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窓の外の雨



窓の外の雨



窓の外は、しとしとと降り続ける雨。
こんなにも退屈なのは、誰もいないからだろうか。
いつも授業が終わると俺は図書室で本を読んで、気が向いたら帰る。
だけど、今日は生憎の雨。
雨は、まったくやむ気配を見せない。

「だから、雨は嫌いなんだ」

誰も雨が降っても迎えに来てくれない。
俺はいつも誰かが来てくれるのを期待して、傘を持って来ない。
いつまでもいつまでも待って、日直の先生に帰れと言われるまで帰らない。
来るはずのない待ち人を何時間も待って、結局は一人で帰る。

「安倍、まだいたのか……もう帰れよ」
「あ、はい」

日直の先生が戸締まりに来た。
俺は重い腰を上げ、一人廊下を歩く。
校舎を出ても、やはり雨は降っていた。
傘なんて、持っていない。
鉛色の空を恨めしく見上げて、俺は盛大な溜め息を吐いた。

「おい」
「……えっ」

肩を掴まれて、僅かに身体が後ろに傾いてしまった。
この後に来るはずの衝撃を予想して、目を堅く閉じる。
しかし、一向に衝撃は来ず、変わりに何かが俺を後ろから抱き締めた。

「……大丈夫か?」

耳に残る優しい声だった。
心配そうにしている顔を見上げて、俺は直感的に“この人だ”と思った。

「ありがとうございます」
「いや、気をつけろよ」
「はい」

そのまま走って行こうとすると、また腕を掴まれた。
今度は、ぎゅっときつく。
俺は眉間に皺を寄せて、腕を掴んでいる人物を見上げた。

「あの……何か?」
「……名前は?」
「あっ俺、昌浩です!安倍昌浩」
「俺は紅蓮だ」

腕を解放され、俺は紅蓮をまた見上げる。
長身で、精悍な顔立ち。
少し吊り目で、瞳は暖かい金色。

「これ、貸してやる」

そう言って、ぶっきらぼうに差し出されたのは、透明のビニール傘。
俺は受け取ってみたものの、紅蓮は他に傘を持っているのかどうかが気になる。

「いいんですか?」
「俺は別のがあるから大丈夫だ」
「そうなんですか……ありがとうございます」
「土砂降りになる前に早く帰れ」
「あ、はい!」

紅蓮の言葉に背を押され、俺は家に向かって走った。
胸の高鳴りを抑えながら。

これが恋心と言うならば、きっとこの雨は俺と紅蓮が出会うきっかけ。
そして、この傘は俺たちを繋ぐ見えない糸のようなものだろう。



*END



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