A
☆
――ヘリポート――
三十センチ程の厚みのある鋼鉄の扉を開くと、夏の熱気と潮の香りが俺達に向かって吹き付けてきた。
外に出れば、肌を焦がす太陽の光が容赦なく降り注ぎ、室内に居た時には感じる事がなかった暑さに、じんわりと汗が滲むのを感じる。
学校のグランドよりも、更に一回り広い敷地には、既にヘリコプターが一機着陸し、周囲には、作業服を着た整備士達が、忙しそうに仕事をしていた。
地面に降り立ったヘリコプターの傍には、懐かしい。と、まではいかないが、久しぶりに見る顔ぶれが並んで立ち、上空を見上げている。
何を見ているのだろう?と、彼らの視線を辿り、空を見上げてみると、青空に黒い点が浮かんでいた。
それは次第に近付いているようで、低く鈍い音が、徐々に大きくなってくる。
「美咲先輩、香山先輩」
俺の呼びかけで、二人は俺達の方へと振り返った。
「幸田君、久しぶり」
「皆、元気そうだねー」
白いシャツの下にダークグレーのTシャツ、黒っぽいデニム姿の美咲と、ブラックのジップパーカーの下にピンクのタンクトップ、デニムといった姿の香山が、潮風に髪を揺らしながら笑う。
「お久しぶりです。美咲先輩も香山先輩もお元気そうでなによりですよ。ところで、アレって……」
俺達は再び視線を上へと戻した。
上空のヘリコプターは、既に点から、輪郭が判る程まで近付いてきている。
「うーん、どうやら、あのヘリも、ここへ来るみたいだな」
秋月は軽く背後を振り返り、少し離れた場所にいるケイトに視線を向けた。
ケイトは、作業員の人達と、難しい表情をしながら、何かを話し合っている。
「何かあったようだな」
斉藤が、ポツリと呟き天を仰ぐ。
ヘリコプターは、轟音を立てながら、俺達のほぼ真上までやってきた。
何度か旋回すると、ゆっくりと機体が降下しだす。
身体ごと吹き飛ばされそうな突風が吹き荒れ、服や髪が引っ張られるような感覚に思わず目を瞑る。
次第に風が緩み、大きな機械音も、小さくなってきた時、ヘリコプターの入り口が開いた。
入り口には、白のヘンリーネックのTシャツにベージュのズボンを穿いた細身の青年が立ち、少し長めの黒髪が風に舞っている。
飛び出すように地面に降り立った青年は、わき目も振らず、真っ直ぐに、こちらに向かってきた。
青年が、俺達に近付くにつれて、彼の顔が端正な造りだという事が、見て取れる。
男性とも女性ともつかない、不思議な顔立ちだが、筋の通った鼻や、くっきりとした二重の目に、均整の取れた唇が、絶妙なバランスで配置されていた。
美咲も奇麗な顔立ちで中性的な方だが、美咲のそれよりも、彼は、ほんの少し女性的かもしれない。
青年は、呆けている俺達を通り過ぎ、その先のケイトの前までいくと、ピタリと立ち止まる。
ヘリコプターのエンジン音等で未だ騒音が絶えない環境の中にも関わらず、静かだが、怒気を含ませた彼の声が、俺達の耳に入ってきた。
「凛は何処だ?」
☆
[前へ][次へ]
[戻る]
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!