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「雨が、止みませんね」


黒曜ヘルシーランドで一人、雨が止むのを待っている男がいた。無論骸であるが、晴れであろうと雨であろうと学校は何時も通りに営業している。それでも彼は学校に行く気がしなかった。それは天気に関連した気分の変動という気まぐれなのか、それとも例の件によって学校へ行く目的や意欲すら失ってしまったのか、どちらかなのか定かではなかった。しかし唯一分かっていたのは、彼の気分が酷く落ち込んでいたという事である。

窓からぼんやりと外を見つめながら、骸は自分でも気付かない程小さな溜息を付いた。そして自分が溜息をついたことに少しして気付き、そんな自分に嫌気がさしては視線を移す。そんな事をこの男はもう何十回と繰り返していた。


「僕は、沢田なんて何とも思っていません」

言葉に出すたびに別れの言葉が気に掛る。彼に表情が蘇ってくるばかり。心に棘が刺さったような痛みが溢れ出てくるばかり。

「僕は、誰の事も気に等なっていません」

声に出すたびに雲雀との事がリアルに蘇ってくる。彼の息遣い、声、表情――全てが蘇ってくるばかり。痛みが……占領して行くばかり。

「嘘だ、そんなの、僕は」

僕は、人間なんて――


吐いた言葉が空しく空気に解け込んで行った。彼の心に引っかかる事が警鐘を鳴らしつづける。右目がズキリズキリと痛み始める。彼は誰も傷付けたくなかった。出切る事ならそのまま全てを受け入れていた方が良かったのではないかと思いもした。
だが、彼は結局力を使ったのだ……。

「……僕は、何がしたいんだ」

自分でも良く分からなくなっていた。
沢田を助けた理由が……雲雀の表情を見た時の自分の感情が――自分の本心が何か、骸は段々と分からなくなっていた。
認めたくなかった……自分の心を。
知らないでいたかった……自分の本心を。

でも、骸は気付いてしまった。


「僕は、綱吉……が」

雨の音が響く。暫くの間は止む事は無いであろう雨が、黒曜ランドの壁を強く叩いていた。それは彼にとっては幸いな事だったのかもしれない。それ故彼は自分の言葉を聞かずに済んだのだから――。


しかし、骸は既に心に決めていた。もう迷う必要は何も無くなっていた。彼を今突き動かしているのは、此れまでの他が為にか分からない利用的善意とは違い……ある確定の人物に対する淡い恋情だったのだ。

助けたい、力になりたい。側にいたい、苦しい。
それら全ての感情が骸の心を占領して行く。此れまでの彼ならば自分のプライド故に切り捨てていたそれらを、今回ばかりは容易に捨て去る事が出来ない。

骸の奥底で眠っていた黒き記憶。忘れ去る事の出来ないそれらが今彼を苦しめ、そして再び記憶によって苦しめられるが故に。



――運命は音を立てて回り始めていた。





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