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夏への準備
あまり記憶がないまま期末という拷問がいつの間にか終わり、さっき終業式から帰って来た。
待ちに待った夏休み!いやいや、待ってましたよー!
一度着替えに帰り、うきうきと藤沢家に向かう。
明日からなにしよっかな、かなり楽しみなんだけど。夏真っ盛りの天気に心も浮き立つ。
藤沢家のでかい門をくぐり玄関を開けると、ちょうど二階から降りてきたよーくんと出くわす。
「お邪魔いたすよ」
「はいはい、たなっちが一番だわ」
まあオレが一番近いしね。リビングに入り、ソファーにぽすっと座る。
よーくんはオレの横に座ると、ニヤリ。
「モリーとどうなの?」
レオナくんの呼び方が大いにお気に召したよーくん。すっかりモリーが定番となっている。
「どうとは?」
「何してんの?いつも」
なにするって、なにしてんだろー。特になんもしてねーなー。りょーはバイトで多忙な人だしさ。
「付き合うとはなんですかね?」
オレ、よく分からん。大体女と付き合うのすら、適当っつーか、流されるまま、されるがままだった。マニュアルなんて皆無である。
「ああ、君ら二人ともアレだもんね。まともな経験ないもんね!モリーなんて女ん家かラブホしか知らなさそうだし!」
笑うよーくんはご存知なんですか?まあ、あれだけ彼女が居たら経験は豊富だよね、確かに。
よーくんはオレの視線に気付き、苦笑いする。
「実はオレも微妙なんだよねー。男と付き合うとか、何すりゃいいの?」
あ、そうなの?さすがのよーくんも男が相手だと分かんねーの?
オレとりょーは前と変わらないしなー。いや、変わったよ、ちゅーとかしてるじゃん!しかも、濃厚なのをしてるじゃないですか。
あー、にやける。
「おいバカ田辺、にやけてないで聞きなさい」
ごめんなさいよ、ちょっとやらしー妄想してました。
「女みたいにあれしたい、ここ行きたいとか、きゃいきゃいしねーだろ?今まで女としてきた事をそのまま当てはめるのって、かなり無理あんでしょ。男だよ相手は。んで、オレも男だ」
そう呟くよーくんに頷く。そりゃそーだ。ごもっともだよ。二人が水族館とか遊園地とかラブ!って感じで手とか繋いで行ってたら、かなり笑える。笑えるし、周りはドン引きだよ。
「ベタな事すんのなんてサムイしあり得ねーよ。男二人んな事する気にもならないっつの」
よーくんは髪を前髪のわかれ具合を気にしながら、でもさー、と続ける。
「真面目に考えると、変わった事ってイチャつくぐらいしかねーのよ」
鏡を取り出して髪をセットし直すよーくんは、しんみりって感じ。んん、それはつまり
「ベタなことなんてやってらんねーけど、それなりのことはしてみたいとか?」
「相変わらず他人の事だけはクレバーだな」
「まあねー」
よーくんのご要望を叶えてあげたいが、如何せんオレの頭じゃろくなプランは浮かんでこない。
「どんなことなら一緒にしてもいいって思える?」
オレの問いに髪を触る手を止め考えだすよーくん。
そこらのギャルより髪型へのこだわりがある。いつもどこから見ても完璧だ。
「ラブホなら行きたい」
「あら、それははるの合意が必要ですな、つか、え?まじで?」
ラブホってことはあなた、あれですか、つまり
「冗談!オレも今何か微妙だしさー!」
微妙?なにが冗談?ラブホが冗談?そーですか。ちょっと想像してしまったよ、なんか照れる。
「じゃあ、サプライズで登山とか行けば?」
「行くかボケ!登山とオレがマッチするか?髪乱れんでしょうが!サプライズで行っても、体力ないオレが途中棄権すんのがオチだろうが!もっと素敵な提案をしなさい!」
よーくんはわがままっ子だなー。じゃあ男二人でもおかしくないこと、うーん
「ねえ。したいことすればいーんじゃね?一緒にして楽しいこと、すればいーじゃん。それが水族館なら水族館行けばいいし、ラーメン屋ならラーメン屋行けばいいよ。行って無理矢理ラブラブしなくてもさ、バカ話して楽しめばいいよ。二人が楽しめりゃ、なんだっていいんじゃね?」
いつも楽しそうだよ?二人とも。このままじゃダメなの?
よーくんは、ははんと笑い鏡をしまう。どうやらセットに納得した模様だ。
「判定、田辺の勝ち!」
オレはだれとの勝負に勝ったの?でも勝ちっつーことは冴えてたの?オレ。
「それでいいんだよな、それが楽しいなら、それでいいんだよな!バカ騒ぎが出来るって、男と付き合うメリットでしょ!男とじゃなきゃ出来ない事もあるじゃん!二人ん時にイチャつきゃーいいんだよ」
プラス思考なオレ最高!といきなりご機嫌なよーくんにオレまで楽しくなる。
だよね、やりたいことすればいいんだよ。男と付き合うこと自体がイレギュラーなんだから、普通と比べても意味なくね?
二人でうんうんと頷き合っていると、爽やかな笑顔と共にはるが入ってきた。
斜め被りのハットが非常にお似合いだ、小顔が際立ってる。こうやって見たら、はるも高校生には見えないよねー。
「外暑い!汗だくだよ!」
汗だくなのに、汗臭くなさそうなはる。手には、もしやそれは!
「はるナイス!」
よーくんがはるの持つ袋を覗いて笑う。袋には、アイスとでかいコーラ。
「無性に食べたくなって、何か色々買ってきた」
「はるありがとー!オレ冷凍庫に入れとくよ」
オレのすきなでっかいアイスと、りょーの抹茶をセレクトして冷凍庫に向かう。りょーは抹茶味がすきだ。なんかジジくさくてかわいーよねー。いつもオレにジジイとか言うけど、りょーだって意外とジジ様だよ。
「森田待っとくの?優しいね」
笑うはるに頷いて、部屋を横切り庭に出る。
ジリジリとやけつくような太陽に目を細め、芝生の上に寝転ぶ。あっちー!
「たなっち何してんの」
アイス片手に庭に出てきたよーくん達を見上げながらTシャツを脱ぐ。
「日焼けタイム!」
なかなか黒くならないオレですが、気合いで頑張るぜーい。
「オレも焼くわ」
よーくんが横に寝転ぶと、はるがオレらを見下ろして笑う。
「隣の人見たら驚くだろうね!じゃあオレ焼けてない足焼こうかな」
「はる!てめえオレん家の庭でパンイチになろうとすんな!それこそ驚かれるわ!苦情くんぞ!」
がばっと起き上がったよーくんが、笑いながらはるの頭を叩く。
「違うから!膝まで捲るだけだって。こんな所で脱いだら、苦情どころか通報されそうだよ」
ジーンズの裾をまくりながら笑うはる。はるならたとえパンツ一丁でも爽やかだろうから、通報はされない気がするよ。
「あっちーねー」
「暑い、かなりイライラしてきたし」
「夏休みか、楽しみだな」
目を閉じながらぼーっと三人で会話する。なんだか肌がチクチクしてきた。
りょー早く来ないかな、アイス食いたいよ。
「何なのお前ら」
声がしたので見上げると、オレらを見下ろすりょーが居た。目が合うと柔らかく微笑んでくる。
ああ、まじでお美しい。
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