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甘さについての黙秘
りょーが好きだと理解してからも、前までとおなじ平和な日々を送っていた。そう、送っていた、ついさっきまでは。



いつも通りの昼休み、よーくん達がコンビニに出掛けたので二人でだらだらと過ごしていた。


暖かい日差しと横に居るりょーの存在。そして満腹な腹。まさに至福の時だ。眠くなってきたオレは、りょーにもたれてうつらうつらしていた。

するとりょーがいきなりオレの顔を両手で挟みじとーっと観察してきた。
間近で見るりょーの顔と、優しく触れてくる両手の感触に心臓は茹で上がり、顔中がたるんでしまうのは致し方ない。
りょーにこんなことされちゃ、嬉しさのあまり自分から近付いてしまいますよ。

それだっていつもとおなじなはず。なのにりょーはなにやら難しい顔をして呟いた。

「お前、最近変」


一瞬変なのはいつもだってと答えようとしたが、頭の中を不吉な予感が駆け巡った。

もしやりょーが変だと感じているのは、オレがりょーを好きで好きで変態万歳!となっているこの状態のことではなかろうか?と。


りょーがまるで初めて見る生き物のようにじろじろと観察してくる。


「普通だってーなによその目は。りょーこそ変だし」

やばいやばい。なぜりょーはいつもそんな鋭いのだ。若干声がうわずってしまう程度で済んでよかった。だってオレ嘘つくの下手なんだってー!


「はい嘘」


そう言ったりょーの声はさっきより低く、恐ろしさのあまり顔を見ることが出来ずに俯く。ピンチだ。


一瞬にして脳ミソが分散して四方八方へ逃亡しようとする。今すぐ逃げないとやばい。即時退却!


「おい、逃げんな」


ニターリと、それはもう意地悪そうな顔でオレの首をがっちりホールドするりょーは、そのままオレの正面にまわりこむ。


「オレには言えねえの」


それずるくね?そんなことをそんな哀しそうな顔で言われたら、すげー罪悪感だってー。
そりゃ、言ってもいいことなら迷わず言いますとも。でも今回だけは無理。言うつもりもないし、言いたくもない。


「黙秘権を行使します」


ごめんよりょー。りょーのためでもあるんだよ。こんなこと、聞かない方がいいに決まってる。


「何だそれ。黙秘するっつうことはやっぱり何かあるんじゃねえかよ」


はいその通りです。しかし今は黙秘中なので一言たりとも喋りません。
りょーは不満そうにため息をつくと、オレから離れてじっと見つめてくる。


「あつお、今何か困ってるか?」

困ってはいないよ。好きが毎日増えていって、たまに戸惑うことはあるけれど、それもまた嬉しいから。
首を横に振り否定すると、りょーはまた質問する。


「オレ何かしたか?」


遠慮がちに言うりょーの表情は曇り気味で、オレの前髪を触ろうとした手を直前で引っ込めた。


「違う違う!りょーは全然なにもしてねーから!オレがちょっと一人でキープしておきたいだけ!」


黙秘権行使は即刻中止!りょーをしょぼんとさせてしまうのは絶対無理!オレが無理!

「ごめん、まじで大したことじゃねーから放置しておいて!つか、オレそんな変?」


自覚するのとしないのとじゃ態度に差が出るのか?
りょーはやっと少しだけ微笑んで頷いた。


「変。いつも以上にアホな顔だし、最近益々甘い」


まあアホ顔は認める。りょーに会うと顔がだらんとしてしまうからなー。でも甘いってなに、甘えすぎってこと?


「確かに甘えすぎだオレ。公私混同も甚だしい!ホント自分が恥ずかしいよ!今から改める、ごめん」


「待て待て。公私混同って何だ、甘えてるなんて一言も言ってねえから。甘いっつってんの」


最近お気に入りらしい変な味のお茶を飲みながら笑うりょーは、指でオレの顔を指しながら目を細める。


「ここら辺が甘い」


意味が分からん。甘いとはなに。隙があるとかの甘い?それとも甘口、辛口の甘い?他になんかある?


「りょー、詳しい解説を希望します。それはどーゆー意味かね?良いこと?悪いこと?」


「黙秘権行使で」


ええ、それ思い切りさっきの仕返しじゃね?解説してくれないとどう返事をすればいいのやらだよ。
そのまま黙っているりょーは教えてくれるつもりはないらしい。ニッと笑って意地悪な顔をする。
まあ言いたくないなら別にいいんだけどさー。


「本当に大した事じゃねえの」

横から覗き込んでくる顔は少し心配そうで、ああ優しいなって嬉しくなると同時に段々後ろめたくなる。


オレは、りょーに言えないような気持ちをこっそり隠しているのか。そんな言えないような気持ちでりょーと居るのって、あんまり良いことじゃないよねー。


いつまでりょーに隠しておけるのか、正直あまり自信がない。りょーは鋭いからいつか気付きそうだな。
でも、それまでは今みたいに横に居たい。


「時に森田くん。戦をしているとします」


「あーまた始まった。はいはい、何ですかセンセー」

呆れ顔で見てくるりょーはそれでもちゃんと相手をしてくれる。初めて会った時からずっと優しい。


「負けが濃厚です。それでも挑みますか?諦めますか?勝機が見えるまで待ちますか?」


りょーならどうするのかちょっと気になっていた。しょぼいオレはどれも選べずに立ち止まったまま。
りょーを諦めるなんて絶対無理な気がするし、好きって言うのは絶対避けたい。かといって、勝機はゼロ。

別に悲観的になっているわけじゃないけど、最近このままでいいのかなって感じる瞬間が増えてきてる。
気持ちを隠してぬるま湯から出ようとしないオレとは違って、りょーならきっぱり選びそうだなと思う。


「心理テストか何か?」


不思議そうな顔をするりょーはこんなくだらない質問にも真面目に答えようとしてくれる。まじで優しい。

「ただの問い掛けだから深く考えなくていいですよ」

そう言うとりょーはしばし考えるように黙る。
そんな何気ない横顔すら、オレの心臓を掴んで離さない。好きって、苦しい。

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あきゅろす。
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