ばれんたいんでー



「あの…これ…!!」

「ん…?」


二時間目が終わっての休み時間。

移動教室のため、人通りの少ない渡り廊下を歩いていると
後ろから男にしては高めの声が聞こえてきた

その直後、腰に少し強い力で、手の平サイズの茶色の箱に赤いリボンを可愛らしく巻きつけた物を押し付けられ
咄嗟に押さえると、受け取ったと勘違いされたのか
顔はもちろん、耳から首までも真っ赤にした顔も知らぬ男子生徒は元来た道を小走りで駆けて行った

ぽかんとそれを見届けた後、腰と手の間にある箱を摘まんで目の前に持ってくる

それを同じく隣でぽかんと見ていたクラスメイトが、表情を変えてにやりと口角を上げて笑った


「封真君ー、それはもしやバレンタインチョコですかな〜?」

「さあ?」

「ちょ、質問を質問で返すな!」

「ん?ちょっと、桃生。それ手紙じゃね?」

「だな」


溜め息を吐くと、箱を隣にいたクラスメイトに押し付けて足を進める
移動教室だし


「えっ?!桃生、これは?!」

「やる」

「はあ?!」

「俺、神威のしか貰わないから」

「惚気んなよっ」


ノリの良いクラスメイトに背をバシバシ叩かれ、少しイラッとしながらも目指していた理科室が見えると
扉の前に良く知る細身の姿が見えた


「神威?」

「あ」

「どうしたんだ?忘れ物でもしたのか?」


学校にいる時は、上級生の教室には入りづらいのか
登校時と下校時以外は、廊下で擦れ違いざまに軽く雑談するしか接触が出来ない

つまり、神威がわざわざ俺に会いに来るなんて珍しいという事だ
ましてや移動教室なんて、奇跡に近いと思う


「ん」

「ん?」


薄いピンクの箱にスカイブルーのリボンを…恐らく急いで鞄に入れてきたのだろう、少し崩れた格好で飾りつけている物を胸に押し当てられる

当然ながら受け取るが、これは…


「迷惑だったら…捨て…や、やっぱ迷惑でも食べて。じゃ…」

「え、ま、待て」

「な、なにっ」


そのまま通り過ぎようとする神威の腕を優しく掴む

いや、何はこっちのセリフ…

という言葉が零れそうになったが、ほんのり赤くなった神威の顔に、喉に突っかかったまま出てこなかった


「これ…バレンタインチョコ?」

「…っそれ以外に何があるっていうの」

「ふ…」


さらに赤みを増した頬に思わず笑いが零れてしまう


「な、なな何わ、笑って…!」

「ふはっ噛みすぎ…ふふっ」

「―っ」


きゅっと唇を噛んでふるふる震える神威に、あ、と思う間もなく、ばっと腕を振って掴んでいた手を振り払われる


「ばかー!」


いつの間にやら50mくらい離れた所にいて、こっちを向いて叫んでいる神威に、周りにいた生徒達がぎょっとして神威と俺を交互に眺めているが、今の神威には関係ないらしい


「ち、チョコ食べなかったら!!…っ覚えてろよーっ!!」


なんて、可愛い捨て台詞を残して、自分の教室がある下の階に素早く降りていった

それを軽く手を振りながら見送った後、緩む頬をそのままに、可愛いコイビトから貰ったチョコに唇を押し当てた




今すぐ食べてしまいたい…





fin.




今更ながらのバレンタインネタ
書くのめちくち楽しかったです。
これは学パロ…なのか?








あきゅろす。
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