[携帯モード] [URL送信]


in the prison



暗闇の中でヒューイ・ラフォレットは暇を持て余していた。
こういう時に手持ちぶさたに考えるのは、遠い昔のこと―――唯一無二の親友や、生まれ育った故郷の思い出―――であったりするのだが、今回彼が空想していたのはつい先ほどの出来事。
目と鼻の先で起こった奇妙な体験の一部始終を、彼は頭に思い描いていた。



貴様の目的は何だ。



音もなく現れた招かざる客は、勿体ぶることなくストレートにそう聞いてきた。
そして、こちらの心を読めば、知りたい答えを得ることができるはずのその客は、「自分がつまらないから」という身勝手な理由だけで、わざわざ直接聞いたのだ。

あの時の客の、唇の端が僅かにつりあがった表情を思い出し…ヒューイは喉の奥でクク、と笑う。
同時にその金色の瞳に、燻火とも言うべき闘志が宿る。
そして独り言のように零れ出た言葉は、宣戦布告ともとれるものだった。

「…上等ですよ、悪魔」

深い声は、そのまま闇に溶けた。



目的ね、と。
ヒューイは心の中で静かに呟く。
不死者の限界を見極めること。
または悪魔を作り出すこと。
それが彼の目的。
しかしその目的に…果たして終わりがあるのかどうか。
そもそも自分の生には終わりが存在しないのだし、さらに同じ境遇の不死者らを自らの研究対象とすることは、まるで答えのないテーマを永遠に追いかけるような…そんな気がするのだ。

目的の先には答えがある。
その常識が、ヒューイにはいまいちピンとこない。
だが、ヒューイはそれでも構わなかった。
寧ろ、そっちのほうが都合が良かった。

そもそもヒューイは、目的の先の答えを望まない。
不必要とさえ思うこともある。
なぜなら彼にとって価値があるのは、その過程で生じる副産物であるからだ。
自分が予測したものであれ、予想だにしなかったものであれ、ヒューイはそれらを愛おしむ。

副産物達がこれからどんな風に狂っていき、どんな最期を遂げ、そしてヒューイ自身にどんな影響を与えるのか…彼はそれを見届けるのが楽しくて嬉しくて仕方無い。
目的の果ての答えなど、もはや彼にとってはオマケに過ぎない。
もし何かの拍子に手に入れられることがあるのだとしたら、その時は有り難くいただくのかもしれないが、しかしそれでは……。



―――。



ふ、と。
ヒューイは笑った。

―――今自分は何を思ったんだろう。
ああ、何てことだ。
私は確かにこう思ったんだ、「それではつまらない」と!
あの悪魔と同じように!

胸に沸き上がる一種の恍惚感に浸りながら、ヒューイはほう、と息をつく。
結局変わりなどないのだ。
悪魔も、自分も。
目的の果ての答えよりも、それに至るまでの過程を楽しんでいる。
まるで世界を自身の手のひらの中で回らせているかのように感じながら。



結果よりも過程を重んじるというのは、ある意味とてつもない人間くさい考えなのかもしれない。
それでもヒューイは悪い気はしなかった。
少し悪魔に近づけたように思えたし、何より、その結論に至るまでの『過程』も、彼にとって意味のあるものであり、興味深い体験となったのだから。





第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
無料HPエムペ!