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君がすべて



君がすべて



あたたかい日差しに包まれて、縁側に座り込んでいた昌浩は眠りかけていた。
異様なまでの眠気に勝てず、昌浩はそこで眠ってしまった。

- * - * -


規則正しい寝息をたてている昌浩の隣に玄武が顕現した。
そして、昌浩の隣にそっと腰を下ろす。
昌浩は何やら寝言で呟いていて、途切れ途切れで何を言っているのかまではわからない。
玄武の細い肩に無意識のうちに昌浩は頭を乗せていた。
その仕草がまた、玄武にとっては愛おしくて仕方がなかった。
ぎゅっと玄武の胸元の服を握り締めている。

「昌浩……」

愛おしげに恋人の名を呟いた。
昌浩は少し身じろぎしたくらいで、起きる気配はない。

「玄武……す、き……」

昌浩の唇から紡がれた言葉に驚きつつ、玄武は昌浩を抱き寄せた。
艶めかしく流れる漆黒の髪を数回手櫛で梳いてやる。
擽ったそうな顔をして昌浩は、瞼を上げた。
完全に目覚めていない昌浩は目元を何度も擦りながら、欠伸をひとつした。
首を巡らせて、今自分の置かれている状況を察した昌浩は急に立ち上がった。

「げげげげげ玄武っ?!」

頬を真っ赤に染めて、動揺を隠せない様子の昌浩。
狩衣の胸元を握り締め、辺りをキョロキョロと見渡した。
誰もいないことを確認すると昌浩は玄武の隣に腰を下ろした。
無造作に投げ出された玄武の手を上から覆い被せるように握った。

「玄武……」

甘い囁きのような声で、昌浩は恋人の名を口にする。
ぎゅっと手を握って、玄武に甘えるようにもたれ掛かった。
それを愛おしそうに玄武は昌浩の頭を抱き寄せ、額に口付けを落とした。

「ん……」
「昌浩」

恥ずかしそうに頬にほんのり朱を宿した昌浩に玄武は目を細めた。
そして、大切なものを壊さないように優しく抱き締める。
昌浩は玄武の胸元に鼻を押し当てるような格好になっていた。

「玄武、くる、し……ぃ」

苦しそうに昌浩は、玄武の背中を数回叩く。
はっと我に返った玄武は、抱き締める腕の力を緩めた。
愛しさが独占欲に変わっていく気がした。
愛しくて愛しくて、大切だから閉じ込めてしまいたい。
必要だから傍にいてほしい。

「ね、玄武……寂しいの反対は何だと思う?」

昌浩の問いに玄武は眉を微かに動かしただけだった。
悲しげに揺れる茶色がかった瞳が玄武を捕らえて離さなかった。

「俺は……愛しいだと思うんだ」

いないと寂しくて、いると愛しいと思うから。
傍にいるのが当たり前になりすぎて気づかなかった。
周りを見ようとしなかったから。

「俺は玄武がいないと寂しいよ」

求めているのはお互いで。
すぐ近くにいるだけで、安心する。
だから、愛しい。

「昌浩がいないと生きていけない」

そう言って玄武は昌浩の額に口付けを落とした。
愛しさと寂しさのふたつを込めた優しい口付けを。

「俺もさ……玄武のいない世界なんて考えられないから」

どちらかがいない世界なんて存在する意味ない。
ふたりがいることで初めて世界は意味ある存在になる。
どちらかがいなくなったら。
世界からふたりの存在が一緒に消える。



*END



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