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朝食カプリッチオ


さあ、始めよう。

今日もこの瞬間がやってきた。

勝負は彼女と朝食をとる時…つまり、彼女と必然的に向かい合う形になる時。

(この瞬間にしか挑もうとしない俺も俺だけど…だって、彼女と自然に向かい合えるのはこの瞬間だけで、あとは俺が意識して彼女のほうを見るしかないわけで)

いただきます。

それがスタートの合図。

俺は心の中でピストルを撃ち鳴らした。

勝負の相手は他でもない俺自身。

臆病で根性無しの俺の性格そのものとの勝負が始まったのだ。

カチャリカチャリ。

ナイフとフォーク、それと皿が朝の食卓に爽やかな音を奏でる。

そんな中俺は、ゆっくりとまずはハムエッグに口をつけた。

まだまだ。

焦りは禁物。

もう少し時間を置いてからでも大丈夫。

そう自分を落ち着かせて、でも時折目の前の彼女に目をやりながら、俺はハムエッグを食べきる。

緊張のせいで味は殆どしなかった。

さあそろそろスパートだ。

ごくりと唾を飲み込み、俺はゆっくりと今まで下を向いていた顔を上げ始めた。

映るのは、俺の一番大事な人。
ずっと側にいてほしい、俺の最愛の人。



(―――その割に、彼女の顔を五秒以上見つめることができないってのは情けないことこの上ないけど)

だから毎朝のこの、彼女と向かい合えるチャンスを生かして。

彼女をちゃんと見つめる訓練をするんだ。

目標は、五秒以上。

さあ息を吸って。

黙々と朝食を頬張る彼女を、視界にとらえて。

行け、フィーロ・プロシェンツォ!

















ご…



かちゃーん。



突如、食卓に響き渡る鋭い音。

金属製の何かが床に落ちるような…。

そこまで考えて、俺は先程まで右手に握っていたフォークがいつの間にか消えていることに気付いた。

代わりに右手に残されたのは―――大量の汗。



それと同時に、音に反応した彼女がびくっと顔を上げた。

勿論、それは彼女を見つめていた俺と視線が交わり合うってことで。

好きな人とお互いに見つめ合う。

誰もが羨むそのシチュエーションで俺は。

身体中が熱くなるのを感じ。


―――床に落ちたフォークを取るのをいいことに、彼女から目を反らした。



(…うわあ、俺かっこわりィ)

フォークを握りしめながらそう思っていると、彼女から声がかかった。

「あの、大丈夫ですか?」

「ああ…ごめんな、びっくりさせて」

「いえ…」

ああ本当に情けない。

彼女と目を合わせたりすることや、

見つめ合うことすら出来ないなんて。

(そりゃ兄弟って見られるわけだ)

そして俺は何事もなかったようにまた食事を続ける。

己のふがいなさと情けなさを、コーヒーと一緒に胃の中に流し込みながら。

(結局、今日も『俺』の負けなのです)




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