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あの日から




――澄んだ青い空

輝かしいエメラルドグリーンの海

太陽の光を眩い程に反射させている白い浜辺――



を、見下ろせる灰色のコンクリートの要塞



「なんていうか、人参を目の前にぶら下げられた馬の気持ちが判るかもしれない」

こんなに天気が良くて、外には大自然が溢れ返っているというのに、俺は、コンクリートの要塞……正式には尾崎財閥が所有するシェルターから、その魅惑的な風景を眺める事しか出来ないでいた。

窓の外を眺めていた俺の口から、自然と、ため息が零れる。

「……馬。まぁ、あと少しの辛抱だよ、圭一。二学期には桜山学園に戻れるって、兄貴、言っていたし」

後方から聞こえてきた声に振り返ると、黒のハーフパンツにTシャツといったラフな姿をした凛が、苦笑いを浮かべ俺の隣に歩いてきた。

どうやら、俺の独り言を聞かれたようだ。

俺は、慌てて話を変えようと、口を開く。

「もう、トレーニングは終わったのか?」

「うーん、終わった。と言うよりも、逃げてきた……かな?」

えへへと、凛は、曖昧に笑い頬をかいた。

「凛君、発けーん!!」

「うわっ、秋月先輩!?」

陽気な声と共に、凛と同じような格好をした秋月が凛に向かって突進する。

が、凛の元に到達する前に、「ぐぇっ」と、奇怪な鳴き声を上げ、秋月の動きが止まった。

「凛、無事か?」

秋月の首根っこを掴み、凛への突進を阻止した斉藤も、凛や秋月と似たような服装をしている。

「修二先輩、助かりましたよ」

凛は、ホッとしたように肩の力を抜いた。


――あれから、二ヶ月の月日が経った。

俺と凛が、尾崎のシェルターに移り、一ヶ月半程で、待望のワクチンが完成した。

もちろんその間、俺達は研究への協力を惜しまなかった。

深海製薬の研究員の頑張りもあり、思っていたよりも早目に完成させる事ができたのだ。

その後、深海製薬は直ぐに、ワクチンの生成方法を世界へ公開し、更には、ワクチンを無償で配布した。

深海製薬にとって、莫大な利益を得るチャンスだったのにも関わらず、そうはしなかった。

それどころか、ワクチンを無償で提供したのだから、莫大な赤字となったのは確かだ。

五十嵐曰く

『金銭を要求するほど、腐ってへんわ』

だそうだ。

恐らく、事故とはいえ、深海製薬が引き起こした事態への償いだったのではないだろうか。

多くの人の命が失われたのだ。

どんなに償っても、償えきれない事だが、こうやって、行動し、出来る限りの事をやろうという姿勢は、何もせず、ただ後悔しているだけよりも、ずっと、誠実だと思う。


現在は、ワクチンが出来て、既に二週間が経とうとしている。

少しずつだが、事態は沈静化し、落ち着き始めたと、いったところだ。

学校の方は、期末試験も終わり、夏休みへと、突入していた。

俺達に迫っていた危機は、過ぎたと考えても良いのだが、念の為にと、引き続き、夏休み中も尾崎のシェルターでお世話になる事になったのだ。

それは、凛と共に居られる時間が多くなるという事で、俺にとっては、そう悪くない話でもあったのだ――が、夏休みを利用して、一昨日から、秋月・斉藤の両名が、ここに遊びに来ている。

本来なら、必要以上に外部の人間を入れるのは、禁止なのだそうだが、凛の兄貴でもある朔の配慮で、特別に許可が下りたそうだ。

因みに、今日にも、香山、美咲の二人も到着予定だ。

秋月や斉藤の二人でさえ厄介だというのに、このシェルターには、朔は当然の事、龍巳や五十嵐まで居る。

そこに、香山と美咲の来訪となると、更にまた、厄介な人間が増えるという事で……

この機会に凛との関係を深くしたいと、願っていた俺の想いは、完全に打ち砕かれたと言ってもいいだろう。






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あきゅろす。
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