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桔梗



桔梗



それは、永遠とも呼べる時の中。
静かな夜。
雲はゆったりと流れ、輝く月が見え隠れしている。

- * - * -


ひんやりとした空気が昌浩の頬を撫でた。
不意に妻戸の向こうに気配を感じ、昌浩は茵から抜け出すと妻戸を少し開けた。
そこには、小さくうずくまっている玄武がいた。

「……玄武?」
「ああ、昌浩か」

妻戸の隙間から名前を呼ぶと、どこか大人びた口調で言葉が返ってきた。
月が雲の隙間から覗いて、辺りを明るく照らした。

「あの、さ……彰子、守ってくれて、ありがと」
「我には、それくらいのことしかできない」

小さく開けた妻戸の隙間から昌浩は言った。
玄武の言葉通り、玄武は闘う術を持たない。
だから、主や昌浩を守る為にその力を使う。
不意に玄武が妻戸に背を向けたまま、昌浩に問い掛けた。

「昌浩は、姫のことが好き、なのか?」

好きだ。
好きは好きでも、また別の好き。
悲しくて、彰子を見る度に苦しくなる。
だから、昌浩は彰子の笑顔を見る度に弱かった自分を責める。
自分に守れるほどの力があったならば、彰子はあんなことにはならなかった。
そうやって自分を責め続ける。

「……好きだよ」
「我よりも?」

その問いの答えは返ってこなかった。
代わりに、部屋から出てきた昌浩が玄武を後ろから抱き締めた。
背中に感じる昌浩の体温。

「玄武は特別……愛してる」

耳元で囁かれた甘い言葉。
頬にそっと触れる唇。
それは、熱くて、どこまでも優しい。

「愛してる、昌浩」

囁いた言葉は、昌浩には届いていないだろう。
本当は一緒にいたいのに。
ずっと傍に居て欲しいのに。
流れていく時には逆らえない。
でも、たったひとつ……変わらないものがある。
それは、君への愛。



*END



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