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EVENT
午後2時の嘘 2012エイプリルフール




2012年4月1日
エイプリルフールネタ。
2人は付き合う前。



■午後2時の嘘



「うちの庭にね、
でかいUFOが落ちてきたの!!」

電話越しのハルヒは開口一番、
もしもしもなしに
こんな意味不明なことを口走った。

今日は日曜だ。
折角珍しく早起きしたと思っていたら、
思わぬ人から電話がきた。

この世界はハルヒの何でもパワーで
大抵のことはどうにかなるが、
さすがにUFOが落ちてきたりはせんだろう。
大体、UFOが落ちてきたんなら、
宇宙人も乗り合わせているはずだ。
宇宙人なんかそんなに簡単にいてたまるか…
と言いたいが、
長門という前例があったな。

「ハルヒ、大丈夫か。
とりあえずお前ん家まで迎えに行くから、
そこで待ってろ。
病院へ行く」

精神科か、
それとも脳外科か…

ハルヒの脳をかち割ったら、
何かウネウネした怪しいもんが出てきそうだな。

「はぁ?馬鹿にしないでよっ」

「そんな変なもんが
フラフラ落ちてくるか。
お前のことを心配してんだ」

ハルヒはいつも不思議を追い求めて年中脳内お花畑だったが、
まさか変な幻覚まで見はじめるとは思わなかった。

それにまじでUFOが落ちてきているとしたら、
長門や古泉が黙っているはずがない。
ハルヒの勘違いに決まってる。

「はぁ…あんたって、
本っ当面白くないわね!!
今日の日付を言ってみなさい」

「今日か?4月1日…
あ、エイプリルフール…」

すっかり忘れてた。
ということは、
部屋のカレンダーもめくらないとな。

「そうよ、
騙されたのか騙されないのか、
どっちかにしなさいよ!!
というか、
エイプリルフール忘れてたってわけ?」

あぁ忘れてたとも。
そんなもん覚えてても、
別に何をする予定もないがな。

まぁ、ハルヒがイベントを忘れるはずもないか…

「覚えてたって仕方ないしな。
大体電話までしてくるか?
どうせ昼から部活あんだろ」

土曜だというのに、
SOS団は学校非公認の集団として、
休日の今日も部室棟の一角を占領する予定だ。

「あたしは嘘つくために電話してきたの!!
もう、あんたじゃ面白くないし
みくるちゃんに電話するわ。
古泉君や有希も、
案外騙されるかも」

朝比奈さんは…
まぁ確実に騙されるだろうな。
長門以上に騙されにくいやつはこの世に存在しないし、
古泉は…
まぁあいつは、
空気を読んで騙されたふりをするかもしれんな。

