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田辺被弾
「あいつらと一緒ってなに?」


なにに照れてんの?りょーはオレを見て、髪を弄りながら呟く。


「あー、だから、いつでも来れば。で、来た時に使えば、これ」


だから買ったの?それ。ねえ、オレが行った時使えるように買ったの?


「まじ?いつでもって、あのさ、いつでも?」


「いつでも」


あ、そうですか。つか、よーくん達と一緒って、枕は寝る時に使うって、んで、エロくなるからって、ああやばいやばい!頭の中が変態思考で大忙しだ。


「二人で寝たらエロくなるか、試してみる?」


あー、ぶっ倒れそう。
オレ、りょーのこの魅惑的な笑顔に弱いんだって!
最近めっきりスケベ野郎なオレに、このやらしい笑顔は刺激が強過ぎるから!


「嘘、冗談。困り過ぎ」


りょーが苦笑いしながらデコをぺちりと叩いてくる。困ってはいないんだけど。むしろ、試したいんだけどな、変態なオレとしては。

でも、りょーは冗談で言ってるみたいなのに、是非とも試しましょう!なんて言ったら、きっとドン引きされるよなー。


「あのさ、お前オレがバイトの間一回帰ってんだろ?別に居てていいから。どうせ誰も居ねえし、そのまま待ってて」


優しい笑顔を見上げていると、嬉しくて体がそわそわしてしまう。だってさ、それってオレを多少なりとも信用してくれてるってことだよね。
今まで、他人の家にオレだけが居るのもまずいかなと思って、りょーがバイトの時は一緒に家を出ていた。

こんなことが、どれだけオレを喜ばせているか分かってないだろうな。オレが今どんだけ心臓がちっこくなったか、どんだけハグしたいか。


「顔、変」


はっと笑いながらりょーは歩きだす。知ってますよ、そんなこと。だって、オレ今最高レベルのにやけ面だし。


「ありがとう。すげー嬉しいって!ね、まじ?こんなことしたら、オレ座敷わらしみたいに居着くよ」


「大歓迎」


顔だけ振り向いたりょーの笑顔にまた変態度が上昇する。ああっとこりゃ今すぐ離れないと、オレはうっかりボディータッチしてしまう。慌てて入り口で待つ二人の元にダッシュすると、りょーがは?と驚きながら追いかけてくる。
ああ、この気持ちの高ぶりをなにで発散すればいいのだろーか!


「きみたち!りょーは二人と一緒だって!枕買ってくれて、座敷わらし大歓迎だってー!」


「あっそ」


よーくんは長い付き合いなので、オレのパッションが通じた?さすが!


「え、よーくん今の理解したの?」


はるが驚いたようによーくんを見ている。


「分かる訳ねーだろ!バカ田辺のトンチキ発言はスルーすりゃいいんだよ!」


あっれ、オレの独りよがりだったか、失敬。さすがによーくんでも今のは分かんねーかー。


「何なんだよお前は!」


追い付いてきたりょーが、後ろから頭をぺちりと叩いてくる。いてて。


「パッションですよ、パッション!りょー、夏休みだよ!まじ楽しみだねー」


「かなり」


返事をするりょーが頷きながら笑う。それだけでオレは明日が一段と楽しみになる。



帰り道を四人で喋りながら歩いていると、よーくんの携帯が鳴る。


「はいはいー?」


しばしもしもし?と問い掛けていたよーくんは顔をしかめ、プチッと電話を切った。


「どしたのー?」


「非通知で無言。うぜえ!昔の女とかじゃね」


気になるより苛つくって感じのよーくんを、はるが心配そうな顔で見ている。


「大丈夫?」


「全然大丈夫ー!しつこいようなら番号変えるし」


よーくんはそれよりさ、とはると新しく出たタバコについて熱く語っている。
はるも気になってるみたいだけど、楽しそうにメーカーを語っている。
昔からよーくんの元カノ達は過激なのやしつこいのがたまに居たからなー。相手にしないのが一番だろうし、よーくんは慣れてるもんねー。


「よくある事なわけ」


りょーが前を歩くよーくんを見ながらぼそっと呟く。どーでもよさそうにクッションを握ったりしながら歩く姿に顔が緩んでしまう。やっさしーね。


「多分、大丈夫だと思うよー。もし続く様なら話してくれると思うし」


「どうでも良いけど」


またそんなこと言っちゃってさ。かっわいーなー!


「りょーにはしてやられたよ、まじで」


惚れた弱味とはこのことでしょーかね。りょーの色々な面を知る度にヘロヘロになるオレは、骨の髄までふやけている気がする。


「まーた始まった」


がしっとオレの首に腕をまわし顔を覗きこんでくるりょーは、面白いモノを見るような目をしていて、弾んだ声に肺がひゅっとなる。

真っ昼間から、しかも街中で男が男をまじで好きだと感じた時は、皆さんどうされてるんでしょーか。


「ああちくしょ!ここが外でなければ!」


思わずあげた声にりょーの腕がびくっとなる。あ、驚かせた?


「は、何怒ってんの」


「あ、違う違う。勘違いだよー、落ち着いて」


「お前が落ち着け」


後頭部を枕で軽く叩かれる。見上げると、りょーは呆れた顔で笑っていた。


「りょーはまじいい奴」


「それはない」


りょーはそう言ってニッと笑い、持った枕を袋ごと前にぶん投げた。


「だっ!」


ナイシュー。枕は前を歩くはるに見事当たって、はるは変な声をあげ振り向く。

「何?ビビった!今の森田だよね?」


はるは笑いながら枕を拾い振り向くと、こちらに向かって投げ返した。


「何なんだよ!」


あ、ちょっと!


「ぶべっ」


……森田くん、今きみはなにをした?このオレを、盾にしたかね?


「ごめんたなっち!まさか顔に当たるとは!今の声、何か、凄かったね」


はるまで笑うか、ひでー!まともに顔に当たったんだから、変な声も出ますよ!

「たなっち、鼻当たった?涙目んなってっから!」


よーくんは爆笑だよねもちろん。知ってます。


「鼻当たったの、悪い」


笑いを噛み殺しながら覗きこんでくるけどさ、笑いを我慢出来てないですよ!


はるが投げた時、オレの後ろに隠れるだけならまだしも、オレを押し出したこの目の前のやんちゃくん。


「ひっでー!オレ流れ弾に当たった、罪なき一般市民じゃんかよー。まじで鼻痛てーから!」


ホントはもっと怒ってやらねばならない。教育上よろしくないからね。
でも、ガキみたいに大口開けて、目なんか顔中笑顔でなくなってて、掠れた声でバカ笑いしてるりょーに、怒りなんてわかねーよ。


こーゆー見かけによらずガキなとこ、ホント好き。
思わずつられて笑ってしまうオレは、まじで負け戦決定だよ。りょーにだけは勝てる気しねーわ。この小悪魔めが!


「魅力溢れる小悪魔に翻弄されっぱなしだよ」


「それはオレの台詞だし」

りょーの言葉によーくんが爆笑する。


「このバカが小悪魔?あり得ねー!小悪魔っつーのはもっと色気ある可愛いコとかだろ!」


確かに一般的にはそうだよね。オレの中ではりょーだけど。


「よーくんもそんな感じだよね」


はるがちょっと照れたように言う。なにそのはにかんだ笑顔は。


「ああっはる!そうだよ、オレが小悪魔代表だよ!色気とはすなわちオレだ!」

あー、よーくんがアホになった。はるも最近なんだか変態だよね。

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あきゅろす。
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