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――ミーティングルーム――


休憩を終え、廊下で、すれ違った同僚に兄の居場所を聞き、向かった先は、本日二度目のミーティングルーム。

厚い鉄板で出来た硬質な扉をノックしようと手を構えると同時に、扉が開かれた。

「おっ、と」

扉から出てきた人物は、龍兄と五十嵐だ。

龍兄は、少し驚きながらも、直ぐにいつもの穏やかな笑顔を私に向けた。

「凛、丁度良かった。今から凛に会いに行こうと思っていたんだよ」

「え、私に?どうかしたの?」

「うん、俺と五十嵐、一旦家に戻る事にしたんだ。状況も一段落したし……仕事の方も少し気になるしね」

「……そっか、帰っちゃうんだ」

苦笑いを浮かべる龍兄を押し退けるようにして、五十嵐が私の目の前に立った。

「俺が居なくなったら寂しいやろうけど、泣いたらあかんで」

「五十嵐さんに関しては、絶対に泣く事はないので安心して下さい」

「またまた、強がっちゃって、凛は照れ屋やなー。可愛いなー、もー」

五十嵐は私の頬を指でつんつんと突いてくる。

「どこをどう考えればそうなるんですか」

いつも、全身を使って嫌だと表現しているにも関わらず、五十嵐の何処までも自分に都合の良い解釈を起すプラス思考には、ある意味脱帽モノだ。

付いていけない所為か、頭がクラクラしてくる。

に、しても、ここ最近、ずっと一緒にいたので、忘れそうになっていたが、龍兄も五十嵐さんも、ちゃんとした社会人で、財閥の子息でもあって、当然、仕事もあるんだよね。

なのに、それにも関わらず、ここに留まっていたのは……

私は二人を見上げ、口元を緩めた。

「龍兄、五十嵐さん、一緒に居てくれて有難う。とても心強かったよ!」

大きな事態の渦中で、どうなるか判らない不透明な未来に、不安が無かったと言えば、やはり嘘になる。

そんな中、心許せる人達が傍に居てくれた事は、大きな心の拠り所であり、不安も和らげてくれた。

それは、私だけではなく、圭一にとっても同じだったと思う。

「好きでやっていた事だったんだけどね。でも、凛がそう感じてくれていたなら嬉しいよ」

龍兄は、ポンポンと私の頭を優しく撫でた。

その暖かさが、胸にじんわりと沁みて、きゅうっと、切なさが込み上げてくる。

龍兄と……まあ、五十嵐さんとも、離れるのは少し、いや、かなり寂しい気もするけど、これ以上、迷惑はかけられない。

皆、それぞれ、やらなくてはいけない事があるんだから――

「また、直ぐに会えるよ。そうだな……凛がココを去る前には、一度、戻ってくると思うよ」

「そうそう、だから、そんな泣きそうな顔すんなや、襲いたくなるや……嘘です、ごめんなさい。ちょっとしたジョークやったんです。堪忍したってください」

突然、怯えだした五十嵐の背後には、いつの間にか兄が鬼の形相で立っていた。

その姿は、まさしく魔王降臨。

「じ、じゃあ、またな凛」

「う、うん。またね」

ギクシャクとした会話を交わし、怯え固まる五十嵐を、龍兄は引っ張るように歩かせる。

兄からの気迫から逃げるように廊下を進む二人の背に軽く手を振りながら、姿が消えるまで見送った。





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