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違和感ならば幾らでも感じていた。空気を震わせるPSIの濃度はいつもより濃くて、ドス黒い。生き延びた人々の列の一番後ろを歩きながら、異常がスタンダードになった世界で感じる小さな違和感に息を詰めた。

―…何かが違う。
けれど、その何かが何なのかまでは分からない。

「…!」

突然、極近くに巨大なPSIの波動を感じる。強大な悪意の籠ったそれに怯み、警告の言葉を発するのが遅れた。そうしている間にざわりと列がどよめいて人々の足が止まる。逃げろと祭さんが叫ぶのと、俺が地面を蹴って先頭に追い付くのはほぼ同時だった。
ここにはPSIの使えない一般人が山程いる。それにこのPSI波動…イアンさんとは違う、相手は純粋に戦闘タイプのサイキッカーだ。

「***」
「…え……?」

祭さんの半歩後ろに脚が着く、その瞬間に見えた姿に、俺は言葉を失った。見慣れないスーツ姿を少し着崩して、だるそうに地面に立っている男。俺の記憶にあるよりも少しだけ剣を含み、右目が眼帯に覆われているが…間違なく、俺がサイキッカーになってからずっと探し続けていた男だった。

「…どう…して…、」

どうして。どうして。
疑問と驚愕で頭がいっぱいになる。お前がW.I.S.Eの一員?世界をこんな風にした元凶?どうしてお前が…、"お前だから?"それとも"俺がそうさせてしまった?"
驚きで言葉もない俺に、そいつは僅かに笑いながら手を差し延べる。その動作は極自然で、疑問が一瞬頭の中から消えてしまう。

「…俺と来いよ、***」
「***!!」

祭さんに名を叫ばれ、ビクッと身を震わせた。まるで淡い夢を見ていた時のように現状に思考が追い付く。

「民間人を連れて逃げろ!お前の力が必要だ!!」
「ッ…!」

ふら、と数歩後退りして男から視線を外す。

「…イアンさん、先頭を頼みます」
「分かった」

たっ、と足下を蹴って民間人を先導し始めたイアンさんに続き、その場を離れる。酷く混乱した頭では現状を整理出来る訳も無く…ひとつだけ分かるのは、祭さんと影虎さんが命を賭して俺たちを逃がそうとしてくれていることだけだった。俺は、W.I.S.Eを肯定することは出来ない。世界をこんな風にしたやつらを…許すことは出来ない。だから、あの手を取ることは出来ない。

(どうして…、)

泣きそうだった。喉が痙攣するみたいに震えた。話したいのに、顔を合わせて手を触れて、どれだけ探したか伝えて…もう一度、共に歩きたかったのに。

「グラナだ」

巨大なPSIの波を縫って、静かな声が耳に届く。

「グリゴリ01号じゃねぇ。…俺の名前だ」
「っ…!」

立ち止まりそうになる。立ち止まって、振り返って、今すぐあいつの目の前に戻りたい。今度こそ本当に涙が零れた。新しい名前、それが意味するのは即ち、本当の決別だ。

「グラナ…、」

掠れた声で、小さくその名を呼ぶ。あれほど求めていた音なのに、今は酷く虚しいものにしか感じられなかった。







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