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夜明けの逃亡者


何も言わずに出ていく俺を許して欲しい。
俺なりに、そう、俺なりに色々考えたんだ。
最善の…やり方を。



『…暫くの間さ、ここを離れることになったんだ。なんて言うか、その…ファミリーの仕事で…』

でたらめな虚偽で誤魔化すのか。



『……ちょっとアルカトラズのほうに…。取引、持ちかけられてさ』

中途半端な真実を伝えるのか。



俺は選べなかった。
そんな、彼女にも自分にも嘘をつくような行為を。
だから俺は選んだ。
『何も言わずに出ていく』という、ある意味一番最低のやり方を。



誰もが寝静まった真夜中。
月明かりが差し込む小さな部屋。
窓際に置かれた簡易なベッドの上で、彼女は穏やかな寝息をたてていた。
どうやら俺が部屋に入ってきたことに、気付いていないらしい。

数時間前だ。
いつも通り、彼女と他愛もない会話をして、いつも通り、おやすみと言って、それぞれの部屋に入ったのは。
彼女にとってはいつも通りの日常だったのだろうが、俺はその時覚悟を決めていた。
きっとこれからは当分、この家には戻ってこれない、と。
俺は不死者だ。
彼女も不死者だ。
だから、一生会えないなんてことはない。
わかってる。

でも、だからこそ。



別れはこんなに辛い。



いってきますでもなく。
サヨナラでもなく。
別れのキスでもなく。

ただそっと、『その言葉』は、闇に消える。
俺以外の誰にも聞かれることなく。



君が好きだ、エニス




何も言わずに出ていく俺を許して欲しい。
夜明けが迫ったリトルイタリーの街を、彼女と毎日歩いた街を俺は走る。
何かを吹っ切るかのように。

立ち止まってしまったら、彼女の優しい笑顔を思い出して、泣いてしまいそうで。

一切後ろを振り返ることなく。

一気に駆け抜けた。




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