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濁った夜空
夜。オレはもう吐く息も小さい。しぼんで消え去る一歩手間だ。息を吸う度にりょーを思い出して苦しくなり、吐く度に自分のしたことを考えて途方に暮れて悲しくなる。


歩きながら思い出すのはりょーのこと。
りょーはずっとオレを避けている。目も合わない。
そしてなにより笑わなくなった。笑わないだけじゃない。感情がなくなった気がする。なにを考えてんのか全く分からない。


皆で話していても、よーくんがバカ話をしたら前なら呆れた顔をしたりバカにした顔で笑ったりしていた。りょーはあまり喋らないけど、リアクションはちゃんとあった。

でも今は、話を聞いているのかも分からない。顔は初めて会った頃とおんなじ。表情が変わらなくて、目もなにも語らない。ただ、そこに居るだけ。


そんな姿を見る度に、オレの体は少しずつ縮んでいって空気を上手く吸えなくなる。痛くて、痛くて。
涙なんて出ない。オレもう今、空っぽって感じだからねー。なーんもない。


森田家への道のりを、夜空を見上げながら歩く。
濁った夜空は、空気が重たそう。黒以外になにかきたない色をたくさん混ぜたような色に見えた。きったねー世界だ。毎日、なんにもなくなった。意味も、意義もなんもねーし。


別に恋愛だけが全部とは思わないけれど、りょーのあんな姿を見ていると、オレが居ること自体が申し訳なくなって消えてしまいたくなる。と同時に、自分の周り全てが色褪せていく。


森田家に到着し二階を見上げる。りょーは帰って来てるみたいだ。電話をかける手が震えそうになる。出てもらえますように。


いくら待ってもコール音だけが響く役立たずな携帯。りょーは出てくれない。想定してた結果だけど挫けそうになる。電話にすら出たくないのかー。


それでもなんとか自分に喝を入れ家の前に居るとメールを送信する。今りょーと話さないと、オレ一生後悔する。


しばらく待っているとバタンと音がして玄関からりょーが出て来た。オレを見て少しだけ驚いた顔をしたりょーは、じっとオレを見てから手招きして家の中に入って行く。


後からついて行き、りょーの部屋に入る。ずっと黙ったままのりょーに話す勢いがしぼみそうだ。
りょーはベッドに座ると相変わらず表情が消えたままの顔で見つめてくる。


よし、頑張れオレ。
よーくんに言われた通りゆっくりとりょーに近付き横からりょーを抱き締める。肩に顔を押し付けるとりょーの匂いがして、オレの心臓はもう引きちぎれそうだ

抱き締めた瞬間、りょーがびくっと体を強張らせるのが伝わってきた。嫌だったら申し訳ないけど、少しだけ我慢して。ごめん、よーくんの助言なんだ。


『あいつがまた逃げないように抱き締めときゃいいんだよ。たなっちが抱き締めりゃ大人しくなるから。絶対振りほどけねえよ、あのバカは。きっとあいつが先に我慢出来なくなる』


こんなことでりょーが話を聞いてくれるのか不安だし我慢出来なくなるってのが気になるが、はるもなにやら頷いていたので信じよう

もう離れたくない。久しぶりに感じるりょーの体温に視界はぼやけ息が詰まる。りょー、好きになってごめん。オレのせいでこんがらがってごめん。もう絶対ちゅーしたいとか言わないし態度にも出さないから。


「りょー、ごめん。オレのせいで嫌な気持ちにさせてる。なのに、オレのせいなのに、どんだけ考えても全然分かんねーの。オレなんでもするから、オレ死ぬ気で脳ミソ改善する。だから今までみたいにりょーの傍に居させて」


「あつお」


声が、優しい。ずっと聞きたかった。低いけど静かで優しさが伝わる声。
オレの名前をりょーが呼ぶ度に、あまりすきではなかった自分の名前がすきになった。りょーに呼ばれるとなにか特別な名前になった気がした。


思いがけない優しい声に視界が一層ぼやける。情けないので下を向いたままりょーをハグしていると、頭上でりょーが小さくため息をつくのが聞こえた。思わず顔を上げると目が合う。


「あつおが何を分かんねえのか知らねえけど、もういい。気持ちが違うならどうしようもねえし。それも分かってたけど、でもいつかオレを見てくれんじゃねえかって勝手に期待してただけだから。お前いつ気付いたの」


髪をくしゃりとかきあげて笑っているりょーはオレを見つめる。笑顔だけど目は悲しそうなままだ。


「それでもお前は今までみたいに一緒に居ろって言うわけ?無理、んなの耐えらんねえ…オレにはあつおしか居ねえんだよ、お前しか無理なんだよ。他は何も要らないのに」


俯いたりょーの表情は分からない。ただ声が、絞り出すような声が痛い。


なにが言いたい?オレしか居ないって、それはオレの好きだっていう気持ちと違う?りょーはオレになにを求めてる?友達として居てほしいの?分からない。
でも、オレが横に居たら耐えられないって。こんな辛そうに言われたら


「あつお」


「もういーよ。ごめん、りょー。もう二度と言わねーから。もう近付かないようにする。嫌な思いさせてホントごめん」


なにか言葉を続けようとするりょーを遮る。これ以上聞けなかった。痛くて、痛くてもう無理だ。


もうなにもかも壊れてしまったなー。オレが壊してしまったんだよね。これからオレどーすりゃいいの。りょーが居ないとか、本気で無理すぎ。
離れないといけないのに体が動かない。この腕を離したら、きっともう二度と抱き締めたり出来ない。そう思ったら腕が動かない。


「言わせてもくれねえの」

静かに呟くりょーが顔を上げて、肩にもたれるオレの頭に触れてくる。
こんな時でもその手は優しくて、そっと触れてくる指先がオレの前髪をはらいゆっくりと上を向かせる。


りょーに触れられる度に自分が大事なものになったような気持ちになる。それくらいりょーはそっと、優しく触れてくる。


「お前にこんな事されたらキツいんだよ、オレからは離れられねえだろ。なあ、どうすればオレを見てくれんの、何をしてもオレじゃ無理なの?」


静かな声でそう言い、じっと見つめてくるりょーの目に浮かぶのは諦めの色。
間近で見るりょーは最近よく見せる悲しそうな笑顔。どうすればいい。りょーはなにを望んでいる?

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あきゅろす。
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