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花香る季節に



小さな白い花。

花言葉は―――上品。

本当に、ぴったりだ。



差し出されたのは一本の枝。
私はそれを持つ彼に問う。

「…フィーロ、これは?」

すると彼は嬉しそうな顔で。

「エニスにプレゼント」

そう言った。
私がその意味を図りかねていると、彼はまた口を開く。

「綺麗だろ?」

そこで私はその枝の先に小さく咲いた花に気付く。
何の花かはわからないが、小さく可愛らしいそれは清楚な印象を与えた。

プレゼント。
その花をそう呼んで私にくれる彼がとても嬉しくて。
顔をほころばせて私はそれを受け取る。

「ありがとう、フィーロ」

「…えにす」

「…え?」

私を呼ぶ彼の声がなんだか少し違う感じがして、首をかしげながら彼を見上げる。
そこにあったのは、悪戯を企んだ子供のような彼の顔。
実際にかっと笑ってみせて―――或いは少し顔を赤らめながら―――言葉を紡ぐ。

「その花、『えにす』って名前なんだ」

「えに…す?」

―――私と同じ名前…?

「エンジュっていう…日本に生えてる植物の、古い言い回しらしいけどね。ヤグルマさんから聞いたんだ」

「…」

「びっくりしたろ?」

私と同じ名を持つ花。
えにす。
ぼんやり眺めていると、また声がかかった。

「花言葉は…上品」

どこか照れくさそうに紡がれたその言葉は、最後のほうは消え入りそうなくらい小さかった。

「…エニスにぴったりだ」

思わず顔を上げる。
彼は帽子で顔を隠しながら、きまりが悪そうにそっぽを向いた所だった。

「…フィーロ」

今ばかりは彼は顔をこちらに向けようとはしてくれない。
そんな様子が歯痒くもあり―――愛しくもあり。

「ありがとう」

もう一度お礼を言った。
今度はそれにもっと大きな意味を持たせて。






あきゅろす。
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