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同じモノ
今日はりょーがもーすぐ家に遊びに来ることになっている。バイト終わったから今から行くとのこと。まだかなー。

ベッドに寝転びながら携帯を開き、りょーのバイト予定を見る。学校あるからあんま遊べねーよなー。オレがりょーに合わせても、全然足りねー。

悶々としているうちにウトウトしていたみたいで、階段を上がる音で目が覚める

「あ、りょー、どうもー」

寝起きの為寝転んだまま挨拶すると、りょーは笑ってこちらに来る。


「何、寝てたの」


「そーみたいだわー」


ふわっとあくびをして、伸びをする。りょーはベッドの足元に腰掛ける。


「寝癖ついてっし」


頭をくしゃりと撫でながら微笑むりょー。寝起きのオレにはいささか強烈過ぎ、息苦しい。ふー。


落ち着こうとタバコに手をのばす。するとりょーの手がそっとオレを阻む。


「ちょっとだけ」


そう言ってオレの頭を自分の肩に引き寄せ、そっと撫でてくる。りょー、ちょっと待って、いきなりこれは勘弁して!

最近家で二人きりになることが少なかったから、こんな近付くの久しぶりだ。
ああーりょーの匂いする。苦しいけど、最近ちょっとうだうだしてたからうっかり泣きそうになるくらい満たされる。嬉しい。


我慢出来ずそっと背中に腕を回してみる。オレを撫でる手が一瞬止まって、りょーがぎゅってオレを抱き込む。

「あつお」

名前を呼んで首に顔をうずめる。そんなりょーの癖がオレをもっとたまらなくさせる。苦しい、苦しい、もう、無理。
好き。すっげー好き。


「りょー、もーちょいこうしててー」


腕に力を込める。りょーがこうやってオレをハグしてくれている今、オレはなにが起きても怖くないよーな気になる。それと同時に、離れていく瞬間を想像して寂しくなる。
まだ、まだもーちょっと。

「あつお。ああやべえ」


またオレを優しく呼ぶ。なんなの、なんでこんな優しく呼ぶの。なんでこんな優しくハグしてくれんの?


今までとは重みが違うのは好きだって理解したから?それとも、この瞬間にもますますりょーを好きになっていってるから?


どちらも正解のような気がする。ハグも、ちゅーも、りょーとするからこそ意味がある。だってオレ、こんな純情キャラじゃねーし。

心臓が最速だ。体に力が入るよーな、逆に力が抜けるよーな、なんとも言えないこの感じ。しあわせなのに息がつまるようなこの苦しさ。こんなのりょーしかならねーもん。

そっと体を離されて、りょーがオレを見る。目が合って、心臓はもう限界。
オレの頭ん中は、もう一つのことしか浮かばない。
ちゅー、したい。


「りょー」


ちゅーしたい、と言おうとした時、オレの探知機がなぜか作動した。言っちゃダメだって。


「どした」


りょーが優しく笑いながら覗きこんでくる。


「りょー、ダメだよ、こーゆーのしちゃ」


絞り出されたオレの声は、なんだか自分の声じゃないみたいで、違和感。


なにがダメ?こーゆーのしちゃダメってなに?さっきまでとは違う痛みを訴える心臓に戸惑う。
無意識に呟いた自分の言葉に、頭がついて行かない。でも心臓は分かっているみたいで、ますます痛くて、苦しい。


「何で」

いつの間にかりょーは離れていて、オレに問いかける口調も眼差しも、さっきまでとは違って鋭い。


ごめん、待って、りょー、オレも分かんないんだよ。なにか言わなければと思うのに、喉は言葉を塞き止める。もう、なんだオレ。


俯いたオレにりょーはなにも言わず、ため息をついた後、タバコに火をつける音が聞こえた。


「嫌ならもうしない」


しばらくしてから聞こえたりょーの声からは、感情がない。どうでもよさそうな投げやりな感じ。


その声を聞いて、オレの心臓は潰れてしまいそうになる。頭がぐらりと揺れる。

どうでもいいのかな、りょーにとっては。さっきのハグに、深い意味はないんだよね。嫌ならしないって。

嫌なわけねーじゃん。オレはしにそうなくらい嬉しいよ。だって好きだからさ。でもそれってオレだけじゃん。


オレは好きだ。りょーが好きだから全てに意味があって大切だ。こんなこと、りょーとしかしたくねーし。でも、りょーにとって意味がないなら、それって
とても悲しい。


そうだ。悲しい。りょーはオレの気持ちとマッチしているわけじゃない。
こーゆーことにオレと同じしあわせを見出だすことはなくて、価値も、重みも違って当然だ。オレとは違うんだよ。


違うことが、悲しいのか。だから、ちゅーしたいって言えなかったんだ。
なるほど。


オレは好きだからちゅーしたい。でも、りょーが違うのにしちゃダメだと。
たとえ気持ちが違っても、オレは嬉しくなるから。オレを好きじゃなくても、頼まれたからしただけだとしても、やっぱ嬉しいから。嬉しくなった後の悲しみは大きさが倍だ。


別に片想いとやらでオレは満足だ。りょーに好きになってもらおうなどとは露ほども思わない。
オレがりょーを好きなのは勝手にオレが好きになっただけだし。
けれど、オレのこの勝手な恋愛感情とやらに、りょーを巻き込むのはよろしくない。オレのわがままだ。


「オレとりょーじゃ同じモノを見出だせないのにこんなことしちゃダメだよー。残念ながらオレはりょーとは違うんだよ」


無意識に出た言葉。言った瞬間後悔する。情けねー声だな、なにしてんの。もしオレの言った意味が通じたら、きっとりょーはひくだろーな。


「同じモン見出せねえってオレとは違うって、お前、いつから気付いてたの」


なんでりょーが愕然としているかが分からない。なにかがズレている気がする。なに、ちょっと待って、


「分かった」


俯いたままそう呟いたりょーの声が震えていた。


意味が分からないのにこの瞬間をめちゃくちゃ後悔している。もっかい戻して、やり直させてはじめから。なにこれ、待って。
絶対おかしなことになってる。まただ、またオレなんかしてしまった。


帰るわと言って出て行くりょーをオレは追い掛けられなかった。

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あきゅろす。
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