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Sweet dreams!



眼を閉じるのが怖い。
何も見えなくなるのが怖い。
眠りにつく私はいつも子供みたいに臆病になる。

片目だけの昼間の光が消えるその瞬間が、全ての合図。
私は考える。
このまま夜の闇が私を包み込んで、昼間の光はもう現れないのではないか、と。

そんなの馬鹿げた杞憂だってのはわかってる。
でも、つい考えてしまう。
彼と一緒に過ごす日中は、私が一人になる瞬間を不安なものにさせてしまうほど楽しいから。



「…ニース?」



だからこうやって、おやすみを言いに来た彼を引き止めてしまう。
彼は困ったような、でもどこか微笑んでいるような顔をしてみせた。
刺青がくしゃりと歪んだ。

「…服、引っ張られると、僕、動けないんだけど?」

彼がそう言う。
でも私は彼の服を掴み続けた。
何がしたいでもなく…ただうつ向いて白いシーツを凝視しながら、さらに強く握る。

返す言葉が見つからなかった。
もはや何が言いたいのかもわからなかった。
何がしたいのかもわからなかった。
でももし、このまま彼がドアの向こうに消えて、部屋の中が真っ暗になったら。
私はきっと…どうしようもないくらいの孤独感を抱きながら一人寂しい夜を過ごすんだろう。
それだけは唯一…はっきりとわかった。

ふと、彼が腰を屈めて、ベッドに起き上がっている私と視線を等しくした。
そして、さっきまで彼の服の裾を握っていた私の手を両手で優しく包み込む。
そのまま、ゆっくりと顔を近づけてきて―――。



「…Sweet dreams」



眼帯に、キスをした。



「…!」

あまりに突然なことに、私は思わず顔が赤くなる。
でもそれは彼も同じだったことのようで…やっぱり頬に朱がさしていた。

「いや、てっきり、おやすみなさいのキスがしてもらいたかったのかなって思って…。さ、流石に頬とか唇はその…アレかなって思って」

彼はしどろもどろにそう応える。
暫くもごもごと何かを呟いていたが…やがてきまりが悪そうに、そっぽを向いてしまった。
もちろん、真っ赤な顔で。

そんな彼を見ていると。
私は胸がきゅんと柔らかく締め付けられた。

―――眼帯ごしの彼の口づけの温もりが、とても愛しくて。
でもそれ以上に彼が愛しくて。
私から、今度は本当に彼の唇にキスしたい衝動にかられてしまうけど。

―――Sweet dreams.

彼がそう言ったから。
私が良い夢を見られるようにお祈りしてくれたから。

私は、眠ろう。
もう暗闇なんて怖くない。
彼が素敵な魔法をかけてくれたのだから。

「…ありがとうね、ジャグジー」

「…え?」

「何て言うか、すごく安心したよ。…ありがとう」

最初は首をかしげて、何が何やら、という表情だった彼も、私が微笑むと、つられてにこりと笑う。
無邪気で純真な彼の眩しい笑顔。
ああ、こんな暗闇の中でも、私にとっての『光』は、こんなに近くにいたんだ。

ゆっくりと彼は立ち上がり、また優しくはにかんだ。

「それじゃ、そろそろ…」

「うん。おやすみなさい、ジャグジー」

「おやすみ、ニース」

ふっ、と。
彼が、先ほどまで赤々と燃えていたランプの灯りを消した。
一瞬にして真っ暗になる世界。
ドアが閉まる音がした。
やがて遠ざかる足音。

ベッドの中で私は眼帯をはずす。
そしてその上に…軽く唇を押しあてた。
…温もりが、そのまま伝わってきた気がした。

―――今夜は、いい夢が見れそう。

ぼんやりとそんなことを考えながら、私は満たされた想いで眠りについた。






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