「それはいいが、
今の嘘はやめとけよ。
絶対騙されないからな。
違うの考えろ」

「わかったわよ…
あんたが騙されない嘘に、
古泉君や有希が騙されるとは思わないもの。
じゃ、またあとで!!
1時に部室よ、遅刻厳禁!!」

後半は一方的に叫んで、
俺の返事も待たないまま電話は切れた。

はぁ…
朝っぱらから元気なやつ。

ハルヒがどう頭を捻っても、
古泉や長門を騙せる嘘は考えつかんだろう。
あの2人が本気で騙されるわけがない。

それでも嘘を考え直せと言ったのは、
騙されたフリをしなければいけない古泉がいるからだ。

いくら古泉とはいえ、
あんな低レベルな嘘に騙されたフリをすんのは
少し難しいだろう。
いや、あいつならやってのけるのかもしれないが…

俺も誰かに嘘でもつこうか。
といっても、誰に?
SOS団の面々は1度ハルヒに嘘をつかれてるわけだし、
さすがにもう騙されないか。
妹あたりが有力だな…

って、そんなハルヒじみたことはやめておこう。
小学生を騙して喜ぶとか、
くだらなさすぎる。
ハルヒでもやらない。

昼飯を食べてから集合だし、
早起きしたせいで
まだまだ時間はある。

シャミセンに構ってやるか――




「お前んとこにも、
嘘のための電話はきたのか?」

昼下がりの部室で、
将棋のコマを動かす。

「えぇ、きましたよ…」

コマを手の上で転がしながら
苦笑を浮かべているのは、
SOS団専属爽やかイエスマンの古泉だ。

やっぱりハルヒのやつ、
古泉のとこにもかけてたか。

「騙されたのか?」

「フリ、ですよ。
涼宮さんの機嫌を損ねるわけにはいきませんしね」

俺が騙されなかったので、
閉鎖空間は発生しなかったのだろうか。
まぁそれくらいで
灰色な空間を発生させるほど、
あいつも馬鹿ではないか…

「どんな嘘だった?」

「なんでも、
庭に宇宙人が現れたとか。
さすがに少し困りましたよ。
どう騙されれば…とね」

俺についた嘘と、
ほとんど変わんねーだろ。
UFOを宇宙人に変えたところで、真実味が増すわけもない。

折角古泉に気を使って、
ハルヒに言ってやったのに…
あいつん家の庭は、
一体どうなってんだ。

「一応慌てたそぶりを見せ、
カメラを持ってそちらへ向かいます…
と言いましたが。
涼宮さんも、
僕が騙されたと思ってくださいましたよ」

古泉よ…お前も大変だな。
俺には真似出来ん。

「それは良かったな。
あいつもそれでご機嫌だったってわけか…」

「長門さんも、騙されたフリをしたそうですよ。
朝比奈さんは本当に
騙されたみたいですが」

長門も気を使ったのか…
あの長門が、ね。
それにしてもあいつの騙されたフリとは、
俺も見たかったな。

つまり騙されなかったのは、
俺だけってことか…
エイプリルフールなんて、
覚えてるもんなのかね。

「まぁ良かったんじゃないか。
ハルヒもあぁご機嫌だし」

ハルヒはみんなが引っかかって機嫌が良いのか、
朝比奈さんと長門を引きずり回して、
校内のどこかへ消えた。
今日は鶴屋さんもいたから、
また良からぬことを企んでいるのかもしれんな。

そのせいで俺達は、
昼間っから男2人で将棋板を挟んでいるということだ。

「お前は嘘、ついたのか?」

「いえ、つきませんでしたね。
1人暮らしですから、
つく相手もいませんし」

相手がいたらついたのか?

こいつはいつも
『冗談です』とか言ってるから
エイプリルフールでも
さして変わらんだろう。


それにしても、
――暇だな。

古泉との勝負なんて、
何をしても、やる前から大体結果は見えている。
この将棋板だって、
ハルヒがやってきて蹴散らしたりしない限り、
俺の勝ちだろう。

将棋のコマの音だけが響く
シンとした部室の中、
ふいに古泉が口を開いた。

「好きです」

――何か聞こえた。

「お前が、誰を?ハルヒか?」

「涼宮さんじゃありませんよ」

ハルヒじゃないなら、
朝比奈さん?長門?
いや、森さんという線もある。

古泉を見ると、
いつもの表情で薄い笑みを浮かべている。

…ちょっと待て。
今日は何の日だ?
ハルヒが朝っぱらから喜んでたじゃないか。
危ない危ない。
こんなにあっさり騙されそうになるとは。

馬鹿にすんな、
と言おうとして、
俺はあることを思い立った。

騙されたフリをして、
俺が騙し返してやろうか。

こいつから仕掛けてきたんだ。
俺もやり返したっていいだろ。

「じゃあ、誰なんだ?」

「知りたいですか?」

「あぁ知りたい」

そうですか…、
と古泉はたっぷりためてから、
次の言葉を放った。

「僕が好きなのはあなたです」

……いい加減にしろ。
嘘にも程があるだろう。

そう言ってやりたかったが、
ここは俺も嘘をつき返してやらなければ。

俺の予定では、
古泉が好きだと言った相手と
同じ相手を俺が好き…
という嘘をつくはずだったが、
まさかこうくるとは。

まぁ良い、予定変更だ。

「そうか…そうか。
実は俺も、好きな人がいる」

そう言うと、
古泉は虚をつかれたような顔をした。
ふっ…信じたか?

