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24:《荒れた世》



すべての人が平等ではならないと誰が説いた?



今の世界は、世の中はどう?



平等じゃないでしょ


だって、この門や塀の向こうには飢えた人や死んだ人たちが沢山居る。
今やこの現状はここだけじゃない。この彩雲国全てがそう。王の息子である公子たちが王位争いをしているから、心ある官吏の声などは下には届かず、力のない平民たちは次々と死んでいく。
貴族たちは門を閉ざし、外には多くの人達が助けを請おうと居る。
けれど、その扉が開くとはない。
無慈悲に関係のない民を巻き込む王族に反吐がでる。

夕喜は何も出来ぬ己の不甲斐なさを、力のなさを呪った。
怒りを耐える為に噛んでいた下唇が切れて血が滲むも、今の夕喜にはどうする事も出来ない。
どうして、どうして、多くの人達が死ななければならないの?
――分からない
―――分からない。  
分かりたくもない。人を人とは思わぬ者の考えなんて。
理解できやしないし、したくもない。 けれど、彼らから見れば自分もその中のひとり。
「なん、で・・・」
無意識に呟いた言葉。
ただ一つ気にかかるのは劉輝のこと。
第六公子である劉輝。まさかとは思うのだけれど、彼までがこのくだらない争いに関わっているのだろうか。
だが、その考えは直ぐさま否と結論付ける。
彼はそんことじゃしない、と。


広い紅家本家の外と中を隔てる塀の前に夕喜は居る。
それを、じっと長らく睨みつける様に見ている。

「夕喜…」
百合が名を呼ぶも振り返ることはなく。ずっと塀を見ている。
「どうして・・・」
呟きにも似た一言。
けれど、その場にいた百合の耳にはしっかり届いた。
どうして多くの人が苦しまなければ、死ななければならないの。
塀の内と外では大きく違う。
他の貴族もそうで、他の庶民達もそうなのだろう。
貴族は門扉を固く閉ざし、庶民たちはその前に助けてくれと群がる。
けれど、貴族達が門を開ける事はけしてない。
そして、その門前には多くの人達の屍が横たわるだろう。

それだけの人の命が奪われれば気が済むのだろう。
どれだけの血が流れればこの争ういは終わるのだろうか。
この国の、彩雲国の多くの国民が犠牲となった争い。
けれど、これはまだ始まりで序章であることを。
それを夕喜は知らないし。他の者達はそれを知る者はいない。








そして、王位争ういが始まって数年の月日が経過した。



ある日、紅州にある紅本家にとある一報が届いた。



絳攸 国試状元及第





百合は勿論、玖浪や白邑達その報を喜んだ
中でも特に喜んだのは夕喜だった。
「本当!母様。兄様受かったのね」
「えぇ、そうよ。夕喜」
綻んだように笑う百合。
未だに信じる事が出来ないが、紅本家を包む雰囲気がその報によって幾分和らいでいるので、微かな実感はある。

会いたい。 会って直接自らの口か「おめでとう!」と言いたい。
叶わぬ思い。 その前に立ちはだかるのは、辛く、厳しい、現実。
世界が、こんなのじゃなければ!
恨んでもせん無き事だって分かってる。
けれど、出来ないのは、人としての性なのか…。


終わらせて、早く、早く、一刻も早くこの冷たい争いを終わらせて。
どれだけの、犠牲を払えば終わるの?
どれだけの人が死ねば終わるの?


始めた人達よ、この無益な争いを終わらせて下さい。
人は、あなた方の都合で左右されていい道具ではありません。



兄様、どうかお願いです。
官吏となったのなら、この無益な戦いに終止符を打って下さいませ。
父様、どうかお願いです。
夕喜の為を思うのならば、この戦いを終わらせて下さいませ。
これ以上、人が死ぬのを夕喜は耐えられません。



誰かに、"死ね"と思われた人達。
それは、勿論私たちも含むのでしょう。
神よ、この彩雲国に現れたと云われる八仙よ。
どうか、お助け下さい。
力のない者はこうして、神頼みするしか、もう他に道がないのです。
日に日に、悪くなっていく。
はたして、政など行われているのか。
いるのならば、何故終わらない。




「夕喜」
呼ばれたので振り向けば、そこには、玖狼がいた。
顔には、幾分疲れが出ている。
無理も無い。この状況で、紫州貴陽にある王宮の政は滞り、状況が改善されぬまま、既に数年の月日が経っている。
日に日に悪くなるばかりで、心労は積もるばかりだろう。
「来なさい」
そう言われたので、「はい」と返事をして後をついて行く。





09.12.28

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