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#優しい声(夏目/妖主)

「大丈夫か?」

その声は俺の心を跳ねさせた



愛しい声







『はぁ…はぁ…っ!!』


逃げなきゃ


捕まっちゃう





見つかるといつも追われる。
俺が何したって言うんだ!

供えてある食い物でも盗ったって言うのか?
人に危害でも加えたっていうのかよ!?


俺は


俺はただ…




人が羨ましかっただけなんだ---…。




『(あいてっ!)』


「やったー!あたったぞ!」

「はやく捕まえようぜ!」

「“化けモン”だもんな!」



『(俺は“化けモン”なんかじゃないやぃ!)』



それから必死に逃げて草むらに飛び込んだ。


まだまだ追っかけてくる人の子。

息を殺して俺は隠れる



「あれ?こっちに逃げたよな?」
「どこいったんだ“化けモン”」
「あ!かあちゃんだ!」



離れたところに母親を見つけたらしき人の子は俺を追っていたのを忘れたかのように母親のもとへ走る。


『はぁ…』



俺はその場から少し離れ変化を解く。



『おでこ…いたい…』



人の子から投げられた石が目の少し上あたりに当たって血が出ていた。



『俺ばっかり…』



悪さをしてる妖なんてそこかしこに居るのに俺ばっかりが追いかけられる。


ただ、人の生活を見たかっただけ。







ガサガサ、







びくりと心臓が跳ねる。
また石を投げられるのか
追いかけられるのか…



音のする方に目をやるとバッチリ目が合った。



『ひっ!』


「大丈夫か?」



予想とは全然違う言葉が降ってきた。追いかけてきた人の子よりも大きな人の子。




『…え?』


「さっき子供に追いかけられてただろ?心配で見に来てみたら…ここ、血出てるぞ」


自分のおでこを指差して俺の手をひく人の子


『な、なに?』

「何って…ここじゃ手当て出来ないだろ?」

家に行くんだよ、と俺の手をひく人の子に逆らえなくて、…ついて行きたくなった。

無言で道を歩く。

こんな大きな人の子に見つけられたのは初めてだ。


『あ、う…お、お前、なんで俺…』
「“なんで俺が見えるのか”って?」
…うん…
「…さぁ、なんでだろうな」


前を見たまま答えてきた人の子。手は握られたまま。



「お前、名前は?」

『…権兵衛』

「権兵衛か、いい名前だな」

ふわり、と俺の方に微笑んだ人の子に目が奪われた。綺麗だと思った。


『お、お前の名前…は?』


「夏目。夏目貴志だよ、」



『(…夏目)』



夏目の名前を聞いて心が温かくなった気がした。




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妖にさり気なく優しい夏目くん。人の子に初めて優しくされた主人公。

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あきゅろす。
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