「涼宮さんですか」

「違う。あいつじゃない」

「じゃあ、どなたです?」

「それは…」

くそ−…
嘘と分かってても、
何か緊張する。

「お前だよ」

…俺、気持ち悪りぃ。

嘘でも俺がこんなセリフを…
女の子にも言ったことないというのに、
初告白の相手が男とは。
早急にネタばらししたくなってきた。

「…それは、本当ですか」

こいつ、まじで信じてんな…
顔が本気だ。
いつものスマイル仮面が消えている。

やべ、嘘でも恥ずかしい。
もうやめだやめだ。

「嘘に決まってんだろ」

薄ら笑いを浮かべて答えると、
古泉はドッと椅子に脱力した。

「…ひどいですよ。
からかわないで下さい…」

何を言うか。
お前が先にこんな嘘仕掛けてきたくせに。

「お前だって馬鹿な嘘つくな。
仕返しだ仕返し」

それなのに
古泉は椅子の上でジトーッと拗ねた顔をしている。
珍しいな、
こいつがこんなに感情をあらわにするなんて。
そんな怒んなよ。

「悪かったって。
でもお前も嘘ついただろーが」

「…ついてませんよ」

まだ意地張るかこの野郎。
こいつ、意外と頑固だな。

「俺のこと好きって阿呆か。
嘘ついてないって、
まじで俺が好きなのか?」

言ってる自分で笑えてくる。
古泉が俺を?
ないないないない。

ところが古泉は
スマイル君の仮面も忘れて、
俺を見つめている。

「…好きです」

「今日はエイプリルフールだ。
それでも信じろと?」

それは無理があるだろ。
大体、
嘘が突拍子もなさすぎる。

「僕は本気です」

「…そうか」

古泉から、本気のオーラを感じて、
思わずそう答えた。

「エイプリルフールだから、
嘘だと思ってな」

「ええ、今日はエイプリルフールですが…
エイプリルフールでも、
嘘をついて良いのは
4月1日の午前中のみだそうですよ。
今は午後2時ですから、
嘘はだめです」

それは知らんかった。

…そりゃ悪かったな、
午後なのに嘘ついて。

だからハルヒも、
わざわざ朝から電話をかけてきたのか。

紛らしいことすんなよ。
なんだ、それとも…

俺がもし『キモい』とか言ったら、『エイプリルフールですよ』と…
そうやってごまかすつもりだったのか?

「返事はいるのか?」

そう言うと、
古泉は情けない顔で笑った。
机の上の両手をしきりに組み替えている。

「…わかっています。
返事は聞かなくとも…
一生言うつもりはなかったのに
言いたくなってしまった、
それだけです。
気持ち悪いですよね、
忘れてください」

忘れられるはずがない。

人生初の告白が男だったなんて
忘れたくても無理だ。
それに俺は…

古泉に告白されたことを、
全く気持ち悪いと思っていなかった。

むしろ、俺で良かった…
古泉の好きな人が、
ハルヒや森さんじゃなくて良かったと、
そう思っていたのだ。

これは…どういうこと、だ?

「俺は気持ち悪いだなんて、全く思わない。
でも、すぐに返事は出来ない。
古泉のことを好きかとか、
考えたことなかったし」

「優しいですね、あなたは」

「優しさじゃない。
とにかく考える。
返事はそれからでいいよな?」

「もちろんです。
あの…ありがとうございます」

将棋板を片付けながら、
古泉が礼を言った。

「…何がだ」

俺は礼を言われることをした覚えはない。
むしろ、将棋の片付けをしてくれている古泉に対して
俺が礼を言うべきだ。

「いえ、
あなたに気持ち悪いと、
罵倒されて当然だと思っていましたから」

俺はそんな嫌なやつか?

谷口とかならまだしも、
古泉からの好意を
気持ち悪いだなんて、
思えるはずがない。

…それは、古泉だから?




俺が古泉に電話をかけて、
俺が午後2時についた嘘を嘘ではないと伝えたのは…
次の日のこと。



――――

エイプリルフールネタを
必死で使いました。
DIARYに言い訳ありです。
内容に違和感を感じた方は
ご一読ください。







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