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助けるという行為が唯一人の為にならない時は、人を傷付けながらもその人を救う時だけである。しかしながら彼はその方法を知らない。救うならば人を傷付けずに人にとっても良い方法で人を助けてしまうのだ。だから彼は自ら形作った呪縛によって自らを縛り付け、苦しめる事になる。それを知らずに彼は人助けをしてしまうのだ……。

それが例え痛みを軽減するという名目の対応策であったとしても。


「僕は、君の言うことなど……聞きませんよ」


雲雀の口が首筋を這う時、骸はぞくぞくとした嫌な感じを覚えていた。足が痛みに震えても、彼はそれほどそれを重要視する事無く雲雀に言い放つ。そして雲雀はその恐れを知らない瞳を見てニヤリと笑みを浮かべた。
涙の溜まったその瞳が雲雀にとって見れば耐え難いほど美味しそうに見えたのだ。


「君は分かってない様だね、僕は一度決めたら絶対に意見を揺るがさないよ」
「そんなの分かりません、よ……僕の方が強かったら、君は従わざるを得ないでしょう?」
「ふざけないでくれない? 並盛で一番強いのは、この僕だよ」

トンファーを強めに骸の首に押しつける。息苦しくなり、骸は片手でトンファーを離そうと力を入れた。しかし骸が抵抗すればする程、雲雀は嬉しそうな表情をするばかり。雲雀にとって抵抗する人間を餌食にする事はこの上もなく面白く身震いするほど楽しいこと。
骸がそんな事を知るはずも無く、如何にか彼の側からなれようと試みるのだが、なるべく相手を傷付けたくない骸にとってはとても難しい試みであった。


「本当に美味しそうな子だね」
「っ……!」

ぺろりと頬を舐められて鳥肌が立った骸に、雲雀は追い討ちを掛ける様に首元に食らいつく。痛いと思うぐらい強く噛みついた故に首元には赤い歯型が残った。
あまりにも驚くべき行動に骸は半分脳が停止しそうではあったが、首を振って可笑しくなりそうな脳をなんとか正常に保つ。気持ち悪い、そう思うが否力は抜けていくばかり。そして留めとばかりに耳元で再び雲雀のテノールが囁いた。


「ここで食べてあげる、そして僕の物になりなよ」


気持ち悪い筈の息が彼には居心地の良い物に感じていく。奇妙な幻覚に掛ったような気分になり、骸の瞳はぼんやりとあらぬ方向を向いていた。しかし不意に彼の瞳は綱吉を捕らえる。その困惑し、痛々しい表情を見た時、骸は心の奥底から上がって来る悲しみに自分を取り戻した。そして骸は思う、ここで雲雀から離れなくては自分は永遠にこの男から逃れられなくなってしまうという事、綱吉になんて説明すれば良いのかと。

そう思ったとき、骸は右目に痛みを伴う熱を感じた。それはずっと昔に感じた嫌な記憶に酷似している様だった。


「僕は君のものにはなりません」

「!」

ヴヴンと微かな音を上げて右目の文字が一に変わり、大きく世界が反転し出す。ぐるぐると回り出す世界にバランスがとれる筈も無く、綱吉諸とも雲雀は意味が分からないまま骸から離れ跪く。頭の中に流れ込んでくる痛みと上から掛る圧力に雲雀は吐き気を覚えていた。

「何をしたの」

鋭い瞳で骸を睨むが、その瞳は驚いたように歪む。
何故なら能力を発動した骸の方が今にも泣きそうな表情で蹲る二人を見ていたからだった。それは発動した故の痛みからではなく、明らかに彼の意思が入っての行動だった。しかし骸は自分の心の奥底から湧きあがる痛みと悲しみの訳を知らない。もしかすると半分理解はしていたかもしれないが、揺らがない彼のプライドがそれを認知させようとしなかった。

骸は雲雀から視線を離し綱吉の方へ寄っていく。綱吉もぐるぐると回る世界に胸苦しく蹲っていたが、骸が寄ってきたために一生懸命立とうとした。無論骸は綱吉に手を貸したが、幻覚を解く事はしなかった。


「何処へ行くのさ」
「何処へ行こうと勝手です、僕の勝ちですからね」

雲雀の顔を見る事無く、骸は綱吉の手を引いて屋上から去る。少しして幻覚が解けても、雲雀は普通に歩く事が出来ないでいた。それは平衡感覚が可笑しくなっていたとか、胸悪くなっていたと言う理由ではなく、骸が綱吉の手を引いて屋上を去るのを見ていたからというのが相応しい理由であろう。

雲雀は自分でも気付かない内に骸に対して妙な心を抱いていた。しかし、彼はその心をしっかりと受けとめられ等出来ない。




あきゅろす。
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