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穢れた孤高の薔薇



穢れた孤高の薔薇



そう、俺の心を乱すのはいつだって貴方だけ。
誰にも飼われるな。
誰にも繋がれるな。
誰にも心を許すな。
だけど、貴方に対してだけは醜い心に俺は支配される。

「俺は、アンタを殺すまでは死なないよ」

あの日、誓ったのだ。
家族を失った痛みを、悲しみを、そして憎しみを忘れないと。
いつの日にか、復讐を遂げてみせると。
なのに、いつの間にか憎しみが愛しさに変わっていた。
だけど、俺はそれを否定し続けた。
抱いてはいけない感情なのだ。
自分を騙してでも、否定しなければいけない気持ちなのだ。

「俺はアンタの言いなりにはならないよ」

頬へと伸ばされた手に心の底から歓喜したと同時にその手を叩いた。
触れてはいけない。
その手に堕ちてはいけない。
今までせき止めてきた感情が表に出てしまうのが、恐い。

「まるで手負いの狗だな」

叩かれた手を見たテキライの目は、恐ろしく冷たい残酷な目だった。
テキライの少し伸びた爪を頬に当てられ、少し血が滲み出た。
それをテキライは親指で拭うと俺の唇をなぞった。
生温い感触が脳神経までも麻痺させて、気づけば身動きひとつとれなくなっていた。
壁に追い詰められ、テキライの片足が脚の間に割り込まれ、両手は壁へと縫い止められてしまっていた。

「……っ!……んむっ……ん!」

テキライに強引に唇を奪われ、俺は必死に息をしようと喘ぐ。
開いたわずかな唇の隙間からテキライの舌が滑り込んできた。
それと同時に口内いっぱいに広がる血の味。
今の俺には、どうも甘く感じてしまった。
しばらく口内を荒らしていた舌が離れ、唇が離された。
飲みきれなかった唾液が、みっともなく顎をつたった。

「……甘い」
「ん、はぁ……ふ、殺してやるっ」
「なら、その手で殺してみせろ」

テキライが俺の腰に提げた銃を一丁取ると俺の手に握らせた。
そのまま自分の胸に銃口を押し当て、俺の指を引き金にかけた。

「殺したいなら撃てばいい」

どうして、殺されたがるのですか。
あんなにも俺のプライドをずたずたにしてきたのに。
どうして、今更殺されたがるのですか。
実力では誰にも負けないのに。
俺に殺すように仕向けるのは、なぜですか。
悲しいことに今の俺の実力では、到底テキライに敵うはずがない。
でも、テキライを殺せるまたとないチャンスだった。
俺に残されたわずかな時間の中で、テキライを確実に仕留めることができる。
憎しみを、復讐を、遂げることができる。
なのに、なぜ戸惑う。

「早くしろ」

早くしろと言うくせに、どうして、そんなに穏やかな目をしているのですか。
まるで、殺されることを望んでいるかのように。
自分で死ぬこともできるのに、どうして、俺に引き金を引かせようとするのですか。
まるで、俺に殺して欲しいかのように。
テキライ、貴方の思惑が俺にはわからない。

「最期だから……アンタは俺にどうされたいの?」
「     」

俺は頭が真っ白になった。
握らされた銃を落としてしまいそうなくらい動揺した。
テキライは、今、何と言った。
俺は、どうして、こんなに動揺している。
わからない。
何もわからないんだ。

「トネリコ」

初めて、名前を呼ばれた。
引き金にかけられた指にテキライの指が重なった。
テキライは、俺がなかなか殺らないから自分でこの引き金を引く気だ。
恐い。
俺は、まだその言葉の真偽を確かめていない。
恐い。
俺は、復讐を遂げたら生きる目的がなくなる。
俺は何の為に生きているのか、わからない。
それでも、指は勝手に引き金を引いていく。
乾いた音と銃口から上がる焦げた匂い。
慣れたはずのそれに俺の胸は高鳴る。

「……ぃ」

俺が撃った弾はテキライには当たらず、天井に当たった。
ここまできて気づいてはいけない感情に気づかされてしまった。
嫉妬や憎しみではなく、これは愛しさなのだと。

「できないっ! 俺にアンタを殺すなんてできない……っ」

テキライの胸に縋るように俺はしな垂れかかった。
嫌がることも、拒むこともせず、テキライはただ受け止めてくれた。
テキライの腕の中にすっぽりとおさまる俺は、その温かさに泣いてしまった。

「俺が、アンタのこと好きだから……っ」
「やっと認めたな」

耳元で聞こえる声に心地よさを覚え、夢の中へと旅だって行った。



*END



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