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◆一輪の花?(エムペ版)
A


「窓ガラスが割れた時、何人かの生徒が逃げて行くのが見えた。多分、この辺りでよくキャッチボールしている連中だろう」

割れた窓ガラスの向こう側は、芝が植えられた中庭になっており、生徒達の憩いの場だ。

昼休みなどの休憩時間にキャッチボールやバスケットなどをする生徒の姿を私自身も見かけている。

――ああ、じゃあ、これは幸田君を狙っている奴らの仕業じゃないって事か。

「そうですか」

心なしホッとし、張り詰めていた緊張をやわらげる。

「幸田、怪我はないか?」

相変わらず感情の伺えない表情の斉藤先輩だが、幸田君に問いかける声は、なんとなく優しい響きをしているように感じた。

「あ、ありませんよ! ――っ、スイマセン! 俺のせいでっ!!」

幸田君は、床に膝と手を付き、ガバッと勢いよく頭を下げた。

「頭を上げろ。謝罪の必要もない」

「でもっ! 俺をかばったから先輩は怪我をっ」

「俺が勝手にした事だ、気にするな。……尾崎」

不意に斉藤先輩に呼ばれ、幸田君から斉藤先輩へと視線を戻した。

斉藤先輩の視線は、一点の方向へと向けられている。

視線を辿ると、龍兄が必死の形相でこちらに走り寄ってくる姿が見えた。

「凜! 圭一!」

「あ、龍巳」

幸田君も龍兄に気付き、顔を上げる。

「二人とも大丈夫か? 怪我はないか? ――って斉藤ぉ!? どうしたんだ!?」

龍兄は目を見開きスライディングでもするんじゃないかと思えるほどの勢いで、しゃがみ込んできた。

斉藤先輩の額に押し当てているハンカチに染みた朱いものを見た途端、サーッと青ざめた顔色に変わる。

「きゅ、救急車呼んで来るっ!」と、身をひるがえし今にも走り出そうとした龍兄の腕を斉藤先輩が無造作に掴んだ。

「大袈裟にするな。かすり傷だ」

「何言ってるんだ! 血がでてるじゃないか!!」

龍兄は、どうやら相当、混乱しているらしく、一応、斉藤先輩の後輩という設定なのにも関わらず、敬語を使わず普通にタメ口だ。

幸田君が不信感を持ったらどうするんだ。と、思う反面、相変わらずだなと、心の中で苦笑する。

「龍兄。これから保健室に行くから、先に保健医捕まえておいてくれないかな?」

出来るだけ冷静な声で、ゆっくりと言葉を紡ぐ。

龍兄は数回瞬きを繰り返し、落ち着いた様子で「――判った」と、頷いた。

走り出したいのを堪えるように早足で去っていく龍兄の後姿を見て、思わず口元が緩んでしまう。




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