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◆一輪の花?(エムペ版)
B


――龍兄の心配性は出会った頃から何一つ変わらない。

龍兄は昔から、私が風邪をひいて寝込んだ時や転んで怪我した時にも、真っ青な顔をして救急車だ!医者だ!と、よく大騒ぎしていた。

そういえば一度、本当にかすり傷だけで救急車を呼んだ事もあったけ。

さすがにこの時ばかりは、兄に「どこの世界にかすり傷で救急車呼ぶヤツがいるんだっ!」て、もの凄く怒られていたが……龍兄も負けず「馬鹿野郎!凜が傷物になったらどうするんだっ!!」と、珍しく怒鳴り返していた。

普段の龍兄は温厚を絵に描いたような人間で、喧嘩は勿論、大声で怒鳴ったりする事なんて、滅多にある事ではない。

龍兄は優しさで出来てるんじゃないかと思える程、慈愛深い人なのだ。

私は、そんな龍兄の優しさが大好きだし、尊敬もしている。


ふと、前方から強い視線を感じた。

目線を上げると、先程から淡々と見つめられていたのであろう、斉藤先輩の視線とぶつかった。

未だ斉藤先輩の傷口を押さえた状態のままなので、私の顔と、斉藤先輩の顔との距離が近い。

「あ、……えっと、じゃあ、保健室行きましょうか」

ニヤニヤしていた顔を至近距離で見られていた気まずさから、苦笑いを浮かべ立ち上がる。

「いや、一人で行ける」

斉藤先輩はそう言うと、ハンカチを自身で押さえ、立ち上がり、軽く腰を屈めると、私にしか聞こえない小さな声で「手間かけさせたな」と、囁く。

ポンと、私の肩を叩くと、スタスタと保健室のある方向へ歩き出した。

斉藤先輩って、表情が顔にでなくて判り辛いけど、根は、いい人みたいだ。

「えっ、あ、先輩、俺も……」

幸田君が慌てて、斉藤先輩を追い掛けようとする。

「幸田と尾崎は、ここの後始末を頼む」

斉藤先輩は、顔だけをこちらに向け、そう言うと、さっさっと歩いて行ってしまった。

私は、置いてけぼりの子犬の様にしゅんと肩を落とした幸田君を気遣い、明るめの声を意識する。

「よし、じゃあ、片付けよっか! さっさっと終わらせて斉藤先輩の様子見に行こう! ね?」

自分の所為で誰かが傷つくのは、酷く心が痛む。

きっと、幸田君も似たような気持ちを抱いているんだと思う。

「――ああ……うん。そうだな」

幸田君は落ち込みながらも、小さく微笑み頷いた。




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