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夢現



夢現



「玄武!聞いて……玄武?」

だが、普段ならとうに目を覚ましているだろう時間に部屋の主はどうやらまだベッドの中らしい。

「玄武どうした?具合でも悪いのか?」

掛け布の端からは、艶のある黒髪が覗いているだけだ。

- * - * -


出会ってから何年になるだろう。
ほぼ毎日を一緒に過ごしている少年は、それほど寝起きは悪くなかったはずだ。
不安になった昌浩は熱を測ろうと手を伸ばしたが、手首を引かれそのままベッドに倒れ込んだ。

「ちょっと…玄武!重いって!」

これが本当に悪ふざけなら、とうに一発お見舞いしているところだが、本人はどうやら起きてないらしい。
しがみつくように伸ばされた腕に捕まる。
漆黒の瞳が僅かに覗き、昌浩を認めるとほっとしたように閉ざされた。

「良かった……無事で、間に……合った」

二月ほど前、異形と退治した際に昌浩は玄武に大変な迷惑と心配をかけた。
それだけに悪夢にうなされている少年に申し訳ないような気持ちになる。
しがみついて離れない両腕に昌浩は抵抗を諦めて膝を貸してやった。

「大丈夫だから、それにしても……こんな時間まで寝てるなんて珍しい」

疑問に思いつつ、玄武の上掛けを直してやる。
漆黒の澄んだ真っ直ぐな瞳と堅い口調の玄武だが、こうして眠っていると自分よりずっと長く生きているのに子供っぽくも見える。
玄武の寝顔に出会った頃を思い出して、昌浩は懐かしい気持ちになった。
あの頃、木陰の下ふたりで眠り込んでしまうこともあった。
窓辺から入る朝の風と日差しはやわらかで心地よく、穏やかな時間に昌浩の瞳はとろりと閉じていく。
夢うつつにうなされていた玄武は、覚醒する意識に体がついてこずに驚いた。


−−−−−うん?


なんか……体が熱くて動かな……い?


それに……
うっすらと開いた視界に、ぼんやりと少年のような姿が見える。
自分の体にのしかかる、ふんにゃりとしたものの正体に気づいた玄武は目を見開いた。

「……昌浩!?なぜ……?」

どうやら自分の頭は、昌浩の膝に乗っているらしい。
眩しく見えたのは、昌浩の耳に付いた自分とお揃いの金のピアスだ。
玄武の頭を膝に乗せたまま、その上に覆いかぶさるように昌浩は眠り込んでいるようだった。
頬に触れる柔らかな感触と昌浩の横顔に、玄武はどきまぎしつつもこの上なく幸せになった。


「起きるの……やめよう」


昌浩の膝枕に幸せを感じつつ、どうやら自分も枕にされているようだったが、思わず声をひそめる。
途端に、ガクッと視界が揺れて放り出された。

「……ん、や、二度寝した!?玄武、遅刻する」

昌浩が飛び起きたはずみで玄武は膝から転がり落ち、幸せなひと時は瞬時に終わってしまった。



*END



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