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頂き物&捧げ物!
成田作品企画「祝砲を一発」提出作品「RED RED RED!」(誠イリ)



「ああ、嫌な所を見られたね、イーリー」



ヘドが出そうなくらいの爽やかな笑顔で。
まだ硝煙の立ち上る銃を片手に、誠一は足元に転がる一体の男の死体を蹴りあげた。
ぱたり、と男の、銃を握りしめたままの腕がむなしく床に落ちた。
その音だけが、夜の倉庫街に響き渡る。

偶然だった。
たまたま私が通りかかった倉庫街が、今夜誠一が一人で裏の「取引」をする現場だったという。

…初めてだった。
こうして、彼が人を殺したという「現実」をつきつけられたのは。

私も長く誠一の恋人を「演じて」いる。
それほど馬鹿じゃない。
誠一がどんな人間かなんて、多分誰よりもわかっている。
彼は、あの人当たりの良さそうな笑みを浮かべながら、どんな冷酷なこともやってのける。
そして彼は、どこまでも命令に―――ひいては私と組織に、忠実だ。

だからこそこんな風に、平静を保ったまま、組織の為に引金を引けたんだろう。
何ら躊躇うことなく。
もう動かない男の手から銃だけを奪い取る彼の行動が、それを物語っている。

「…なかなか良い代物だ。君にあげるよ。最も…死人の銃なんて、使いたくないかな」

赤に汚れた手で、微笑みながら私に銃を差し出す―――それが狗木誠一という男。
これが「現実」。
頭ではわかっていても、私は…。

「…必要ないわ、誠一。その銃は、あとで兄さんにでも渡しておいて」

「そうか。わかったよ」

血がついたままの銃を、何も無かったかのようにコートの内ポケットにしまいこみ、誠一は倉庫街を後にする。
無機質な堅い足音が、妙に息苦しい。

…彼の赤い手が脳裏をよぎる。
と同時に、私は床に転がる死体に目をやる。
そこには同じく赤いモノがとめどなく流れていた。
どこまでも赤い、血が。

―――これが、貴方の選んだ道なの?誠一。

ふと、そう思う私。
でも、今更なその問いを口にすることはできない。
なぜなら…間接的にとはいえ、かつて彼を、こちらの世界に手招いたのは、私自身なのだから。

恋人の死体を背負い、土砂降りの雨の中を、生きた亡霊のようにさ迷っていた、あの日の彼。
まだ「少年」と言ったほうがいいくらいの、世の中の仕組みを何もわかっていないあの頃の誠一は、どこにもいない。

手招いたのは私。
それに応じたのは彼。

―――それで良いのに。納得できない私は…。

「ねぇ、誠一」

ぴたりと足音が止む。
彼は振り返る。
今度もまた爽やかな笑顔で。

「何だい?」

「…人の血が、どうして赤いのか考えたことはある?」

一瞬だけ眉をひそめたが、すぐにそれは作り物の微笑の仮面に隠された。

「…ないね。それにしても、おかしなことを聞くんだね」

「……」

「…イーリー?」

「赤は、警告の色よ」

彼の言葉など、聞こえていないかのように、私は淡々と告げた。
一瞬にして、彼の微笑が消える。

「…だから?」

「人に警告するのよ、赤色は…。危険だからこれ以上無理をしてはいけないってね…。だから血は、赤い」

「…へえ、面白い解釈だね」

「少なくとも、私はそう思っ…」

「それで?何が言いたいの?」

…今度は彼が私の言葉を遮った。
ひどく鋭利で冷徹な氷の表情は、真意を読み取れない。
壊れた屋根の隙間から彼に降り注ぐ月の光が、ふさわしすぎる舞台を作り上げていた。

―――幕は上がった、ということだろうか。

私は心の中で自虐的に微笑んだ。



「…わからないの?誠一。その赤い血は、あなたに警告しているのよ。馬鹿なことは止めて、もといた場所に帰れって」



一瞬だけ。
ぴしりと彼が凍り付く。
でも、一瞬だけ。

端整で美しい冷笑。
背中がぞくりとする。
悪寒にも近い感覚。
思わず息を飲み込んだ。

彼の形の良い口が何かを告げようと、ゆっくりと開いた。

「……何を言ってるんだい、イーリー」

あくまで笑顔を崩さずに彼は語る。
そこに、数年前までのあの面影はない。
じわじわと腹の底から、煮えたぎらない想いが沸いてくる。

「…とっくにわかってることじゃないか。あの時…君の飼い犬になったあの瞬間から、もうこの生き方は決まっていたんだよ」

―――ああ、彼の『こんなの』を、私は望んでいたのだろうか。

「…いや、言い方が悪いな。何も君がこの生き方を強制したって言いたいわけじゃないからね、そこは安心して。あくまで僕は…僕自身で、この生き方を選んだんだから。君はそれを提示したに過ぎない」

―――それは、私もわかっている。
だってさっきまで、私だってそんなことを考えていたのだから。

「それに、もといた場所になんか帰れない。…帰りたくもない」

―――まるで、自分に言い聞かせてるみたい。

誠一はその時、私の瞳を見つめた。
こちらが息が詰まりそうになるくらい、真っ直ぐと。
そしてトドメの一言は紡がれる。



「だからイーリー、警告なんて無意味だ。あの日から僕は…血に染まりすぎた」



冷静できっぱりとした口調に、彼の言ったことは間違いなく真意なんだと、否応なく感じさせられた。

―――警告は無意味。

彼はこれからも血にまみれていくということだ。
誰かが、何かが、そうさせるわけでもなく。
ただ自ら選んだ道に従って。
赤い手で、引金を引く。



そうか…救いようがないんだ。
私も、誠一も。
気付かぬうちに、引き返せない所まで来てしまっていたんだ…。



誠一が優しく悲しげに目を細めた。
…どんな言葉も、今の彼には通用しない。
虚しくなるだけ。
行き場をなくしたこの思いが、私の中でぐるぐる回る。

本当に、救えない。

そう呟き―――実際に声に出して言ったのか、それとも心の中で呟いたものなのかは自分でもわからなかったが―――私は歩きだす。
誠一も後に続いた。
あとに残されたのは、赤い血。
それは月の光をうけて不気味に輝くのだった。

どこまでも赤く、赤く、赤く…。
私達を嘲笑うかのように…。
ただ、赤く。




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