◆一輪の花?(エムペ版)
事件
生徒会室を飛び出し、廊下を疾走しながら、任務前に叩き込んだ学園の図面を頭の中で広げた。
幸田君達は、資料室に向かった筈。
確か、資料室は一階の……
放課後だけあってか、生徒が居ない階段を飛び降りるように駆け降りる。
一階にたどり着き、すぐ傍の角を曲がると、遠目に、うずくまる斉藤先輩とその隣でオロオロとした様子の幸田君が見えた。
私は素早く回りを確認しながら幸田君の下へ急ぐ。
今のところ、周囲には不信な人物等は確認出来ない。
近付くにつれて、彼等の周りの床には、ガラスの破片が散らばっているのに気付き、更に足を速めた。
「幸田君!」
私に気付いた幸田君が、顔を上げこちらを振り向いた。
見る限り、幸田君は傷一つ、ついていない。
怪我の無い様子に、ホッと胸を撫で下ろす。
幸田君の傍まで近寄ると、幸田君の両手が私の腕を掴んだ。
力いっぱい掴まれた腕から、微かな震えが伝わってくる。
「尾崎! 斉藤先輩が!!」
幸田君の切羽詰まったような声が廊下に響いた。
私は咄嗟に目を斉藤先輩に向ける。
座り込んでいる斉藤先輩の左側の額から細く血が流れ、制服のブレザーに点々と染みを作っていた。
よく見ると、ブレザーのいたる所にもガラス片で傷ついたのだろうか、刃物で切られたような傷が小さくついている。
「斉藤先輩、触りますよ」
私は返事を待たず、斉藤先輩と目線が合うようにしゃがみ込んだ。
額の傷は、出血はしているが、見た限り深い傷ではないようだ。
ブレザーからハンカチを取り出し、出血している額の傷をそっと押さえる。
「他に怪我はしていませんか?」
斉藤先輩は「ああ」と、短く返答し、切れ長の瞳で私をしっかりと見上げた。
意識もはっきりしているようだし、大丈夫だろう。
そう判断し、周りに視線をめぐらせる。
床に飛散したガラス片、廊下側の窓ガラスは、無残に割れ無数のひびが何本も入っていた。
「ここで、何があったんですか?」
私の問いかけに、幸田君は少し戸惑ったように口を開いた。
「え、えっと……急に窓ガラスが割れたかと思ったら、斉藤先輩が俺をかばって」
「ボールが飛んできたんだ」
「ボール?」
斉藤先輩の視線を辿った先には薄汚れた野球ボールが転がっていた。
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