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「幸田君は、ロンさんが気に入ったようですねぇ」

「え?」

香山の声で、お互いに視線を合わせたままだった事にようやく気付き、慌てて視線を逸らした。

「圭一、恋愛に性別なんて関係ないぞ。俺は応援するからな!」

いつの間にか復活していた秋月が、俺の背中をバシバシ叩く。

「なっ、何を言ってるんですか!?」

秋月に、誤解だと文句を言っていると、申し訳なさそうなロンさんの声が聞こえた。

「幸田君……でしたか? あの、申し訳ありません。私も男でして、同性には興味が無くってですね、あの……」

オロオロとした様子のロンさんに俺は慌てて手を横に振る。

「ロンさん誤解です!! 第一、俺が好きなのはり――」

「ロンッ!!」

俺の言葉を遮り、室内に駆け込んできたのは、肩を上下に動かし荒い息遣いのスイだった。

恐らく、ここまで走ってきたのだろう。

「どうして来たんだ? 来るなと言っただろ!!」

「彗蓮、すみません。どうしても貴方が心配だったんです。罰ならいくらでも受け入れる覚悟で来ました。だから、どうか、私を彗蓮の傍に置いて下さい!」

真剣な表情で、真っ直ぐにスイの目を見るロンさんからは、強い意志が感じられる。

スイは目を見開き、驚いた様子だったが、時間の経過と共に顔色を朱に染め、ロンさんから視線を逸らし「勝手にしろ」と、小さく呟く。

くるりと踵を返しスイは部屋を出て行った。

出て行くスイの顔色は勿論、首や耳元まで赤くなっていて……これってもしかして?

スイの背中を見送るロンさんの表情は、嬉しそうなのだが、何処か寂しげだ。

「凛さん、彗蓮から話は聞きましたか?」

「……いえ、まだです。ですが、スイが本当に望むのでしたら、私は断る事は無いと思います」

「――っ、そう……ですか」

俯くロンさんを、悲し気な瞳で凛が見つめる。

「いいんですか?」

「……私のような者が口を挟む事ではありませんので。私は彗蓮の考えに従うまでです」

今にも泣き出しそうな顔を上げ、凛を見やる。

その手は拳が握られ、まるで何かに耐えるように微かに震えている。

「私は彗蓮の並ならぬ努力を見てきました。夢が叶えば、彗蓮は喜ぶ。私は彗蓮の笑顔が見られればそれでいい。ただ……凛さんを利用するのは正直心苦しいですがね」

そう言って微笑んだロンさんの笑顔は、無理に笑っているようで、見ているこちらも、その辛さが伝わってくるように胸が痛んだ気がした。



深夜を回った休憩室で、満天の星が輝く空を小さな窓から見上げる。

このシェルターに来て初めて星の多さに気付いた。

俺が住んでいた場所からは、殆ど星は見えなかったが、見えなかっただけで、ずっとそこにあったんだと気づかされたのだ。

カタンと、物音がし、振り返ると、そこには自販機もどきの淡い光を浴びた凛が居た。

黒いファイルを片脇に抱え、両手には紙コップを持っている。

凛は「はい」と、片方の紙コップを差し出してきた。

俺は礼を言いそれを受け取る。

じんわりと手に熱が伝い、甘い香りが鼻腔をくすぐる。

中身は暖かいココアのようだ。

「圭一が、こんな時間まで起きてるなんて珍しいね。眠れない?」

現在の時刻は、既に一時を回っている。

「……まぁな。凛は――仕事か?」

俺がファイルの方を見ながらそう問うと、凛もファイルに目をやりながら「うん」と、頷いた。

「スイとの契約の書類を作成してたんだ。急ぎだったから、こんな時間まで掛かっちゃった」

そう言えばそんな事いってたなと、昼間のやり取りを思い出す。

スイと契約という事は、俺が守ってもらっていた時のように、ずっとスイの傍に居るって事だよな。

と、いう事は、この先、俺達とは共に居られない……のだろうか。





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あきゅろす。
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