愛して欲しい
俺の恋人は、俗に“無口”と呼ばれる分類だ。
本当に口が無いのかと思うほど、必要以上のことは喋らない。
おまけに、その言葉の無さをカバーする態度も持ち合わせていない。
- * - * -
自分でも、どこが好きなんだろうっと思う時がある。
見た目?
長い髪と目が綺麗だってのは、誰にも言えないことだけど。
性格?
寡黙すなわち、あまり喋らない人だ。
態度だって素っ気無い。
ちょっと、スキンシップは過剰かもしんない。
スキンシップ?
その、やたらと手を繋ぎたがるとか。
繋ぎたいって言うんじゃなくて。
手が何かの拍子に触れた途端、さりげなく握られる感じ。
家にいるときとか、絶対に膝の上に座らせようとする。
距離感ゼロで。
体重バレるから、嫌だって言ったんだけどな。
隣に座るより、膝の上に乗せられる方が多いかも。
そういう行動は、好かれてるなって感じるんだけど。
普段、喋らないのはそういう人だと思えば、目を瞑っておける。
耐えられないことじゃないし。
でも
始終、愛の言葉を囁け、とか。
名前呼び続けろ、とか。
そんなことは言わない。
別に、そこまでしてくれなくていい。
ただ
最低限、声をかけて欲しいだけ。
できれば。
俺のことを気遣って欲しい。
願わくば。
愛してるって一度でもいいから言って欲しい。
わがまま言っていいのならば。
昌浩って、名前を呼んで欲しい。
好きだからして欲しい。
いつだって。
愛されてるって、感じていたい。
我が儘を言えば、不安にさせないように感じさせて欲しい。
要するに、俺は。
愛に飢えているのだ。
そう。
一発で分かるような、明確な愛に。
「ねぇ、青龍……」
「なんだ?」
少し厚めの本に目を通しながら、青龍は素っ気なく聞いてきた。
目を合わせることもなく、じっと本だけを見ている。
「俺のこと好き?」
「ああ」
昌浩は内心、青龍のことが疑わしくて仕方がないのだ。
何をしても素っ気ないし、何より目を合わせてくれない。
「俺はこんなに好きなのに……青龍にとって俺はその程度の存在?」
仄かに漆黒の瞳の奥に悲しい色が宿っていた。
それでも、青龍は本から目を離そうとはしなかった。
「好きじゃないんだったら……別れてよぉ……」
泣きながら訴えてくる昌浩に流石の青龍も慌てた。
本を閉じて、鞄の中にしまうと昌浩を後ろから抱き締めた。
「好きだ……昌浩が好きだ」
耳に残る優しい声が、一番欲しがった言葉をくれた。
先程まで泣きじゃくっていた昌浩は、一瞬で泣くのを止めた。
本当にといった様子で、青龍を見上げる。
不安げな表情をさせたくなくて、青龍は昌浩をもっと強く抱き締めた。
そして、耳元で本当だと囁いてやる。
そんな言葉が嬉しくて、昌浩は青龍の頬に唇を押し当てた。
青龍は一瞬、何が起こったのか理解できなくて、なんとも言えない表情をしていた。
「俺、青龍大好きだよ」
少し照れながら、昌浩は笑って言った。
*END
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