ELSEWHERE
森田の願い
なかなか返事が出来ないオレに苦笑いして、りょーがまた話し出す。
「諦めるってどうすりゃいいんだよ、どうやったら忘れられんの…諦められねえんだけど、迷惑?」
りょーが、聞いているだけで心臓が痛くなる声でぽつり、ぽつりと呟く。
涙を流すだけが泣くことではないんだ。りょーは弱々しく笑いながらオレの髪をずっと触っている。
悲しいのはりょーなはずなのに、苦しくて息すらまともに出来ない。諦める?忘れる?オレのこと?
ここで間違えたら、もう二度とりょーはオレを見てくれないような気がした。
「見てるよ、オレはりょーしか見てねーよ、諦めるってどーゆー意味?」
りょーはいつもどこでもだるそうにアクビばっかりする。オヤジみたいな声のアクビが面白い。
こんなカッコよいのに無頓着で、ケガしたら放ったらかしにするから額の横とか唇の横に傷が残っている。放っときゃ治ると言う姿は子供っぽくてかわいい。
ホントに優しいりょーは、自分が優しいって全然自覚していない。言ったら照れてムスッとする。
りょーの空気が好きだ。喋らなくても、別々のことをしていても落ち着く。
言い出したらきりがないくらい、好きな所だらけだ。そんな人を好きになるな、好きでいるなっていう方が無理だ。
りょーを真っ直ぐ見て伝える。恋愛感情込みだけど、りょーを見ていることに嘘はないよ。
「あつお、違う。オレはこういう意味で見て欲しい」
ゆるく首を横に振るりょーが近付いてきて、一瞬だけ唇に触れてきた。
「オレはあつおにしかこんな事したくねえんだよ。あつおが前したのとは違う、ちゃんと気持ちがあるんだよ。意味解る?」
そう言って小さく微笑むりょーは久しぶりに見るいたずら顔だ。
待って、ちゅーだよね?今のって。りょー、なにしてんの?気持ちってなに?意味って、オレにちゅーしたりしたいってこと?
急速にスピードアップしていく心臓は脳ミソに血を送り過ぎだ。卒倒しそう。
「りょーはなぜちゅーするんですか」
オレの心臓、もーちょい頑張れ。最速記録を更新しそうな勢いでドクドクしている。手に変な汗かいてきたし。あー、ファイツオレ。
「あつお」
名前を呼ばれて手を握られる。体が震えそうなオレはどんだけ情けねーの。
「ずっと、好きだった」
オレの目を見て、静かな声でりょーは言った。
「聞きたくなかったかもしれねえけど、どうしても伝えたかった。無かった事にはして欲しくねえよ。勝手だけど、最後に言わせて」
りょーはとてもすっきりしたような顔をしていて、笑う姿は迷いが見えない。
「あつおがどういうつもりでしたのか知らねえけど、お前にキスされた時オレがどんだけ嬉しかったか分かるか?同じ気持ちじゃなくても構わないって思える位浮かれた。いつもお前に触る度に、オレがどんだけ堪らない気持ちになってたか分かるか?今だってもう離したくねえんだよ」
りょーがオレを見て首を傾げる。なにも言えないオレを見てため息をつくと、頭にまたそっと触れてくる。
「あつおがオレをこんなに変えた。お前に会ってから毎日が変わった。一人だと暇だって思えるようになったんだよ、お前が頑張れって言ってくれるからバイトも頑張れる。お前と会ったから、今のオレが居る」
りょーの目は真っ直ぐオレを見ていて、静かな声で話す一言一言が、重い。
「全部、お前が居るから。本当、自分でもビビる位大事なんだよあつおが。こんな言葉じゃ全然伝えきれてねえけど」
話す言葉に合わせて移ろうりょーの表情。口元に笑みを浮かべ伏し目がちに語る姿は、触っちゃいけないような、じっと見守らないといけないような空気を含んでいて、単純にきれいだと思った。男にきれいってのもどうかと思うけど、他に言葉が浮かばない。
「ずっとお前次第なんだって覚悟はしてた。オレを好きにならなくても仕方ないと思ってた。ダメでも傍に居られるだけでいいと思えた。けど、現実になるとかなり辛いし」
言い終えたりょーは小さく一緒に居るのキツい、と呟いた。そしてオレの手を握ったまま俯く。
これは現実だよね。りょーが、オレを好きって言ってる。好きって、オレと同じ好き?勘違いしてる?
「りょー、好きって、恋愛の意味の好き?」
ぎゅっとりょーの手を握り返す。りょーはゆっくり顔をあげて見つめてくると、しばらく黙った後ゆっくり頷いた。
「オレの全てはあつお。言葉の意味そのまま、マジで全てだし。それがお前の負担になんのは分かってる。でも、自分でもどうにもなんねえくらい、お前が好きなんだわ」
あまりにも都合よく物事が進むと、現実を受け止めることが出来ない。
だって、ずっとりょーがオレを見てくれなくてオレを避けて、笑ってくれなかった。もう傍に居られないと思ってた。
「すげー悲しかった。オレさ、消えてしまいたいと思ってた。りょーが居ない毎日なら、もう明日要らねーの。毎日考えてた、どーしたらりょーがまたオレに笑ってくれんのかなって、そればっかさあ」
泣かないって決めていた。どんだけ最近泣いてるか考えて、まじで恥ずかしくなったから。さすがに高校生にもなっていつも泣きじゃくってたらやべーじゃん?だから決めてたのに。
おかん、ごめんよこんな情けない息子で。
顔中水浸しなオレは、もうどーしよーもない。
「りょーが好き。しにそーなくらい好きだオレ」
オレ、ずっと言いたかったんだ。前は告げるつもりはないって思ってたくせに、いざ言ってみるとずっと、ずっと言いたかったって思ってる。りょー、オレ、やっと理解した。今やっと分かった。
「もし出来ることならオレを好きで居て欲しいって思うし、全てとは言わないけどりょーにとって大きな存在になりたい」
前から少しずつ思っていたのかもしれない。叶わないと辛いから、心の隅っこに追いやって気付かないふりをしていただけなのかも。
涙ってかなり出るもんだ。いつまで流れるつもりか知らねーけど、いい加減止まって。オレ今きっと最高にきたねー顔してる。泣きまくっていることが急に恥ずかしくなってきて思わず下を向く。
やっちまったー!一世一代の告白が、とんだ恥を晒してしまった。ホントにだっせー男だよオレって。
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