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20:《当主名代からの文》


『主命に背いたことをお許し下さい、主上、台輔』
『ただ、我等は守りたかったのです。紗稀様を』


ここには居ない王と麒麟に許しをこう沃飛と悧角








夜の帳が降りた頃に夕喜は目覚めた


「一体・・・なにが・・・」


何かがあったことは確かであるが、その“何か”が思い出せない

とても、大切な事なのに・・・




そして、ふと思い出した


もう、劉輝には会えないんだ・・・

そう思うと自然と涙が溢れて来た



「りゅ、き・・・ごめんね、ごめんね・・・・」

ヒック、ヒックと言う泣き声が部屋に響き渡る










夕喜の様子を見に来ていた百合は、偶々聞いてしまった


何も言えずにただ扉に背を預けて俯いたままの百合
そして、未だに夕喜の泣き声が聞こえる部屋から逃げるかのように立ち去った

廊下には、百合の去っていく音が響く





バタン


勢いよくドアを開けて中に入った百合
その音聞き黎深は思わず振り返る
そして、百合の様子に只ならぬ物を感じる


「何があった」
「・・・」

百合は、ドアに背を預け、俯いたまま何も言わない

「百合」
声から分かる、黎深が怒っている事が

そして、百合はポツリ、ポツリと語り出した




話を聞き終えた黎深は何も言わずにただひたすら黙ったままだ
その空気は百合にとって非常に重かった


「百合、お前は夕喜共に紅本家へ帰れ」


その言葉を聞いた瞬間、百合は理解が出来なかった


「玖琅がせめてお前と夕喜には紅本家に帰って来てほしいと手紙を寄越してきやがった」

そして、ポイっとその紙だったらしき物を投げて渡される

ぐしゃぐしゃにされたその紙は、黎深が怒り任せにしたものだろう
その紙を見れば、心配だからせめて百合と夕喜には帰って来てほしいと書いてあったのだ


「でも・・・っ」
確かにこのままこの貴陽に居るよりは紅州の紅本家の方が安全だろう
けれど、百合は知っている。だって幼い頃からあの邸で暮らし、ずっと見てきたのだから、あの場所が、どれ程冷たいか・・・そして、その場所に置き去りにされ続けた黎深と玖琅を…
紅家3兄弟を取り巻いていたあの環境
同じものを今度は夕喜が同じ立場に置かれるのは想像するだけで背筋がゾッとする
実際に紅家当主の黎深と百合には実子はいない。居るのは、養い子の絳攸と夕喜のみ。幾ら養い子と云えど親族中では、長兄邵可の子、秀麗と当主名代の玖琅の子の伯邑と世羅に続く二人である。
本家に行けば、ここぞとばかりに親族達は取り入ろうとするだろう。
親として、そんな事には絶対にさせたくない
そんな親族に関わりを持たせたくないからこそ、黎深と百合は絳攸は別として夕喜を長系以外の親族と関わりを持たせない様に育てて来たのに、否応なく持つことになってしまうだろう
それは、まだ幼い夕喜にとってはどれ程の負担だろう


「玖琅は絶対に守ると言っていた」
扇をゆらゆらさせながらそう黎深は言った

黎深だって百合と同じことを考えているのだろう
けれど、紅家当主の“子”として暮らす以上これは避けられないのだろう
百合だっていつかはこんな日が来ると分かっていた
けれど、それは予想以上に早く訪れた


「分かった、夕喜を連れて紅本家に帰るよ」
それが、百合の出した結論だった。



そして、あくる日そうそうに百合と夕喜は、貴陽に黎深と絳攸を残し紅州にある紅本家へと旅立ったのだった




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