番外書庫
年越し蕎麦
冷たい風の吹く真っ暗闇の外では雪がひらひらと舞い、暖かい部屋の中ではもう既に新年へのカウントダウンが始まっている。
この学園にきて初めての年越しだ。
「あ。ちーちゃん本当に降ってきたよ。天気予報のお姉さんドンピシャだ」
ソファーの上から窓の外を見ていた光季が感心の声を上げる。
雪が降った事よりも天気予報が当たった事に驚いているようだ。
そりゃそうだろう。さっきまであんなに綺麗に月が見えていたのだ。いきなり雪が降り出したら驚くに決まっている。
「えー!ほんとにっ!?僕も見る!!」
仲良く話しながら外を見詰める二人は何でそんなに盛り上がったのか、窓を開けようとし始めた。
「海斗!如月!楽しいのは分かりますが、開けるのはやめるべきですよ?せっかく暖まった部屋が冷えてしまう」
「俺何にもして無いんだけど…」
「だってー初雪だよ?見ないと損だって!」
何が損なのか…
狭霧は頭を押さえながら溜め息を吐いた。
その間、光季は首を傾げ、萩乃は窓にかぶりついている。
……そろそろ助けてやるか
「ほらそこの三人組、蕎麦出来たけど直ぐ食べるか?」
テーブルに四人分の蕎麦と箸を並べ終え、ソファーで戯れている三人よりも先に椅子に座る。
テレビの中ではリポーターが、鐘を鳴らしに来た参拝客にインタビューして回っている。
「うん食べる!!あと二分であけおめだよ〜」
「大晦日なのにお邪魔してしまってすみません」
「ちーちゃんの手料理久し振りだなぁ」
萩乃、狭霧、光季の順で席に座った。
右隣りは当たり前の様に萩乃が陣取る。
前には光季、斜め右には狭霧だ。
「あの二人がいないとなんだか平和だな」
「そうですね。いつもの騒動の原因は、ほぼあの二人ですから。毎年この日だけは平和なんですよ」
皆で『いただきます』と手を合わせるその光景に俺が呟くと、礼儀正しく箸を持った狭霧が微笑みながら肯定をしてくれた。
「そうだよねー僕は冬休み中は実家に帰るし、会長と副会長はアレだもんねぇ」
「お…僕は中等部時代から毎年一人で年越しは寂しいので狭霧先輩と二人で蕎麦食べてましたよ。あの人達はアレだし」
ここに二人が居ない理由っぽい『アレ』とは一体何だろうか…
うん。悩むより聞いてみよう!!
「なぁ…その『アレ』って何?」
ハテナを飛ばす俺以外の三人が三人とも苦笑いをした。
そんなに酷いの…っ!?
「アレですよ…」
「うん。アレはね…」
「ちーちゃんアレって言うのはね…」
「「「修羅場」」」
「がは…っ!!死ぬ死ぬ死ぬ!!!マジで死ぬ!!」
「死ぬなら、書類に判を押してから死ね。お前が終わらねぇと俺が千純の部屋に行けねぇんだよ!」
「俺も頑張ってんだよ!ちょっと転た寝してただけで首に回し蹴りって…一歩間違えば死ぬに決まってるだろっ!」
「大丈夫だ。お前は殺しても死なない」
「いや死ぬから」
「うだうだ言ってる暇があるなら早くやれよ」
「チッ…分かったよ。やれば良いんだろ。やれば。はぁー千純不足だ…」
結局、屍と化した帝王と黒いのを隠そうともしない左京が俺の部屋に来たのは年が変わって一時間後だった。
‐081231 柚希拝。
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