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手折られた薔薇



手折られた薔薇



僕の仕えるルルーシュ殿下は、とても気さくな方だ。
それに聡明で美しい。
その頭脳は傾きかけた国をわずか一年で建て直し、その美貌は時に戦争を引き起こす。
そんな殿下に仕える僕が一番嫌いなのは、朝だ。
毎日の日課にルルーシュ殿下を起こしに行くというものがある。
僕にとってこの時が一日で最も至福の時でもあり、苦痛でもある。
今日も大きく溜め息を吐き、殿下の私室の扉を開けた。
殿下の私室は物が少なく、とても落ち着いた黒で統一されている。
それは、殿下が几帳面で尚且つ黒色を好んでいるからである。
どうやら殿下はまだお休み中のようで黒いシーツの波に沈み、布団を上下させている。

「殿下、朝です」

少し声をかけたくらいでは起きない殿下は、やはりまだ睡眠を貪っている。
それでも僕は触れることなく殿下を起こさなければならない。
触れてしまえば、無防備な殿下に不敬を働いてしまいそうだからだ。
しかし、困ったことに殿下は触れなければ起きてくれない。

「ルルーシュ殿下、起きてください」
「……んぅ」

色っぽい声を発したかと思えば、シーツの波から艶のある黒髪が現れた。
それでもまだ起きない殿下に僕は仕方なくシーツへと手を伸ばし、肩らしき部分を揺すった。

「殿下、起きてください」
「……んぁっ」

悩ましげに潜められた眉は、それでも美しさを失うことはない。
布団から顔を出した殿下は頬を朱に染め、潤んだ瞳で僕を見上げた。
癖のない黒髪は、殿下のロイヤルパープルの瞳に良く映える。

「ス、ザク……」
「おはようございます、ルルーシュ殿下」

殿下は布団から顔を覗かせているだけで、動こうとしない。
まだ眠いのか、今にも目を閉じてしまいそうだ。

「スザク」
「何でしょう?」
「手を……手をどけてくれないか?」
「し、失礼しましたっ」

はっとして殿下の上から手を退けた。
それから殿下は上体を起こし、目元を手の甲で擦った。

「本日のモーニングティーは昨日シュナイゼル殿下から頂いたハーブティーをお持ちいたしました」
「兄上から?いらない」
「ですが、」
「兄上からの贈り物に毒が入ってない確証なんてどこにもない」

ぴっしゃりと言い捨てられてしまえば僕には意見することもできないし、また殿下の命に従わなければならない。
ルルーシュ殿下は義兄弟たちとは仲の良い方ではあるが、なぜかシュナイゼル殿下だけは毛嫌いされている。
その理由を僕が殿下に聞くことはないし、殿下も話すことはない。
でも、シュナイゼル殿下の贈り物に毒が入っていると疑うならば、少なからず僕のことは信頼していてくれているということだろうか。

「とにかく、今後一切シュナイゼルからの贈り物は俺のところに持ってくるな」
「イエス、ユア、ハイネス」

床に跪き片膝を立て、頭を下げて返事をすると殿下はクスクスと笑った。
ベットから手を伸ばし、僕の頭に手を乗せると数回掻き回すように撫でた。

「そういう従順なところが好きだよ、スザク」

目を細めて笑うその仕草に胸が高鳴った。
この瞬間が最も戦争を起こしてでも手に入れたがる人の気持ちがわかる。
この人が手に入るのならば、いくら金を詰んでもおしくないだろう。

「スザク、お前だけは俺を裏切らないでくれ」

殿下はそう呟いて、シャワールームへと消えていった。
僕も急いで後を追い、タオルを持って殿下を待った。

「僕は殿下を裏切ったりしません」

本人を目の前にして言えなかったことを言ってみる。
殿下を慕っている僕が、裏切る真似をするはずがない。
そう信じて疑わなかった。










「……でん、か……」

信じていた。
今日、この瞬間、ルルーシュ殿下が皇帝陛下を殺めるまで。
僕が殿下を裏切るはずがないと。
けれども、あっさりとそれは壊れた。
大切に大切に護ってきた人が、僕が忠誠を誓った国の王様を殺した。
僕が裏切られたような気がした。

「スザク……俺の騎士」

愛おしむような眼差しで、僕を捕らえたロイヤルパープル。
けれど、そこに僕が恋した美しい光を宿してはいなかった。
一人の皇子が闇へと堕ちた。
彼のたった一人の騎士を置いて。



*END



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