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ELSEWHERE
意外性と多面性
話している間のよーくんは下を向いたままで、ぽそぽそと出てくる言葉にいつもの勢いはない。話し終わると、口元だけ歪めた変な笑顔で髪をいじる


「話してみると、オレかなりうざい奴だね!自分に軽くひくわ!」


よーくんの話を聞いても、なぜはるが急にそんなことを言い出したのか、オレにも分からない。

ただ、よーくんがどれほどはるを大切に想っているかは分かった。今までのよーくんを知っているオレは、驚きのあまりよーくんを凝視してしまったくらいだ

なにもかもがよーくんらしくなくて、どこから聞けばいいか分からない。ただ、よーくんのこんな顔、オレはあまり見たくない


確かにはるがなぜそんな急に自立を決意したのは気になる。自立というのが、なにを意味するのかが、よーくんと同様オレも分からない。だから、気の利いたことも言えない。かといってとりあえず的な気休めを言うつもりもねーし

けれど、はるに言えずに我慢している正直な気持ちをここで吐き出してほしい


「よーくんは、ホントはどー思ってんの?言ってみてよ」


よーくんはオレの意図が分かっているようで、少し微笑んでからくしゃくしゃに顔を歪めて俯いた


「オレのはるじゃなかったんだよ。オレの知らないはるは嫌だわ。オレ、オレから自立するっつって笑うはるは嫌いだし。あり得ねえだろ、何だよそれ!自立って何なのかも説明しねえんだよ!意味分かんねえし!オレの横に居るはるを、オレが分かってやりたいの!勝手に距離置くみたいな事言われて、マジで、すっげえ傷付いた!」


イライラとタバコを吸うよーくんは、うぜえなオレ、とまた変な笑顔


「でも、はるがそうしたいならしょうがねえな、とも思う訳よ。マジで何だよ、オレこんなキャラじゃねえのにな」



「はるさんの事、好きっすか?」


あきがよーくんの肩をポンとたたいて問う。静かに頷くあきはとても後輩には見えねーな


「は?好きって何?え、オレ、が、はるをラブと言ってんのかい?んな訳あるかよ、オレ男は無理だって!正真正銘の女好きだって知ってんだろ?男とイチャコラするとか、あり得ねえ、だろ?」

よーくん大混乱ぽいな。でもなぜラブが出てくる?


「何で恋愛前提なの」


黙っていたりょーが、よーくんを見ながら聞く。いつもの呆れた顔ではない。ただ、質問しているって感じ

「はあ?何、そういう意味でしゅーいちは言ったんだろ?だって、さっきもオレに、え、そうだよな?」


よーくんが確かめても、あきは肩をすくめるだけでなにも言わない。

オレはよーくんに助け船を出してあげたいけれど、なんせオレの手持ちの船は今にも沈没しそうな船ばかりで、大変心もとない。


だってオレ、恋愛ってよくわかんねーし。ごめんよ、よーくん。でも、りょーの問いかけを聞いて思ったことがある


「もしやよーくんは、自分だけのはるでいてほしーという、愛ゆえの独占欲みたいな感じ?だからラブって真っ先に思ったの?」


よーくんは茫然。りょーもオレを見て茫然。あ、あきはオレを見て頷く。よかったよー、あきまでひいてたら、オレ拗ねるわー


「あつお。お前他人の事は核心つくんだな」


りょーは驚いた顔をしてからまたため息。オレ核心ついた?的確だった?珍しいこともあるもんだわ


よーくんは口を開けたままオレを凝視していたが、りょーの言葉に振り向き


「何それ」


そう呟くと、そのままバタンとうつ伏せに寝転んだ。それっきり黙ったままうつ伏せになっているよーくんの表情は分からない。

しばらく一人にしてあげようと、りょーとあきにドアを指差し、そっと立ち上がる。よーくんは全然気付いていないのか、ドアをそっと閉めた時も動かなかった


「今日は帰ります。何か余計な事言った」


ぼそりと申し訳なさそーに頭を下げるあきに否定する

「あきは余計なことなんて言ってねーよ。よーくんがあんな風になるってことは、きっとすげー大切なことだから。それに、どっちかっつーとオレじゃね?余計なこと言ったのは」


オレの言葉にあきは少しだけ頷いたが、すっかりしょぼくれたようで、後で謝りのメールしときますと言って帰って行った。やさしい奴だからなー。気にするなってメールしとこ。


残されたりょーと玄関を出て、庭に向かう。芝生の上に座り、よーくんの様子を思い出す


よーくんのはるへの気持ちは、愛ゆえの独占欲?まじで?自分の発言なのに、なんか妙な気分だよ。別に否定する気はねーけど、だってよーくんだよ、あの女だいすきなよーくんが男をそんな目で見るのって、かなり想定外だ


隣に座るりょーもなにか考えているようで、芝生の間に生えている雑草を抜いてはそこらに投げている。きみ、藤沢家の雑草を抜くのは大変素晴らしいが、そこらに投げるのはどうかなー
どうやら意地になってきたみたいで、少しずつ移動して、抜いては投げを繰り返している。りょーってたまにすげー面白い。観察されているのも気付かずに、難しい顔で草を抜いているりょーに笑いが込み上げる


りょーと草。似合わねーなー!考え事してるりょーって珍しい。こんな顔するのかー。思わず見入ってしまう。伏し目がちな横顔はちょっとこえーなー


よーくんとの付き合いの方が断然長いのに、それでもやっぱり今日みたいにまだまだ分かんねーこともたくさんある。だからりょーなんて、知り合って一年だから、もっと知らないことばっかだ

こーやって色々発見していくんだよねー。最初の頃からは想像すら出来ないくらい、りょーは色んな面を持っている。色んな顔を見せる。オレは発見する度に驚いてばっかだよー


りょーと居ると、こーやってなにも喋らなくても居心地がよい。さっきからお互い目も合わせていないが、なんとなくりょーの気配っつーか、空気で分かる。今はシンキングタイムなんだろーなって。
不機嫌そーにも見えるが、今は違う。ただ、自分の中の考え事に集中してるだけだと思う。


それにしても、はるは一体どうしたんだろーか。あの気遣い名人なはるが、よーくんを正面から拒否するなんて、そうそうねーよ

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あきゅろす。
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