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「グラス行き渡ったかー?」

秋月は、満面の笑みを浮かべ、俺達を見渡す。

これから、どんちゃん騒ぎが出来るとあってか、よっぽど嬉しいのだろう。

そわそわと身体を揺らし、俺達の手元を確認すると「よしっ!」と満足げに頷いた。

「それではー、皆との再会を祝してぇー、カァンパァーイ!」

意気揚々と声高らかに祝杯を掲げる秋月に続き、俺達もグラスを上げた。

部屋の中央に陣をとった俺達の前には、大人が二人、両手を広げたぐらいの大きさのテーブルに、和、洋、中、色とりどりの料理が、てんこ盛り並んでいる。

どう見ても、六人分の食事の量ではない気がするのだが……

目前にある俺の座高より少し高い茶色い山は、積みあがった唐揚げだ。

頂上には、日の丸旗が刺さっていて、微かに揺れている。

……というか、絶対に違うだろ。

「圭一! 今日はお金が掛かるとか遠慮せずに好きなだけ食べてね! 祝い事なんだからお腹いっぱい食べなきゃ! 他に食べたい物があったら追加もできるよ」

もしかして、この大量の料理って――

「俺の為に?」

凛は、肯定するように、にっこりと微笑んだ。

「あー、圭一の胃は、ブラックホールだもんな。一気に六食分ぐらいペロッと食べるし。よくもまぁ、そんな、可愛いらしい身体に入るよな」

俺の胃がブラックホールなのは、自分でも時々そう思うからいいとして――
可愛いってなんだよ。
小さいって意味か?そうだよな?

「……小さくて悪かったですね」

秋月を睨み上げるが、俺の怒りは全くといっていい程、伝わっていないらしい。

へらへらと笑み崩れた顔で、俺の頭をわしゃわしゃと撫でてくる。

「あれれー? 怒ったの? やだなー、可愛いって誉めてるんじゃないかー」

殴りたい。と、思ったのはコレが初めてではない。

だが、一応、い・ち・お・う、秋月は先輩だ。

しかも生徒会長で、生徒会役員の仲間でもある。

ここで殴り合いの喧嘩なんかしたら、今後の業務に支障をきたすかもしれない。

押さまれー、俺の怒り。

この怒りは、秋月が学園を卒業するその時まで、とっておくんだ!

ビバ!お礼参り!!

一人、物騒な自己暗示をかけていると、斉藤の手が俺の背中にやんわりと置かれた。

どうやら、俺の怒りを宥めようとしてくれているらしい。

「有難うございます」と、お礼を言えば「いや」と、無表情にそっけなく返された。

「大丈夫」

「は?」

斉藤の大丈夫の意味が判らず、間抜け面をしていると、苦笑いを浮かべた凛が、補足してくれた。

「圭一は、まだまだ、これから身長が伸びるから、大丈夫だよって、事ですよね?」

凛に問いかけられ、コクリと斉藤が頷く。

最近判った事なのだが、傍から見れば、常に無表情にしか見えない斉藤は、自分では常に笑顔のつもりなのだという。

つまり、感情が乏しいと思われていた斉藤は、無表情の下でも喜怒哀楽はしっかりとあると言うわけだ。

だが、その喜怒哀楽を判断できる人間が少ない。

少なくとも、学園ではそういう人物は見たことがなかった……凛を除いては。

凛も斉藤の感情がなんとなく判るようになったのは、最近のことらしい。

『少しだけだけど、斉藤先輩ってちゃんと感情、顔に出てるんだよね』

とは、ついこの間、凛から聞いた言葉だ。

――出てるのか?

じっと斉藤を見つめてみるが、やはり能面のようで感情の“か”の字も伺えない。

それでも凛には判るのだから、俺とは比べ物にならない観察力を持っているということだろう。

素直に関心すると共に、それだけ、凛は斉藤を観察しているのだと思うと、心のどこかでドロリとした、不快なモノが溢れてくる。

自分の心の狭さに、ほとほと呆れてしまうが、それでも思う気持ちは留まる事を知らないかのように、膨らんでいくばかりだ。

いつの日か、この気持ちが破裂した時、俺はどうなってしまうのだろうか。

ふと、顔を上げれば、皆と楽しそうに談笑する凛が眼に映る。

あの笑顔を……凛を傷つける事だけは……したくない。





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あきゅろす。
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