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鯖の味噌煮/バキコシ
椿のオフの今日、昼食は鯖の味噌煮であった。御飯と、味噌汁と、魚と、お浸し。丁寧に盛られ並べられたそれは酷く椿の胃を空腹へ誘った。もう見慣れたキッチン。そのキッチンは椿のものではない、彼のものである。椿は滅多に料理をしない。煮魚なんて言語道断、つまり。彼がこの料理をしたのだ。同じ男でありながら情けない、椿は苦笑した。甘辛い匂いがする、鯖。切るところから始めたのか、切り身なのかは椿にはわからない。母はいつも切り身を買っていたからだ。しかし、味付けだけはどこのとも違う、いつも同じ母だけの味。椿は鯖の味噌煮と言ったらあの味だった。もうすっかり食べていない。もやもやと頭に霧が掛かったように考え込んでいると、エプロンが厭に似合う彼が訝しげに椿を見詰めていた。「どうかしたのか」「いや、何でもない…ッス」「そうか、…食べないのか」「あっいえ、いただきます」勢い良く魚を裂いた。骨は驚く程少なかった。そして、美味しかった。そっくりだと思った。思い出せない、何かに。「とっても美味しいです」「そうか、それは」良かった、と彼はとてもきれいに笑った。椿は、お母さんみたいだ、と思った。

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あきゅろす。
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