顔で廊下歩いてたら、確実に目をつけられそうなんだけど。
「入学する前に呼び出された」
うわ、やんちゃな学校ってそんな感じだよねー。
「で、その時にちゃんとお互い理解し合った」
なにその笑顔。中一にしてすでにやばかったのか。
りょーの中学ってオレの地元と同じくらいやんちゃ系が多いみたいだし、色々やらかしてたんだろーな。
オレ、りょーの過去って、意外となにも知らないな。
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