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苦痛により床で蹲る秋月を目にし、少し遣り過ぎたかなと、良心をチクチクと痛ませている俺の隣で「悶え苦しむ姿って、心が震え上がるほど楽しいですよねぇ」と、言葉通り心底、楽しそうな表情で秋月を眺めているのは香山だ。

香山の、その見かけは、穏やかで優しそうな雰囲気を持っているのだが、中身はどこまでも反比例しているように思う。

香山もつい最近まで、こんなにも……黒いというか、恐ろしい性格だとは知りもしなかった。

共に生徒会役員という繋がりがある中でも、香山は、少なくとも俺の前ではその本心を見せようとはしなかったし、俺自身も全くといっていいほど、気付かなかった。

恐らく学園でも殆どの生徒が騙されているのではないかと思う。

なぜなら“天使のような微笑みの優しく頼れる寮長”が周囲の評価だからだ。

天使じゃなくて、悪魔だよ!と、教えてあげたいが、そんな事をしたら、俺の身が危険に晒されるのは判っているので、この事は墓場まで持っていくつもりだ。

知らぬが仏とは、まさにこの事なのかもしれない。

しかし――今さらかもしれないが、生徒会役員って、色んな意味で濃いキャラクターが多くないか?

男女構わず口説いて回る節操なしの秋月会長。

仮面の裏には悪魔が住んでいる二重人格の香山先輩。

口数が少なく感情が読み取れない怪力の持ち主斉藤先輩。

しっかりものの頭脳派で麗しい美貌を持つ美咲先輩……が、まだ、一番、普通っぽい?

俺の視線に気付いた、少し普通人の美咲は「どうかしましたか?」と、華やかな美貌をこちらに向けてきた。

「……いえ、何でもありません」

なんとなく、仲間意識を感じ美咲への好感をアップさせた俺は、ゆるく首を左右に振る。

そんな俺を、美咲は怪訝そうに見てきたが、何かに気付いたようにドアの方へと振り向いた。

俺もつられてドアに目を向ける。

開け放たれたままのドアの端に、スーツ姿の見知らぬ男性が立っていた。

年齢は二十代後半ぐらい。

長身で、ガッチリとした体躯。

黒い髪はオールバック。

髪とお揃いの黒い目は優しそうに細められている。

だが、一番目が惹かれるのは、右頬の、ほぼ真横に伸びた傷跡だ。

肌の色とほぼ同系色になっているので、古い傷跡だと推測できる。

「ロンさん」

彼の名前らしきものを口にしたのは、目を大きく見開いた凛だった。

「ご無沙汰しております、凛さん。この度は彗蓮がご迷惑をかけました」

凛がロンと呼んだ男は、丁寧に凛に頭を下げてから、俺達の方へと視線を巡らす。

「皆様方にもご迷惑をかけたようで、申し訳ありませんでした」

そう言うと、再び頭を下げた。

どうやら彼はスイの知り合いらしい。

「尾崎君、この方は?」

美咲が俺も疑問に思っていたことを凛に問いかけた。

凛が口を開きかけた時、男が其れを遮る。

「申し遅れました。私は彗蓮のお目付け役と世話を、任されています。白 崙(はく ろん)と申します」

深々と頭を下げるロンさんに俺達もそれぞれ名前を名乗った。

俺達の自己紹介を、目じりを下げて微笑みながら聞いていたロンさんは、スイとは違い穏やかな人物のようだ。

不意に、ロンさんを観察していた俺と視線が合い、ロンさんは照れたように笑った。

容姿は悪くも無く、秀でて良くも無く……自分も人の事を言えないが普通。

明らかに俺より年上で大人なのに、仕草や雰囲気が、なんだか可愛らしい人だ。

なんというか、ロンさんとは気が合いそう。

ロンさんには失礼かもしれないが、普通っぽい所が凄く安心できる。





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あきゅろす。
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